社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2015.10.02

なぜみんな「ゴシップ」が好きなのか?

 芸能人が結婚した。残酷な事件が起きた。日本人スポーツ選手が大きな大会で優勝した。日々、世の中はこういった話題で持ちきりだ。


メディアは廃れても、ゴシップは流れる

 メディアの流行廃り(はやりすたり)はあっても、ゴシップはいつの時代も町中に流れている。人はなぜ、こうしたうわさ話をするのだろうか。もっと有益な情報、知ったほうがよさそうな情報はいくらでもあるのに、なぜうわさ話のやりとりは一向に減らないのだろうか。なぜ私たちはこんなにゴシップが好きなのか。


ヒトは言葉で毛づくろいする

 人類学などでは、うわさ話は「毛づくろい」の代わりだという考え方がある。サルが毛づくろいするのは、相手との親密さを示す一種のコミュニケーションである。親子、恋人、親友同士なら、おたがいの身体にやさしく触れたり、髪をなでたくなるだろう。それらの行為は、サルの毛づくろいとほぼ一緒だ。

 ヒトの場合は、そこに言葉が加わる。誰にでも気軽に触るわけにはいかないから、言葉で親密さを示すのだ。話しかけるということは、それだけであなたに関心がある、気持ちが向いている証拠となる。言葉はいわば「遠隔毛づくろい」で、いろんな意味で毛づくろいと同じ役割を果たす。

 その意味で一番都合が良いのは、日常の他愛ない会話、うわさ話である。つまり、道で出会った知り合いとちょっと天気の話をする、あるいは共通の知り合いのことを話すというのは、サルが互いになでているのと近い行為なのである。


男の会話は自己宣伝、女の会話は社会の中心

 ただし、男と女では、うわさ話の機能が異なる。男の会話は自己宣伝が中心で、自分のことばかり話す。ライバルを蹴落とし、自分という人間を売り出す政治ゲームの側面が強い。

 対して、女のおしゃべりは社会という回転木馬の中心軸、社会そのものを支える基盤だ。複雑な人間関係を構築し、維持していくために会話が欠かせない。その場にいない人の情報を交換することで、集団内の関係を調整しているのだ。

 社会にとって重要なのは、男の宣伝より、女同士のおしゃべりである。女同士のおしゃべりが社会的な関係を調整することで、社会がうまく回っているという側面があるのだ。その証拠に、ヒト以外の類人猿社会では、オスとオスの関係よりもメス同士の関係のほうが、社会に対する影響力が断然大きいことが分かっている。

 つまり、ある社会を形作っているのは、女性同士のうわさ話、ゴシップなのだ。ゴシップがなくならない理由は明らかで、ゴシップこそ、社会の中心だからである。週刊誌やスポーツ新聞、ワイドショー、そして井戸端会議が、実は社会の鍵を握っているというわけだ。

<参考文献>
・『友達の数は何人?―ダンバー数とつながりの進化心理学』(ロビン・ダンバー著 インターシフト)
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
自分を豊かにする“教養の自己投資”始めてみませんか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

なぜ伝わらない?理解の壁の正体を今井むつみ先生に学ぶ

なぜ伝わらない?理解の壁の正体を今井むつみ先生に学ぶ

編集部ラジオ2025(27)なぜ何回説明しても伝わらない?

「何回説明しても伝わらない」「こちらの意図とまったく違うように理解されてしまった」……。そんなことは、日常茶飯事です。しかしだからといって、相手を責めるのは大間違いでは? いやむしろ、わが身を振り返って考えないと...
収録日:2025/10/17
追加日:2025/11/13
2

デカルトが注目した心と体の条件づけのメカニズム

デカルトが注目した心と体の条件づけのメカニズム

デカルトの感情論に学ぶ(1)愛に現れる身体のメカニズム

初めて会った人なのになぜか好意を抱いてしまうことがある。だが、なぜそうした衝動が生じるのかは疑問である。デカルトが友人シャニュに宛てた「愛についての書簡」から話を起こし、愛をめぐる精神と身体の関係について論じる...
収録日:2018/09/27
追加日:2019/03/31
津崎良典
筑波大学人文社会系 教授
3

『100万回死んだねこ』って…!?記憶の限界とバイアスの役割

『100万回死んだねこ』って…!?記憶の限界とバイアスの役割

何回説明しても伝わらない問題と認知科学(2)バイアスの正体と情報の抑制

「バイアスがかかる」と聞くと、つい「ないほうが望ましい」という印象を抱いてしまうが、実は人間が生きていく上でバイアスは必要不可欠な存在である。それを今井氏は「マイワールドバイアス」と呼んでいるが、いったいどうい...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/09
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授
4

「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ

「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ

「宇宙の創生」の仕組みと宇宙物理学の歴史(1)宇宙の階層構造

宇宙とは何かを考えるうえで中国の古典である『荘子』・『淮南子(えなんじ)』に由来する「宇宙」という言葉が意味から考えてみたい。続いて、地球から始まり、太陽系、天の川銀河(銀河系)、局所銀河群、超銀河団、そして大...
収録日:2020/08/25
追加日:2020/12/13
岡朋治
慶應義塾大学理工学部物理学科教授
5

脳内の量子的効果――ペンローズ=ハメロフ仮説とは

脳内の量子的効果――ペンローズ=ハメロフ仮説とは

エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(2)量子論と空海密教の本質

「ワット・ビット連携」の概念がある。これは神経と血管の関係にも似ており、両者が密接に関係するところから、それをもとに人間の本質について考察していくことになる。また、中村天風の思想から着想を得て、人間の心には霊性...
収録日:2025/03/03
追加日:2025/11/13