テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2022.12.31

世界の「軍事力」最下位の国は?

 世界的な権威を誇るアメリカの軍事評価機関「Global Firepower(グローバル・ファイヤーパワー)」が、「2022 Military Strength Ranking(2022年・世界の軍事力ランキング)」を発表しました。

 「世界の軍事力ランキング」は、人口、兵力、兵器数、国防予算、各国の地理的位置、ロジスティックス、経済力、天然資源の入手可能性等、50以上の要素を総合的に評価した「Power Index(軍事力指数)」のスコアを国別に算出。総合的な軍事力ランキングを作成のうえ、毎年発表しています(ただし、核兵器は評価基準に含まれていない)。

 では早速、グローバル・ファイヤーパワー版「2022年・世界の軍事力ランキング」から、世界の「軍事力」最下位の国を含む、ワースト5をみていきましょう。2022年は142カ国でのランキングとなっています。なお、軍事力指数は小さい方が上位で、「0」が“Perfect”です。

「2022年・世界の軍事力ランキング」ワースト5

【ワースト1位:アイスランド】
軍事力指数:78.6623、国防予算:0ドル(142/142)、総兵力:0人、現役兵員数:0人(142/142)、予備役兵員数:0人(142/142)、航空機:0機(142/142)、戦車:0台(142/142)、主要艦艇:0隻(142/142)
《参考》人口:354,234人(142/142)、活用可能な人員数:81,474人(142/142)、年間新規成人数:1,779人(142/142)

【ワースト2位:ブータン】
軍事力指数:35.8958、国防予算:28,908,000ドル(138/142)、総兵力:8,000人、現役兵員数:8,000人(79/142)、予備役兵員数:0人(140/142)、航空機:2機(111/142)、戦車:0台(140/142)、主要艦艇:-隻(-/142)
《参考》人口:857,423人(138/142)、活用可能な人員数:197,207人(138/142)、年間新規成人数:4,287人(138/142)

【ワースト3位:コソボ】
軍事力指数:13.9136、国防予算:112,479,000ドル(125/142)、総兵力:6,500人、現役兵員数:3,500人(84/142)、予備役兵員数:3,000人(43/142)、航空機:0機(142/142)、戦車:0台(142/142)、主要艦艇:-隻(-/142)
《参考》人口:1,935,259人(134/142)、活用可能な人員数:897,960人(131/142)、年間新規成人数:17,417人(133/142)

【ワースト4位:ソマリア】
軍事力指数:11.8854、国防予算:63,934,000ドル(133/142)、総兵力:17,500人、現役兵員数:17,500人(62/142)、予備役兵員数:0人(142/142)、航空機:0機(142/142)、戦車:0台(142/142)、主要艦艇:3隻(78/142)
《参考》人口:12,094,640人(72/142)、活用可能な人員数:2,781,767人(101/142)、年間新規成人数:120,946人(86/142)

【ワースト5位:リベリア】
軍事力指数:8.5213、国防予算:11,800,000ドル(140/142)、総兵力:2,000人、現役兵員数:2,000人(85/142)、予備役兵員数:0人(142/142)、航空機:0機(142/142)、戦車:0台(142/142)、主要艦艇:6隻(75/142)
《参考》人口:5,214,030人(113/142)、活用可能な人員数:2,294,173人(108/142)、年間新規成人数:62,568人(111/142)

「世界一平和な国」と「世界一幸福な国」

 ワースト1位、つまり世界の「軍事力」最下位となったアイスランドは、独立国としては珍しく「非武装」国で、自国軍を保有していません。

 アイスランドは、デンマークによる長い統治後に独立しました。しかし、第2次世界大戦開戦後にイギリスが進駐。後にアメリカが引き継ぎ進駐し駐留しましたが、そのアメリカ軍も2006年に完全撤退しました。以降は国内に他国軍の進駐も駐留もなく、自国軍もありません。

 ただし、アイスランドは北大西洋条約機構(NATO)加盟国であり、実力組織である「沿岸警備隊」を保有しています。そして、国際連合(UN)や欧州安全保障協力機構(OSCE)の活動にも積極的に参加しています。

 また、アイスランドは「世界一平和な国」と称されるほど治安がよく、国民の平和志向も強いことでも有名です。

 次点となる「軍事力」ワースト2位のブータンは、自国軍が小規模な陸軍部隊のみとなっています。ちなみに、王国であるブータンの軍は、主に王立陸軍、国王親衛隊、王立警察の3つで構成されており、主な役割は、公の秩序の維持と王室の護衛、国境警備隊と消防活動を行うことです。また、内陸国であるため海軍はなく、空軍もありません。

 ブータンは「世界一幸福な国」といわれるように、精神的な豊かさを重んじる国民性があり、また敬虔な仏教国として不殺生の戒律を遵守し、争いを避けてできるだけ対話で事を収めることを信条としています。

 ただし、中国とインドという大国に挟まれ長年緊張状態にあり、軍事力の多くをインドに頼っています。ブータン国内にはインド軍事顧問団が駐留し、ブータン領空の防空はインドの管轄となっています。そして、ブータンの軍事費の多くは、インド軍のために支出されています。

 以上のように、世界の「軍事力」最下位国ことワースト1位の国ならびにワースト2位の国は、地政学的かつ政治的な課題はあるものの、平和的かつ幸福的な観点からも、「軍事力」が低いことがうかがえます。

政情不安国家は「軍事力」どころではない!?

 しかし、ワースト3位~5位は、ワースト1位・2位の理由とは異なるようです。

 まずワースト3位のコソボは、1998年に独立を求めるアルバニア人武装勢力とセルビア警察部隊などとの衝突から始まった内戦「コソボ紛争」を受け、1999年以来、NATO主体のコソボ国際安全保障部隊(KFOR)が駐留しています。また、2009年に軽武装のコソボ治安部隊(KSF)が創設され、災害対策及び警察以外の治安を担当。2019年の法改正により、KSFに国防の任務が追加され、国防省が設立されました。

 また、ワースト4位のソマリアも無政府状態であり、長引く政情不安によって、大多数の国民は飢餓に苦しんでいます。2007年よりAMISOM軍(ケニア、ウガンダ、エチオピア、ブルンジ、ジブチより派兵)が展開され、国際的観点からのソマリアの国造り支援がなされている状況です。

 そして、ワースト5位のリベリアも政情不安な国といえます。1989年以降断続的に内戦が続き、2003年に政府と反政府勢力との間で戦闘が激化し人道被害が深刻化したため、国連による多国籍軍と国連安定化軍の派遣、さらに国連リベリア・ミッション(リベリアでの国際連合平和維持活動。2018年に終了)が設置されるなど、治安状況の改善が図られました。その後も移行政府支援や合意履行支援のために国連による軍隊派遣が要請されたり、アメリカによる小規模なリベリア国軍再建が目指されたりしましたが、資金不足により規模が縮小され、現在に至っているようです。

 以上のように、世界の「軍事力」ワースト3位~5位の各国は、長引く内政不安や経済的な不安定によって、「軍事力」どころではないというのが現状のようです。

 いかがでしたでしょうか。世界の平和と幸福のために、ぜひ世界各国の「軍事力」にも注目してみてください。

<参考文献・参考サイト>
・2022 Military Strength Ranking│Global Firepower
https://www.globalfirepower.com/countries-listing.php
・外務省ホームページ(日本語):トップページ
https://www.mofa.go.jp/mofaj/
・在アイスランド日本国大使館
https://www.is.emb-japan.go.jp/itprtop_ja/index.html
・リベリア│出入国在留管理庁
https://www.moj.go.jp/isa/content/930002701.pdf
・「コソボ紛争」『情報・知識 imidas』(集英社)
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
「学ぶことが楽しい」方には 『テンミニッツTV』 がオススメです。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

トランプ関税はアダム・スミス以前の重商主義より原始的

トランプ関税はアダム・スミス以前の重商主義より原始的

第2次トランプ政権の危険性と本質(2)トランプ関税のおかしな発想

「トランプ関税」といわれる関税政策を積極的に行う第二次トランプ政権だが、この政策によるショックから株価が乱高下している。この政策は二国間の貿易収支を問題視し、それを「損得」で判断してのものだが、そもそもその考え...
収録日:2025/04/07
追加日:2025/05/17
柿埜真吾
経済学者
2

大隈重信と福澤諭吉…実は多元性に富んでいた明治日本

大隈重信と福澤諭吉…実は多元性に富んでいた明治日本

デモクラシーの基盤とは何か(2)明治日本の惑溺と多元性

アメリカは民主主義の土壌が育まれていたが、日本はどうだったのだろうか。幕末の藩士たちはアメリカの建国の父たちに憧憬を抱いていた。そして、幕末から明治初期には雨後の筍のように、様々な政治結社も登場した。明治日本は...
収録日:2024/09/11
追加日:2025/05/16
3

【会員アンケート】談論風発!トランプ関税をどう考える?

【会員アンケート】談論風発!トランプ関税をどう考える?

編集部ラジオ2025(8)会員アンケート企画:トランプ関税

会員の皆さまからお寄せいただいたご意見を元に考え、テンミニッツTVの講義をつないでいく「会員アンケート企画」。今回は、「トランプ関税をどう考える?」というテーマでご意見をいただきました。

第2次トランプ...
収録日:2025/05/07
追加日:2025/05/15
テンミニッツTV編集部
教養動画メディア
4

相互関税の影響は?…トランプが築く現代版の万里の長城

相互関税の影響は?…トランプが築く現代版の万里の長城

世界を混乱させるトランプ関税攻勢の狙い(1)「相互関税」とは何か?

トランプ大統領は、2025年4月2日(アメリカ時間)に貿易相手国に「相互関税」を課すと発表し、「解放の日」だと唱えた。しかし、「相互関税」の考え方は、まったくよくわからないのが実状だ。はたして、トランプ大統領がめざす...
収録日:2025/04/04
追加日:2025/04/10
島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授
5

重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ

重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ

「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス

「重要思考」で考え、伝え、聴き、そして会話・議論する――三谷宏治氏が著書『一瞬で大切なことを伝える技術』の中で提唱した「重要思考」は、大事な論理思考の一つである。近年、「ロジカルシンキング」の重要性が叫ばれるよう...
収録日:2023/10/06
追加日:2024/01/24
三谷宏治
KIT(金沢工業大学)虎ノ門大学院 教授