社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2023.07.07

エンジンをつけたままの給油はNGって本当?

 セルフ式のガソリンスタンドが多くなったことで、やや曖昧になってきたポイントがいくつかあります。その一つが「エンジンをつけたまま給油していいのか?」というものです。結論から言えばこれはNG。もしエンジンをかけたまま給油すれば、法令上でも違反です。ではこのことにはどういう危険があり、なぜ法令違反とされているのでしょうか。確認しておきましょう。

消防法で禁止されている

 消防法の「危険物の規制に関する政令第27条第6講第1号ロ」には、「自動車等に給油するときは、自動車等の原動機を停止させること」と記載されています。ここでの「原動機」とはエンジンのことです。つまり、消防法で「給油中のエンジン停止」はシンプルに明言されています。ただし、基本的にこれを守る義務があるのは危険物を扱うガソリンスタンドです。つまりドライバーは、このガソリンスタンドの指示に従う必要があるということになります。

 このため、違反したからといってセルフで給油していたドライバーが罰せられることはありません。ではなぜ消防法はこのようなルールとなっているのでしょうか。ポイントは主にガソリンの引火しやすさにあります。ガソリンは「揮発性が高い」という話はよく耳にすると思われますが、この揮発性というのは「通常の温度、気圧で液体が気体になること」を意味します。

ガソリンはマイナス40度で引火する

 ガソリンが引火する温度(火を近づけると燃える温度、気化する温度)はマイナス40度。つまり、一般的に私たちが生活する環境では常に燃焼する状態です。これについて他の燃料で見てみると、例えば軽油ではおおよそ45度以上、灯油ではおおよそ40度以上となっています。いかにガソリンが引火しやすい性質をもっているか、わかります。

 給油口を開けた瞬間に気化したガソリン(ガソリンベーパー)は外に広がります。このときエンジンを動かしていればどんどんガソリンは燃焼し、気化が進んでいます。この状態ではちょっとした静電気で引火する可能性があり、通常よりさらに引火のリスクが高まっています。また気化したガソリンは空気よりも重く、低い位置で広範囲に広がります。このことから一度火がつくと広範囲が一気に燃えるリスクがあります。

スマホも静電気を発する

 また、サイドブレーキをかけ忘れていてもし車が動いてしまった場合、周囲にガソリンを撒き散らすことになりかねません。こうしたことから、リスクを極力下げるためにも給油中は必ずエンジンを切ることが消防法で定められています。ちょっとした静電気でも危ないわけなので、もちろんタバコを咥えたまま給油したり、タバコに火をつけたりする行為もたいへん危険であることは言うまでもありません。

 さらに静電気は引火するリスクがあるので、給油機の近くには「静電気除去シート」などが備えつけられているはずです。基本的には車のボディなどの金属に触れるだけでも、除電はされるようです。しかし念の為にも給油する前には必ず手を触れ、静電気を確実に外に逃しましょう。特にナイロンなどの化繊の服を着ているときには要注意です。

 他にも、給油機付近では「スマホ使用禁止」と示されています。スマホは静電気を発する機器です。給油中に触れることはやめましょう。また車の中にはスマホ以外にも、カーナビ、テレビ、ゲームなどがあることも考えられます。これらも静電気を発する機器です。給油の際にはガソリンの蒸気(ガソリンベーパー)が入ってこないように窓を閉めることも大切です。

<参考サイト>
ガソリン添加剤とは。給油中の爆発・引火を予防するエンジン停止。ガソリンの引火点・比重・色|ZURICH
https://www.zurich.co.jp/car/useful/guide/cc-whatis-gasoline-additive/
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

深刻化する中国の人権問題…中国共産党の思惑と人権の本質

深刻化する中国の人権問題…中国共産党の思惑と人権の本質

中国共産党と人権問題(1)中国共産党の思惑と歴史的背景

チベット、内モンゴル、新疆ウイグルなど、少数民族に対する深刻な人権侵害をめぐって欧米諸国から強い批判を浴びている中国。しかし、こうした人権問題は今に始まったことではない。中華人民共和国建国の経緯と中国共産党の思...
収録日:2021/10/15
追加日:2021/12/24
橋爪大三郎
社会学者 東京科学大学名誉教授 大学院大学至善館教授
2

プロジェクトマネジメントとは?国際標準から考える特性

プロジェクトマネジメントとは?国際標準から考える特性

プロジェクトマネジメントの基本(1)国際標準とプロジェクトの定義

プロジェクトマネジメントが世界的に普及し始めたのは1990年代。ソフトウェア産業の発展とともに拡大を続け、時代のニーズを受けて多くのシーンに定着してきた。今回は、その基本に立ち返り、国際標準をもとに、プロジェクトと...
収録日:2025/09/10
追加日:2025/12/03
大塚有希子
法政大学専門職大学院イノベーションマネジメント研究科准教授
3

なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み

なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み

何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み

なぜ「何回説明しても伝わらない」という現象は起こるのか。対人コミュニケーションにおいて誰もが経験する理解や認識の行き違いだが、私たちは同じ言語を使っているのになぜすれ違うのか。この謎について、ベストセラー『「何...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/02
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授
4

ジャパン・アズ・ナンバーワンで満足!?学ばない日本の弊害

ジャパン・アズ・ナンバーワンで満足!?学ばない日本の弊害

内側から見たアメリカと日本(7)ジャパン・アズ・ナンバーワンの弊害

高度成長のために頑張った日本は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の評価を得たが、その後の日本企業の凋落、競争力の低下を考えると、その弊害を感じずにはおられない。読書人口が減っている現状をみると、いつのまにか「世界...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/12/01
5

質疑編…司馬遼太郎の「史料読解」をどう評価する?

質疑編…司馬遼太郎の「史料読解」をどう評価する?

歴史の探り方、活かし方(7)史料の真贋を見極めるために

歴史上の出来事の本質を知るには、その真贋を見定めなければいけない。そのためにはどうすればいいのか。記述の異なる複数の本がある場合、いかにして真実を見極めるか。また、司馬遼太郎の作品が「歴史事実」として認識されて...
収録日:2025/04/26
追加日:2025/12/02