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DATE/ 2024.05.07

こんな授業を待っていた!『クレーンゲームで学ぶ物理学』

 突然ですが、皆さんは「クレーンゲーム」はお好きですか。ゲームセンターに行くと、ついやってしまうという人も多いのではないでしょうか。100円玉を投入すると、軽快な音楽とともにゲームが始まります。プレイヤーは操作レバーを駆使して景品の上にクレーンを動かします。ボタンを押すと、UFOメカがゆっくりと降下し、開いていたアームが閉じていきます。景品をつかめるかどうか、その息をのむ瞬間。このドキドキ感が癖になり、失敗してもすぐに財布から硬貨を取り出し、次のゲームを始めてしまいます。

 そんな遊び心をくすぐるクレーンゲームですが、物理学者の目を通すと、単なる遊び以上の奥深いものに見えてきます。今回ご紹介する『クレーンゲームで学ぶ物理学』(小山佳一著、インターナショナル新書)は、クレーンゲームの仕組みや景品を取るための試行錯誤の過程を通じて、物理学の基本を解説した1冊です。

物理学者、クレーンゲームを考察する

 本書の著者である小山佳一氏は、物理学を専門とする研究者で、現在は鹿児島大学理学部の教授で理学部長を務められています。強磁場物質科学など専門的な研究を行う傍ら、30年以上の趣味であるクレーンゲームについて物理学的に考察するライフワークを続けています。近年では、クレーンゲームを題材にして、高校生や文系の大学生向けに物理学の面白さを伝える活動を精力的に行っています。

 物理というと、苦手意識を持つ人も少なくないかもしれません。試験勉強で複雑な公式を丸暗記した記憶が思い浮かぶことでしょう。「こんなの何に使うんだろう」と疑問に思ったこともあるはずです。しかし、小山氏は「物理は使うものだ」と強調し、実際の生活で応用できなければならないと述べています。物理学はこの世界の仕組みを解き明かし、得られた知識を活用して、応用する学問、このような物理観を持つ小山氏。本書では、物理に苦手意識を持つ人々にも、丸暗記だけではない面白さを伝えているのです。

クレーンゲームは物理学の宝庫

 物理は身の回りで起こる現象そのものであり、日常のいたるところに現れます。クレーンゲームで景品を手に入れる過程にもさまざまな物理現象が潜んでいます。それは「座標・ばね・重心・てこの原理・振動・力の合成と分解・摩擦力・電磁誘導・位置エネルギー・確率」といった、どれも物理の基本となるものばかりです。それぞれについて、本書ではわかりやすく解説されていきます。

 まず最初に解説されるのは、「力学の授業は座標から」です。物理学の基本の中でも、「座標」は特に大事なものです。座標は、物体の位置を数値で表し、物体の動きを理解するためのスタート地点となります。

 私たちがいる空間は3次元空間なので、物体の位置を指定するときには互いに直行する3本の線、x軸、y軸、z軸を選び、(x, y, z)の三つの数字の組み合わせ(座標)で表すことが一般的です。この方法のいいところは、「客観的で、誰が指定しても同じでかつ誰もがわかるように示せる」ことです。

 小山氏は、クレーンゲーム機の前に立つと、頭の中にこの直交座標系のイメージが浮かぶそうです。ゲーム機に対して左右方向水平にx軸、奥行き方向にy軸、景品の落とし口を原点O(x, y, z)=(0, 0, 0)とする座標系です。この座標系を用いることで、クレーンゲームの操作は体系的に説明できます。まず、1:横方向の移動ボタンを押しUFOメカをx軸上にある狙った座標まで移動させ、2:奥方向の移動ボタンを押し、メカをy軸上にある狙った座標系まで移動させ、3:UFOメカが狙った座標に到達したらすぐにボタンから手を離す、といったようにです。座標を使えば、紙面上でもクレーンゲームの動きを正確に説明できるのです。

「アームが強い/弱い」ってどういうこと?

 クレーンゲームで景品を取りそこねた人が「これ、アーム弱いよね」などと言うのを聞いたことはないでしょうか。よく「アームが強い/弱い」という言い方がされますが、実際にはどういうことなのでしょうか。

 小山氏は、セガ製のUFOキャッチャー21のUFOメカを入手し、これを分解することでその謎を突き止めました。鍵になるのはアームの間にある「ばね」でした。

 右アームと左アームはコイル状に巻かれた1本のばねで結びついています。アームが開くとこのばねが伸びますが、通常時は3センチのところ、アームが最大に開いたときには7センチまで伸びます。伸び切ったばねが元に戻ろうとする力(復元力)こそが、実はアームの強さの正体だったのです。

 これは、理科の授業で教わる「フックの法則」に関連しています。「ばねののびは、ばねに加わる力の大きさに比例する」という物理法則は、「フックの法則」と呼ばれています。これはつまり、ばねは大きく伸びるほど、より大きな力を生むということです。クレーンゲームについて言えば、アームの開きが最大のときに、景品をキャッチする力も最大になるということです。UFOメカ内のばねを交換することで、アームの閉じる力を「大」・「中」・「小」のように変えることもできるのです。

 ちなみに、本書を読んでも、クレーンゲームの景品が必ずしも取れやすくなるわけではありません。また、本書はクレーンゲームの必勝法を解説したものでもありません。しかし、本書を読めば、クレーンゲームという身近な対象を物理学の視点から見ることで、物理の面白さに気づくことができるのです。

「学校で勉強した物理って面白くなかったな」と感じている人はもちろん、物理に興味のある方は、ぜひ書店で一度手にとってみてください。物理の本当の面白さを再発見することでしょう。

<参考文献>
『クレーンゲームで学ぶ物理学』(小山佳一著、インターナショナル新書)
https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents.html?isbn=978-4-7976-8139-0

<参考サイト>
鹿児島大学大学院理工学研究科物理・宇宙専攻 磁気物理学(小山・三井研究室)
https://www.sci.kagoshima-u.ac.jp/koyama/K-Lab/Welcome.html
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