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DATE/ 2023.09.15

生ビールの「生」って?お店以外でも飲める?

 仕事終わりにキューッと一杯、飲みたくなる生ビール。お店に入って「生ください!」と言う瞬間の高揚感、冷たいジョッキでグビグビと飲み干す幸福感、たまらないですよね。

 ビールはビールでも生ビール、というと、このようにお店で飲むものというイメージが定着していますが、そもそもこの生ビールの「生」は、いったい何を指すのでしょうか。

生ビールの「生」の本当の意味

 生卵、生野菜、生チョコなど、「生」がつくと何となく素材そのものを味わうもの、鮮度の高い食べ物という印象ですよね。お店だと樽からジョッキへ直接ビールをついでいるところも多く、それができたてのように見えることから「生ビール=店で飲むもの=新鮮」というイメージにつながっていると思われます。

 しかし実のところ、お店で飲むから「生」というわけではありません。生ビールとは、製造段階で「熱処理をしていない」ビールすべてのことを指します。

 ビールは「モルト(麦芽)」「ホップ」「イースト(酵母)」「水」が材料として使われています。ビール特有のあの苦みと旨みは麦芽とホップによるものですが、アルコールと炭酸ガスは、イーストを使った発酵によって生まれます。

 発酵によって十分なアルコール濃度と炭酸ガスができたら、これ以上発酵が進まないよう「熱処理」してイーストの働きを止めるか、あるいは余分に残ったイーストを「濾過して」取り除く必要があります。

 お気づきのように、この時に熱を加えず濾過しただけのビールは、ビール本来の旨みがそのまま残されるため、フレッシュで軽やかな風味が味わえます。これを「生」と表現しているのです。

 日本では濾過技術、流通技術が進化したことにより、安全で一定の品質を保った状態の生ビールを、お店に限らず全国どこでも、手軽に楽しむことができるようになりました。現在スーパーやコンビニ等で売られている缶ビールも、実はそのほとんどが生ビールです。

 つまり、樽であれ瓶であれ缶であれ、熱処理していないビールはすべて生ビールなのです。店で注がれるかどうかではなく、作られる段階で中身が決まっているんですね。

 お店のメニューでは「生ビール」と「瓶ビール」とで分けて記載しているところが多いですが、樽から注いでジョッキで飲むか、瓶入りかで区別しているだけで、中身は一緒です。

熱処理ビールの味は?

 日本酒に「火入れ」という工程があるように、今も酒造りにおいて熱処理は伝統的かつ必要不可欠な手法として残っています。今でこそ生ビールが主流ですが、昔は熱処理ビールが一般的でした。現在もわずかながら製造されています。

 熱処理といってもグラグラ沸騰させるわけではなく、60度程度の温度で20分加熱する低温殺菌法、または70度以上で20秒ほど加熱後に急冷するといった方法がとられています。

 味わいとしては、生ビールがスッキリとして軽いのに対し、熱処理ビールは苦みがきいた、重厚感のある飲み応えが特徴です。銘柄でいえば、キリンビールの「キリンクラシックラガー」、そしてサッポロビールの「サッポロラガービール(赤星)」がその代表。いずれも、コアなビール党から今も熱烈な支持を得ているロングセラー商品です。

 生ビールの「生」の意味、お分かりいただけたでしょうか。生ビールと熱処理ビール、ぜひ違いを味わってみてくださいね。

<参考サイト>
・「生ビール」とはなんですか?(SUNTORY)
https://www.suntory.co.jp/customer/faq/001695.html
・「生ビール」はお店でしか飲めないという大誤解(東洋経済オンライン)
https://toyokeizai.net/articles/-/350441?display=b
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一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授