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『未婚と少子化』から読み解く少子化問題の誤解と今後
日本は深刻な少子化の危機に直面しています。少子化とは、出生率が低下し、子どもの数が減少する現象のことです。少子化の進行は、人口の高齢化と相まって、労働力の不足や、社会保障費の増大による現役世代への負担増加など、社会に多大な影響を及ぼすおそれがあります。
少子化の現状を具体的なデータで見てみましょう。厚生労働省の発表によると、2022年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子どもの平均数)は1.26で、前年の1.30から減少しました。一般に、人口維持のためには2.07が必要とされていますが、この数値は大きく下回っています。さらに、この年の出生者数は77万747人で、過去最低を更新しました。この傾向が続けば、今後数十年で日本の総人口は急激に減少すると予測されています。
今回ご紹介する『未婚と少子化 この国で子どもを産みにくい理由』(筒井淳也著、PHP新書)は、少子化問題を冷静に議論するための重要な知見を与えてくれる一冊です。本書は、データや統計を用いて「少子化にまつわる誤解」を解消していきます。問題解決のためには、まずデータや実情を総合的に把握することが重要なのです。
筒井氏は、少子化についての誤った認識が社会全体に広がっており、議論のバランスが悪いままであると指摘しています。例えば、「少子化対策とはすなわち子育て支援のことだ」といった認識です。少子化が一向に止まらない理由の一つは、このような誤解が放置され、建設的な議論ができていないことにあるのです。どういうことなのか、本書の内容を見ていきましょう。
そもそも、少子化対策の目的は、出生数や出生率をかつての水準に戻すことではありません。すでに日本社会は人口規模を維持することがほぼ不可能な段階まで少子化が進行しています。無理やり出生数を増やしたとしても、別のところにひずみが生じ、重大な影響を及ぼしかねません。
たとえば、少子化で「社会保障制度の維持」が問題となるなら、出生率向上よりも優先すべきことが多くあります。出生率が上がっても、生まれてくる子どもたちが税金・社会保険料を納めてくれるまで短くても十数年、長ければ数十年のタイムラグがあるからです。それよりも、経済成長による税収の増加や、予防医学による高齢者医療コストの圧縮などが優先課題となるべきです。本来、こういったことも「少子化対策」として論じられるべきですが、現状ではそうなっていません。
重要なのは、私たちが「どういう社会をつくりたいのか」です。少子化問題も、「何を目指すのか」によって、着目する数値やデータも、注力すべき政策も変わってきます。しかし、現状では出生率の問題に焦点が当てられがちで、筒井氏はそのような議論の未熟さを批判しています。何を目的に、どの政策を優先するか。そこにどんな副作用があり、我々は何を負担すべきなのか。そうした適切な理解を欠いたまま、ただ「少子化対策は子育て支援による出生率向上」と考えるだけでは、問題解決が遠のくだけなのです。
2020年の国勢調査によれば、18歳以上の日本人のうち、27.3%、つまり「4人に1人は未婚者」です。50歳時未婚率は男性で27.5%、女性で17.3%であり、「男性の4人に1人は一生独身のまま」といってもよい状況です。このように日本社会の未婚化が進む中、出生率はどのように変化してきたのでしょうか。
第2章で、1975~2015年の女性の年齢別出生率と、有配偶出生率の推移を示したグラフが紹介されています。これを見ると、全体の出生率が下がり続けていても、結婚している女性の出生率はあまり下がっていないことがわかります。むしろ、上昇傾向が見られるくらいです。このことから、全体の出生率が下落してきたのは、晩婚化と未婚化の影響が大きいといえるのです。
専門家や行政はこのことを意識して、持続的な取り組みの必要性を訴えてきました。しかし、政府の対応はその場しのぎ的なものに終始し、晩婚化・未婚化対策にはほとんど注目がなされてきませんでした。2023年には「こども家庭庁」が発足し、「こどもまんなか社会」がスローガンとして掲げられましたが、子どもを大事にすることが必ずしも少子化対策になるわけではないことを意識すべきなのです。
筒井氏は、少子化対策として子育て期に限らない、スパンの広い対策の必要性を訴えています。「出生数が死亡数を下回る!」「出生数が初めて80万人を割る!」といったショッキングな発表に振り回されるのではなく、少子化は一筋縄ではいかない問題であると認め、データや実情を理解した上で、バランスの取れた方向性を探ることが重要なのです。
本書では他にも、第3章で地域と出生率の関係、第4章では人の移動というグローバルな観点から少子化問題を考える、といった内容が展開されています。少子化問題を考えるための前提知識をアップデートするため、ぜひ本書を読まれることをおすすめします。
少子化の現状を具体的なデータで見てみましょう。厚生労働省の発表によると、2022年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子どもの平均数)は1.26で、前年の1.30から減少しました。一般に、人口維持のためには2.07が必要とされていますが、この数値は大きく下回っています。さらに、この年の出生者数は77万747人で、過去最低を更新しました。この傾向が続けば、今後数十年で日本の総人口は急激に減少すると予測されています。
今回ご紹介する『未婚と少子化 この国で子どもを産みにくい理由』(筒井淳也著、PHP新書)は、少子化問題を冷静に議論するための重要な知見を与えてくれる一冊です。本書は、データや統計を用いて「少子化にまつわる誤解」を解消していきます。問題解決のためには、まずデータや実情を総合的に把握することが重要なのです。
「少子化対策≠子育て支援」ってどういうこと?
著者の筒井淳也氏は1970年生まれの社会学者です。一橋大学で博士号を取得し、現在は立命館大学の教授を務められています。専門分野は家族社会学や計量社会学で、データを活用した実証的な分析に長けた研究者です。他の著作として、専門的な『制度と再帰性の社会学』(ハーベスト社)、『親密性の社会学』(世界思想社)や、一般向けの『仕事と家族』(中公新書)、『結婚と家族のこれから』(光文社新書)、『数字のセンスを磨く』(光文社新書)、『社会を知るためには』(ちくまプリマー新書)などがあります。筒井氏は、少子化についての誤った認識が社会全体に広がっており、議論のバランスが悪いままであると指摘しています。例えば、「少子化対策とはすなわち子育て支援のことだ」といった認識です。少子化が一向に止まらない理由の一つは、このような誤解が放置され、建設的な議論ができていないことにあるのです。どういうことなのか、本書の内容を見ていきましょう。
出生率向上を考えるだけでは少子化問題は先に進まない
「少子化問題といえば出生率の向上だ」という認識のもと、「子育て支援」が問題解決の方法だと言われることがよくあります。しかし、筒井氏によれば、これはバランスを欠いた認識です。政治もマスコミも子育て支援のための予算や財源の話に傾きがちですが、予算を割けば直ちに効果が出るわけではありません。少子化はさまざまな要因が複雑に絡み合った問題なので、社会の仕組みをどうするかというレベルまで立ち戻って対策を考える必要があるのです。そもそも、少子化対策の目的は、出生数や出生率をかつての水準に戻すことではありません。すでに日本社会は人口規模を維持することがほぼ不可能な段階まで少子化が進行しています。無理やり出生数を増やしたとしても、別のところにひずみが生じ、重大な影響を及ぼしかねません。
たとえば、少子化で「社会保障制度の維持」が問題となるなら、出生率向上よりも優先すべきことが多くあります。出生率が上がっても、生まれてくる子どもたちが税金・社会保険料を納めてくれるまで短くても十数年、長ければ数十年のタイムラグがあるからです。それよりも、経済成長による税収の増加や、予防医学による高齢者医療コストの圧縮などが優先課題となるべきです。本来、こういったことも「少子化対策」として論じられるべきですが、現状ではそうなっていません。
重要なのは、私たちが「どういう社会をつくりたいのか」です。少子化問題も、「何を目指すのか」によって、着目する数値やデータも、注力すべき政策も変わってきます。しかし、現状では出生率の問題に焦点が当てられがちで、筒井氏はそのような議論の未熟さを批判しています。何を目的に、どの政策を優先するか。そこにどんな副作用があり、我々は何を負担すべきなのか。そうした適切な理解を欠いたまま、ただ「少子化対策は子育て支援による出生率向上」と考えるだけでは、問題解決が遠のくだけなのです。
鍵となる「未婚・晩婚化問題」
本書の第2章では、「何が出生率の低下をもたらしたのか」について解説されています。出生率について考える際、私たちはしばしば「結婚している夫婦」を前提にしがちですが、少子化対策を考える上では、むしろ独身者に焦点を当てるべきだと筒井氏は指摘しています。実際、1970年代から出生率が低下した理由は、結婚している人々が子どもを持たなくなったことではなく、晩婚化や未婚化の進行によるものなのです。2020年の国勢調査によれば、18歳以上の日本人のうち、27.3%、つまり「4人に1人は未婚者」です。50歳時未婚率は男性で27.5%、女性で17.3%であり、「男性の4人に1人は一生独身のまま」といってもよい状況です。このように日本社会の未婚化が進む中、出生率はどのように変化してきたのでしょうか。
第2章で、1975~2015年の女性の年齢別出生率と、有配偶出生率の推移を示したグラフが紹介されています。これを見ると、全体の出生率が下がり続けていても、結婚している女性の出生率はあまり下がっていないことがわかります。むしろ、上昇傾向が見られるくらいです。このことから、全体の出生率が下落してきたのは、晩婚化と未婚化の影響が大きいといえるのです。
専門家や行政はこのことを意識して、持続的な取り組みの必要性を訴えてきました。しかし、政府の対応はその場しのぎ的なものに終始し、晩婚化・未婚化対策にはほとんど注目がなされてきませんでした。2023年には「こども家庭庁」が発足し、「こどもまんなか社会」がスローガンとして掲げられましたが、子どもを大事にすることが必ずしも少子化対策になるわけではないことを意識すべきなのです。
筒井氏は、少子化対策として子育て期に限らない、スパンの広い対策の必要性を訴えています。「出生数が死亡数を下回る!」「出生数が初めて80万人を割る!」といったショッキングな発表に振り回されるのではなく、少子化は一筋縄ではいかない問題であると認め、データや実情を理解した上で、バランスの取れた方向性を探ることが重要なのです。
本書では他にも、第3章で地域と出生率の関係、第4章では人の移動というグローバルな観点から少子化問題を考える、といった内容が展開されています。少子化問題を考えるための前提知識をアップデートするため、ぜひ本書を読まれることをおすすめします。
<参考文献>
『未婚と少子化 この国で子どもを産みにくい理由』(筒井淳也著、PHP新書)
https://www.php.co.jp/books/detail.php?isbn=978-4-569-85616-2
<参考サイト>
筒井淳也氏のX(旧Twitter)
https://x.com/sunaneko
『未婚と少子化 この国で子どもを産みにくい理由』(筒井淳也著、PHP新書)
https://www.php.co.jp/books/detail.php?isbn=978-4-569-85616-2
<参考サイト>
筒井淳也氏のX(旧Twitter)
https://x.com/sunaneko
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