社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2023.09.27

ダイヤモンドよりレア!「世界三大希少石」とは

 宝石といえばダイヤモンド、サファイヤ、ルビー、エメラルドといった「四大宝石」をイメージする人は多いでしょう。光に当たったときの輝き方(透明度や屈折率など)や色といった点によって宝石の価値は変化します。さらにこれに加えて希少性が価値に大きく影響します。天然のダイヤモンドはかなり希少で高額ですが、世の中にはダイヤモンドをしのぐほどレアな「世界三大希少石」と呼ばれるものもあります。

世界三大希少石とはどのようなものか

 自然の宝石は基本的に希少なものなのですが、なかでも取り立てて「希少」とされるものもあります。特に「世界三大希少石」と言われるものは、はじめに示した「四大宝石」よりもレアです。この「世界三大希少石」とは一般的に、「パライバトルマリン」「アレキサンドライト」「パパラチアサファイア」の3つとされています。

 「パライバトルマリン」は、「トルマリン」と呼ばれる鉱物グループの一種で、1987年にブラジル・パライバ州の鉱山で発見されました。この土地の名前がネーミングの由来です。とはいえ発見された鉱山ではすぐに底を尽き、その後はブラジルの他地域やアフリカでわずかに産出されているようです。特徴的なのは、「ネオンブルー(ネオングリーン)」と呼ばれる鮮やかな青緑色です。これには高濃度の銅とマンガンが関連しています。

 「アレキサンドライト」は、1830年頃にロシアのウラル山脈にあるエメラルド採掘鉱山で発見され、その珍しさからロシア皇帝アレクサンドル2世の誕生日に献上されています。これが名前の由来です。鉱物名としては「クリソベリル」ですが、「アレキサンドライト」はこのなかでも光によって色変わりする変種に限られます。太陽光の下では青緑色でエメラルドと同じ色ですが、白熱灯などの下では赤紫色に変化します。この変色がないと「アレキサンドライト」とは認められないことから、希少性が高くなっています。1987年にはブラジルで質のよい鉱山が見つかったようですが、近年では産出量が激減しているとのこと。

 「パパラチアサファイア」は別名「サファイアの王」と呼ばれます。「パパラチア」の語源は発見された地であるスリランカのシンハラ語(サンスクリット語)で「蓮の花(の蕾)」という意味です。サファイアは鮮やかなブルーの宝石ですが、パパラチアサファイアは「ピンクとオレンジの配色が一定以上で不純物の少ないもの」とされています。このように認められる色の範囲が狭いことが、この宝石を希少にしている理由です。現在ではアフリカのマダガスカルで産出されるようです。ただし「ベリリウム拡散加熱処理」という特殊な熱処理で作り出されたものもあります。これは別の成分を加える処理であることから「パパラチアサファイア」とみなされない場合も多いようです。

宝石はなぜ「硬く」「希少」で「美しい」のか

 「宝石」という言葉には科学的に明確な定義があるわけではありません。ただしこれらは「外見上の美しさ」「物理的な硬さ」「産出の希少性」の3点を兼ね備えているとは言えます。ではなぜ宝石は、「硬く」「希少」になるのでしょうか。これは生成のされ方に答えがあります。たとえば天然のダイヤモンドは、数億年から数十億年前に地中深く200kmほどのところで生成されます。その場所は千数百度といった高温、さらに5万から6万気圧の超高圧状態です。大阪市立科学館の資料によると「5万気圧とは1平方センチメートルの面積のところに約50トンの荷重をかけた時に発生する圧力と同じ」とのこと。こうして作られたダイヤモンドは後に火山活動によって地上に押し上げられます。ほかの宝石も多くは似た経過をたどります(真珠など生体鉱物を除く)。

 つまり、宝石は想像を絶する強い圧力の中で気の遠くなるような長い時間をかけて作り出され、この一部がたまたま人間の目に触れたとき、宝石として見いだされるのです。このことが「硬く」「希少」であることの理由です。ただし現在では技術が発展して、宝石は人間の手で生成することも可能です。これらは天然のものとは区別され、比較的安価で販売されています。

 また宝石は原石の状態から磨かれることで価値を高めます。光学機器メーカーCANONによると、宝石がキラキラしているのは「人類が長い時間をかけて宝石の性質を研究して、屈折や反射、分散などの効果がうまく重なり合い、より美しく見えるような形を精密に計算した結果」であり「宝石の研磨は光を操る高度技術」と示されています。つまり「宝石」を創出するのは、地球の地殻変動というスケールの大きな動きですが、これを磨く人間の細かな技術によってより美的価値が見出されます。

<参考>
宝石│コトバンク
https://kotobank.jp/word/%E5%AE%9D%E7%9F%B3-132225
宝石はなぜきらきら光るの?|キヤノンサイエンスラボ・キッズ
https://global.canon/ja/technology/kids/mystery/m_01_16.html
カラーストーン|一般社団法人日本ジュエリー協会
https://jja.ne.jp/aboutjewellery/aboutjewellery_inner02.html
ダイヤモンドの作り方|月刊うちゅう2015年12月号(大阪市立科学館)
https://www.sci-museum.jp/wp-content/themes/scimuseum2021/pdf/study/universe/2015/12/201512_04-09.pdf

~最後までコラムを読んでくれた方へ~
“社会人学習”できていますか? 『テンミニッツTV』 なら手軽に始められます。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

葛飾北斎と応為…画狂の親娘はいかに傑作へと進化したか

葛飾北斎と応為…画狂の親娘はいかに傑作へと進化したか

葛飾北斎と応為~その生涯と作品(1)北斎の画狂人生と名作への進化

浮世絵を中心に日本画においてさまざまな絵画表現の礎を築いた葛飾北斎。『富嶽三十六景』の「神奈川沖浪裏」が特に有名だが、それを描いた70代に至るまでの変遷が実に興味深い。北斎とその娘・応為の作品そして彼らの生涯を深...
収録日:2025/10/29
追加日:2025/12/05
堀口茉純
歴史作家 江戸風俗研究家
2

夜まとめて寝なくてもいい!?「分割睡眠」という方法とは

夜まとめて寝なくてもいい!?「分割睡眠」という方法とは

熟睡できる環境・習慣とは(4)起きているときを充実させるために

「腸脳相関」という言葉がある。健康には腸内環境が大切といわれるが、腸で重要な役割をしている物質が脳にも存在することが分かっている。「バランスの良い食事」が健康ひいては睡眠にも大切なのは、このためだ。人生は寝るた...
収録日:2025/03/05
追加日:2025/12/14
西野精治
スタンフォード大学医学部精神科教授
3

平和の実現を哲学的に追求する…どんな平和でもいいのか?

平和の実現を哲学的に追求する…どんな平和でもいいのか?

平和の追求~哲学者たちの構想(1)強力な世界政府?ホッブズの思想

平和は、いかにすれば実現できるのか――古今東西さまざまに議論されてきた。リアリズム、強力な世界政府、国家連合・連邦制、国連主義……。さまざまな構想が生み出されてきたが、ここで考えなければならないのは「平和」だけで良...
収録日:2025/08/02
追加日:2025/12/08
川出良枝
東京大学名誉教授 放送大学教養学部教授
4

『100万回死んだねこ』って…!?記憶の限界とバイアスの役割

『100万回死んだねこ』って…!?記憶の限界とバイアスの役割

何回説明しても伝わらない問題と認知科学(2)バイアスの正体と情報の抑制

「バイアスがかかる」と聞くと、つい「ないほうが望ましい」という印象を抱いてしまうが、実は人間が生きていく上でバイアスは必要不可欠な存在である。それを今井氏は「マイワールドバイアス」と呼んでいるが、いったいどうい...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/09
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授
5

自発性を重んじる――藤田一照師が禅と仏教の心を説く

自発性を重んじる――藤田一照師が禅と仏教の心を説く

禅とは何か~禅と仏教の心(1)アメリカの禅と日本の禅

大学院を中退して禅の道に進み、アメリカ東海岸で18年間禅堂を開いた藤田一照師に、禅と仏教の心について話を聞いていく。アメリカの禅にはすでに百年近い歴史があり、最初に鈴木大拙が伝えたといわれている。その後、一時はカ...
収録日:2024/08/09
追加日:2025/01/13
藤田一照
曹洞宗僧侶