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DATE/ 2024.01.03

いまだ解明されていない「世界の暗号」5選

暗号は古今東西で使われてきた

 名探偵が難解な暗号の解読に挑む――ミステリー小説ではおなじみのシーンですが、現実でも暗号は多数存在します。古代ギリシャの時代にはすでに暗号が使われており、文字が書かれたテープ状の布を、一定の太さの棒に巻きつけることで文章として読めるようになる仕掛けがあったそうです。日本でも戦国時代の忍者がこれに似た仕掛けの暗号を使っており、古今東西に暗号が存在したことがわかります。

 忍者というとフィクションのように感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、“忍者の里”があった三重県伊賀市や滋賀県甲賀市などには、技術や知識の秘伝が残っています。忍者の記録が極端に少ない理由は、ほとんどの任務が極秘で行われており、雇い主の戦国大名などが記録を抹消してしまうことが多かったからです。暗号は重要なメッセージを必要な人にだけ伝えるためのものですから、忍者の活動に欠かせなかったことは想像に難くありませんよね。

 また、現在「暗号」とされているもののなかには、もともとは暗号として書かれたわけではないのに年月が経って読める人がいなくなってしまったものや、謎解きのひとつとして作成されたものなどもあります。そして、解読に挑む人も政府機関や警察関連から、趣味でチャレンジする一般の人までさまざまです。多くの人がチャレンジしているにもかかわらず、解読できていない暗号ももちろんあります。今回は、そんな手ごわい暗号たちを5つご紹介しましょう。

いまだに解かれていない難解暗号たち

・線文字A
 現在のギリシャ・クレタ島で栄えた古代ミノア文明の文字と考えられており、紀元前18~15世紀ごろに使用されたようです。1900年にイギリスの考古学者アーサー・エヴァンズが、クレタ島の遺跡クノッソスで発見しました。同時に発見された線文字Bは1952年に解読されており、線文字AはBの原型と考えられています。線文字Aは文字の構成などの系統が未発達のため解読が難しく、いまだに全容が明らかになっていません。

・ファイストスの円盤
 絵や記号のように見える象形文字がらせん状に刻みこまれた粘土製の円盤です。1908年にイタリアの考古学者ルイジ・ペルニエルが発見しました。線文字Aと同じクレタ島の遺物で、古代都市ファイストスの宮殿にあったことから「ファイストスの円盤」と呼ばれます。この文字はスタンプ状のものを粘土に押しつけて刻まれたようですが、この円盤にしか見られない文字もあるため解読にはいたっていません。

・ヴォイニッチ手稿
 ポーランドの古物商ウィルフリッド・ヴォイニッチがイタリアのキリスト教団体イエズス会から1912年に購入した謎の書物です。15世紀ごろのヨーロッパで書かれたようですが、文章は言語体系すら不明の文字で書かれており、ところどころにドラゴン、植物、惑星などの挿絵がカラーで描かれています。2010年代後半からAIによる解読が進められており、ヘブライ語がベースという見解が有力視されています。

・Tamam shud事件
 1948年12月1日にオーストラリア南部のソマートン海岸で発見された身元不明の男性の遺体から、「Tamam shud(ペルシャ語で「終わった」の意味)」と印刷された紙片が見つかりました。この紙片は付近の車に置き去られた詩集『ルバイヤート』から切り取られたものと判明。詩集の最終ページにはアルファベットらしい文字の羅列が鉛筆書きで記されていましたが、いまだになにを意味するのかわかっていません。

・クリプトス
 「クリプトス」はアメリカの彫刻家ジム・サンボーンが制作し、1990年11月3日にアメリカ中央情報局(CIA)本部に設置された芸術作品です。この彫刻のユニークな点は、「クリプトス」という言葉が古代ギリシャ語で「隠す」を意味するとおり、869文字の暗号が打ち抜かれていること。暗号は4部分に分かれており、このうち1部分だけは2010年に作者自身が6文字のヒントを公表しましたがいまだに解読されていません。

 Tamam shud事件の身元不明男性は発見された土地の名前を取って「ソマートン・マン」と呼ばれており、2021年に南オーストラリア州がDNA鑑定を開始しています。鑑定には数年かかると考えられていますが、この結果から身元が判明するのではないかと期待されており、そこから暗号解読のヒントもつかめるかもしれません。AIやDNA鑑定などの新たな技術も駆使して、刻一刻と暗号は解読に向かっているのです。

<参考サイト>
・Gigazine いまだ解読されていない歴史的な10種の暗号
https://gigazine.net/news/20110202-uncracked-codes/
・SeleQt 解読に挑戦してみませんか?有名な未解読の「暗号」11選
https://www.seleqt.net/topic/famous-uncracked-codes-mysterious-ciphertexts/
・National Geographic 謎のボイニッチ手稿にAI、解読方法が判明?
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/18/020500052/?P=1
・WIRED  20年間未解読のCIA暗号彫刻、作者がヒント発表
https://wired.jp/2010/11/26/20%E5%B9%B4%E9%96%93%E6%9C%AA%E8%A7%A3%E8%AA%AD%E3%81%AEcia%E6%9A%97%E5%8F%B7%E5%BD%AB%E5%88%BB%E3%80%81%E4%BD%9C%E8%80%85%E3%81%8C%E3%83%92%E3%83%B3%E3%83%88%E7%99%BA%E8%A1%A8/
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