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DATE/ 2023.12.10

世界の「消滅危機言語」とは

 現在、世界の国は日本を含めて196か国(2023年)ですが、言語はその36倍以上、7,168もの数があるといわれています。しかしそのうちの約40%の言語が、さまざまな理由から話者が激減し、将来消滅する危険性がある「消滅危機言語」となっています。

 実は日本国内の言語(方言)の一部もそうした「消滅危機言語」に含まれ、極めて深刻な状況となっています。

 世界の「消滅危機言語」にはどのようなものがあるのでしょうか。またひとつの言語がなくなると、世の中にいったいどのような影響があるのでしょうか。

世界で急速に進む言語の消滅

 言語はそれを使う人、そしてその言語の意味を理解し、会話できる人がいなければ存在しえません。つまり言語の消滅、イコール話者の消滅ということになります。

 少数言語研究団体SILインターナショナルの発表によると、世界にある7,168言語のうち、約40%にあたる3,045言語が話者の数が1,000人未満の「消滅危機言語」となっています。

 これだけでも衝撃的な数字ですが、識者の間では今世紀じゅうに世界の言語は半減、最悪90%もの言語がこの世から消滅するという予測もあります。国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)は、1950年から2010年までの間に、すでに230の言語が地球上から消滅したという調査結果を発表し、世界に衝撃を与えました。

最近消滅した言語

 直近で消滅した代表的な言語といえば、インドのアンダマン・ニコバル諸島の「ボ語」や、チリの「ヤーガン語」などです。

 インドのボ語は大アンダマン語派に属する10の言語のうちのひとつで、約6万5,000年前からあったといわれるほど歴史ある言語。これを話すボ族は人類最古の民族といわれました。しかしボ族の末裔の女性が2010年2月に死去したことが判明。ボ語は地球上から消滅してしまったのです。

 そして2022年2月には、南米チリのパタゴニア地区の先住民族・ヤーガン族でただひとり、存命していた純血のヤーガン族の女性が93歳でこの世を去り、同時にヤーガン語も永遠に失われてしまいました。

消滅しつつある言語は日本にも

 日本にはあまり関係がない話……と思われるかもしれませんが、実は日本にも「消滅危機言語」があります。

 ユネスコが2009年に発表した「世界の消滅危機言語地図(Atlas of the World’s Languages in Dange)」第3版では、以下の8言語が日本の消滅危機言語として挙げられています。

・アイヌ語
・八重山語
・与那国語
・八丈語
・奄美語
・国頭(くにがみ)語
・沖縄語
・宮古語
(※ユネスコでは日本でいう「方言」は区別せず、すべて「言語」として統一)
(※参考:「ユネスコが認定した、日本における危機言語の分布図)

 中でも北海道などに残るアイヌ語は、最も消滅危機度の高い「極めて深刻(critically endangered)」な状態に指定されています。そこでアイヌ語を継承していくため、文化庁ほか研究団体が音声アーカイブを記録するなどして保護活動を続けています。

なぜ言語が消滅するのか

 ユネスコでは、言語が消滅する理由について「都市化の進行」「経済力の集中」「文化の均質化」を挙げています。地方出身者が都市に出たことで地元の言葉を使わなくなったこと、大きな経済圏で使われている言語が強くなるとその他の少数言語が淘汰されやすくなること、そしてグローバル化により共通言語による利便性が重視され、共通語に触れる機会が増えてきたことが考えられると述べているのです。

 いっぽうで、アメリカ言語学会(LSA)は、言語消滅には以下の2つの要因があるとしています。

・あるコミュニティーが、より大きな、あるいはより強力なグループと統合する必要に迫られたとき
・侵略などによって民族が虐殺され話者が絶滅したとき
(参考:WIP Japan Corporation「消滅する言語と、失われていくなにか」)

 少数言語を持つ多くの国では、植民地化など強国に支配された歴史的背景があります。支配側の都合により母国言語の使用を制限・禁止され、また支配国の言語を習得しなければ教育、就業が困難であったことから、母国語の使用機会が奪われたのです。そうした背景から母国語を教えない親が増え、子どもに母国語が受け継がれずそのまま消滅、という運命をたどってしまうというわけです。

 時には民族そのものが虐殺され全滅、たった一夜で言語も文化も消滅させられたケースもありました。

 言語が失われる要因として、こうした時代背景が大きく影響していたことは記憶にとどめておくべきでしょう。

 日本も植民地化されたことはないとはいえ、実はかつてその土地の言語(方言)をやめさせ、強制的に標準語を使わせようとする教育が盛んに行われていた地域があります。会話中に方言を使ってしまうと先生から「方言札」をさげさせられるというもので、沖縄や鹿児島の一部地域の学校で実際に行われていたそうです。

 現在は価値観の多様化により、方言をアイデンティティのひとつとして捉える風潮が高まってきています。しかしそれでも「方言は恥ずかしい」「ダサい」といった感覚は、全国的に根強く残っていることは否めません。多くの方言、地域独自の言語が、今も消滅の危機にさらされているのです。

少数言語はなぜ守るべきなのか

 もともと外国語が不得意な日本人にとって、言葉の壁は大きいものです。いっそ世界の言語がたとえば英語だけ、日本語だけとなってしまえば、交流も活発になるし暮らしにも便利なのでは? と考える人も多いでしょう。

 ここで、ユネスコ公式HPにある世界言語のアーカイブ“World Atlas of Languages(WAL)”に掲載されている、言語の多様性についての一文をご紹介します。

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(言語について4つの定義)
・言語は、人類が残した遺産を伝え、担っていくものである。
・言語は、地域の伝統、アイデンティティ、民族問題、生物多様性の保存場所(リポジトリシステム)となるものである。
・言語は、人々のコミュニケーションツールとなるものである。
・言語は、世界経済、政治の発展に欠かせない資源であり資産である。

(世界の言語を守る意義に関して)
平等な参加、社会的結束、持続可能な開発のため、言語の多様性を保護することが不可欠である。”
(ユネスコ“World Atlas of Languages”より抜粋、筆者意訳)

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 少数言語がひとつ消滅したところで、大きな変化は感じにくいかもしれません。しかし、言語が失われるということは、その言語を話す民族が育んできた独自の文化や思想、価値観が絶たれる、ひいてはその民族が抱えてきた社会的問題が解決されることなく終わってしまう可能性があることを意味しています。

 価値観の多様性が叫ばれる今、言語の多様性もまた、改めて目を向けるべきタイミングに来ているのかもしれませんね。

<参考サイト>
・UNESCO(World Atlas of Languages)
https://en.wal.unesco.org
・UNESCO(World Atlas of Languages):原文
https://en.wal.unesco.org/world-atlas-languages
・消滅の危機にある言語・方言(文化庁)
https://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/kokugo_shisaku/kikigengo/index.html
・「ユネスコが認定した、日本における危機言語の分布図」https://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/kokugo_shisaku/kikigengo/pdf/93912601_01.pdf
・ethnologue
https://www.ethnologue.com/insights/how-many-languages/
・第1回 6000言語のうち2500が消滅する!?(ナショナルジオグラフィック)
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/20120627/314021/?P=1
・最後の話者が死亡、消滅危機言語が絶滅 インド・アンダマン諸島のボ語(AFP BB NEWS)
https://www.afpbb.com/articles/-/2691446
・「ヤーガン語」話せる人もう誰もいない…最後の話し手が死去(日テレNEWS)
https://news.ntv.co.jp/category/international/9b45753cc2074bf081dc2462bb326698
・WIP Japan Corporation「消滅する言語と、失われていくなにか」https://japan.wipgroup.com/media/endangered_language

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