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DATE/ 2024.10.04

大反響!絶対受けたくなる『東大ファッション論集中講義』

 新しいファッションは私たちをいつもワクワクさせてくれますが、そもそもファッションとは何のことでしょうか。私たちは服を着ずに暮らすことはできません。そして、その服は必ずファッションの流行に左右されています。つまり、私たちは決してファッションから自由でいることはないのです。このようにあらゆる人に関係しているファッションですが、人間にとってどのような意味があるのでしょうか。

 ファッションについて、その歴史からその変遷、現代でのあり方や捉えられ方などあらゆる方面を網羅して解説した本が『東大ファッション論集中講義』(平芳裕子著、ちくまプリマー新書)です。本書では、まずは主にヨーロッパにおいてどのような変遷を遂げてきたのか、そこからアメリカ、明治期以降の日本といったように、地理的に、また時系列に俯瞰しながらファッションが捉えられていきます。ファッションについての全体像を知るには必要十分な書籍です。

 著者の平芳裕子(ひらよし・ひろこ)氏は1972年東京都の生まれで、現在は神戸大学大学院人間発達環境学研究科准教授です。東京藝術大学、美術学部芸術学科を卒業後、東京大学大学院総合文化研究科に進学しています。学位は博士(学術)とのこと。専門は表象文化論・ファッション文化論です。著書としては『まなざしの装置 ファッションと近代アメリカ―』(青土社)、『日本ファッションの150年――明治から現代まで』(吉川弘文館)などがあります。

ファッションという言葉はもともと「作法」を意味した

 ファッションについて考えることを難しくしている理由の一つに、言葉の捉えづらさがあります。「ファッション」という言葉はもともとラテン語のfactio」(~する、作る)に由来します。ここから英語に入っていく中で、少しずつ単語の形を変えながら、15世紀から16世紀には「生活様式」や「振る舞い」といった意味を経て「作法」や「習慣」といった意味になっていきます。現代では多くの場面で「流行」といった意味で使われることからすれば、違和感を覚えるかもしれません。

 ではなぜ「作法」や「習慣」という意味になったのでしょうか。絵画などで描かれている16世紀から17世紀の王侯貴族は豪奢な「ひだ襟」と呼ばれる首周りなどの装飾をつけています。これは実は下着が装飾として表へ迫り出していたものとのこと。なぜそうした下着を表へ出したのかといえば、身だしなみや清潔に注意を払っている人だということを他者に示すためだったそうです。いわば自分が「良き作法」を身につけていることを他者に誇示する手段だったとのことです。

 つまり「ひだ襟」は、上流階級の「作法」であり、「習慣」を視覚化するものでした。この「作法」や「習慣」は現代での「流行」とは異なり、簡単には変えることのできないものです。これが「流行」に変わるのは、18世紀から19世紀にかけて起こった産業革命で都市が生まれ、商業が発展したことに関連しています。経済が活発になったことで商品の情報を紹介する雑誌が普及します。そうして、伝統的な衣装などで生活していた人々も少しずつ新しい商品をとりいれるようになり、「習慣」や「作法」が保たれる期間が短くなります。そうして、それはやがて目まぐるしく移り変わる「流行」に変化していくのです。

芸術としてのファッション

 このように、「ファッション」は「流行」なので目まぐるしく移り変わります。また、その背景には商業が大きく関係していることもあり、芸術の領域とは異なると見られていた部分もあったようです。例えば、1983年にニューヨークのメトロポリタン美術館で『イヴ・サンローラン』展が開催されたときには、「現役デザイナーのファッションなんて」「美術館をブティックにするのか」といったような物議を醸したそうです。

 なぜファッションが芸術的なものと見なされてこなかったのかといえば、衣服は「実用的なもの」と見なされるためです。もちろん衣服は資料的な価値や技術的な情報を持っているのですが、絵画や彫刻と同じように鑑賞に堪えうる価値を示すためには、工夫が必要です。こうして20世紀後半に展示に挑む際には、収蔵庫に眠っていた歴史衣装を蘇らせ、マネキンを置く舞台装置を設定するなど、総合的な空間演出を行いました。

 このようにして、現代まで続くファッション展の分野は切り開かれてきました。こういった展開について平芳氏は、「一時的な流行を『着るもの』であったファッションは、美術館に展示されることで時間を超えて『見るもの』に変化した」として、「このことで流行の衣服としてだけでは見落としがちであった創造的・文化的価値をとどめてみせるものになった」と述べています。

ファッションは「人間の生存を維持する本質的な要素」

 このようにファッションは、時代によって大きく形や素材、あり方、その意味するものも大きく変化させてきましたが、衣服という点について、『メディア論』を著したマーシャル・マクルーハンは「皮膚の拡張」として捉えて「第二の皮膚としての衣服」という考えをもたらしました。

 一方、日本の哲学者・鷲田清一はこれを反転させ、「身体こそが第二の衣服なのだ」と語っています。身体には人為的な加工が施されているために、衣服を脱いでも、ありのままの自然の身体が出てくるわけではないからだというのです。つまり鷲田は、人間が自然を変換する営みとしてファッションを捉えており、また文化を形作る私たちの言葉や振る舞いとともに、身にまとうファッションも「人間の文化を構成するもっとも基礎的な次元」であると考えているのです。こういった点について、平芳氏は「鷲田はファッションを外見的なうわべの問題で済まさずに、ファッションが人間の生存を維持する本質的な要素であることを論証した」と述べています。人間の生存の維持に関わるという、とても重要な指摘ですね。

 ということで本書は、ファッションについてその起源までさかのぼり、現代までの歴史を手すりにその文化的・芸術的意味と思想を整理したものとなっています。タイトルでもおかわりのように本書は、東京大学文学部で行われ、大反響を呼んだ特別講義を書籍化したものです。この「教養としてのファッション」講義がなぜ東大生のこころに響いたのか。ぜひ手に取って、本書を開いてみてください。きっとその深遠な価値に気づくはずです。

<参考文献>
『東大ファッション論集中講義』(平芳裕子著、ちくまプリマー新書)
https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480684936/

<参考サイト>
平芳裕子研究室
https://www2.kobe-u.ac.jp/~hirahiro/

平芳裕子氏のX(旧Twitter)
https://x.com/rosehill8716?
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