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DATE/ 2015.09.25

「ラーメン」から「麺」へ!

 ラーメンはもともと中国から伝わったものだが、ご存知のとおり、いまや完全に「日本の国民食」となっている。いまも中華料理屋にはラーメンがメニューに入っているが、それとは別に、日本には数え切れないほどのラーメン店ができている。


「ラーメン」から「麺」の時代に

 面白いのは、現在のラーメン店は、店名に「ラーメン」を掲げるところが非常に少ないことだ。例えば、2015年9月8日現在、Webサイト「ラーメンデータベース」の総合ランキングトップ10は、「中華蕎麦 とみ田」「煮干中華ソバ イチカワ」「麺屋 一燈」「燦燦斗」「狼煙~NOROSHI~」「麺屋吉左右」「麺処 ほん田」「SOBAHOUSE金色不如帰」「中華そば 四つ葉」「つけ麺 道」。

 どこにもラーメンという言葉がない。代わりに、「中華そば」が三つ、「麺」が四つ、入っている。

 中華の文字はあるが、中華そばという表現は和風であり、麺はさらに和風と言えるだろう。もう一ついえば、店名に漢字が多い。ラーメン店は、完全に「ラーメン」から「麺」の時代に、カタカナから漢字の時代になっているのだ。


「作務衣系」「ご当人ラーメン」が流行

 現代のラーメン店の大きな特徴の一つに、スタッフの格好がある。スタッフたちが作務衣、もしくは手書きの感じがプリントされたTシャツなどを着ているラーメン店が多いのだ。これまた中華料理屋とは一線を画している。

 速水健朗『ラーメンと愛国』によれば、作務衣を着るラーメン店主のイメージを作ったのは、おそらく「博多一風堂」の創業者である河原成美で、「作務衣系」が定着したのは1990年代後半のことだという。

 作務衣のイメージは、陶芸家など日本の伝統工芸職人の出で立ちを源泉としているが、ただし実際の陶芸家は基本的に作務衣を着ない。これはあくまでも「日本伝統風」のコスチュームなのである。

 1990年代にはもう一つの潮流が生まれている。「ご当人ラーメン」である。

 札幌ラーメン、博多とんこつラーメン、喜多方ラーメンなどの「ご当地ラーメン」ではない。個人が独立独歩で店を構え、地域性と独自性を重視し、味で勝負するこだわりのラーメン店が一気に増えたのだ。

 以来、外食産業では珍しく、ラーメン業界は低価格帯のチェーン店の勢力が弱く、高価格帯のご当人ラーメン店が頑張り続けている数少ないジャンルとなっている。


きっかけは女性客を増やすため

 スタッフが作務衣などを着た和風のラーメン店が増えたきっかけは、主にご当人ラーメン店が、女性客を取り込むためだったという。清潔感漂うインテリア、ジャズなどの音楽が流れる店舗、漢字の多い店名が増えてきたのも、やはり1990年代である。

 もともと、ラーメンは若くて貧乏な一人暮らしの男性が食べるものだった。インスタントラーメンも男の夜食である。

 いまもどちらかといえば男性が食べるイメージが根強いが、一定数の女性客がいるし、カップルでラーメンを食べるのも特段珍しいことではない。ラーメン店のマーケティング戦略は着実に成功を収めてきたようだ。その要因の一つに、和風で清潔な作務衣系イメージへの変更がある。


ラーメンは日本伝統のものになる?

 作務衣系ラーメン店は、都市部ではまったく珍しくないものになった。漢字だらけの店名や和風の店舗に違和感をもつ人は少なくなったのではないか。

 このまま作務衣系ラーメン店が増えていけば、いつの日か、ラーメンが中華料理と切り離され、歴史が書き換えられて、ラーメンは日本で生まれたものということになるのではないか。そんな想像さえしたくなるほどだ。

<参考文献>
・『ラーメンと愛国』(速水健朗著 講談社)
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