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DATE/ 2025.05.16

駅から「時計」「時刻表」が消えた理由とは

増えるものあれば減るものもあり…

 近年の駅は誰でも心地よく利用できるように、ホームドアやバリアフリーのスロープなどの設備を増やしていますよね。実はこの一方で、「設備を減らす」取り組みも進められていることをご存知でしょうか。通勤や通学などでよく利用している駅が対象になっている方は、もうお気づきかもしれませんね。

 設備を減らす取り組みの中でも代表的なものが、時計と時刻表の撤去です。どちらも駅にあるのが当然というイメージが強いので、見当たらないと「おかしいな?」と思って探してしまうこともあるでしょう。それでも見つからないとしたら、見つけられなかったわけではなくて本当になくなっている可能性があるのです。

時計と時刻表はなぜ消えていくのか

 たとえばJR東日本では2021年11月から駅の時計の撤去を始めており、管理する駅の約3割にあたる約500駅の時計を10年ほどかけて撤去する予定とのこと。撤去の理由はひとつではなく、いくつかの要因が関わっています。

・スマホの普及:ほとんどの利用客がスマホを所持するようになり、自分の手元で簡単に時間を確認できるようになったため。
・管理にかかる手間とコスト:駅の時計には基準となる“親時計”があり、ホームなどに設置された“子時計”はそれぞれがこの親時計とケーブルでつながっています。このおかげですべての時計の時刻が正確に示されるのですが、仕組みが複雑なためメンテナンスや部品の交換に年間約4億円もかかっています。
・メンテナンスの人手不足:日本全体の労働人口が減っている中で、特殊な時計の点検や修理をできる人材の確保が難しくなっているため。

 以上のような理由に加えて、もちろん老朽化も要因のひとつ。このため、老朽化した時計から優先的に撤去が進められているのだそうです。

 時刻表が撤去される理由にも、時計と似たものがあります。それが、スマホの普及。利用客がスマホの乗り換え案内アプリなどですぐに時刻表を確認できるようになったため、撤去の動きが活発になったのです。それ以外には次のような理由が上げられます。

・ダイヤ改正時のコスト:印刷して掲示するタイプの時刻表は、ダイヤ改正のたびに掲示し直さなくてはなりません。このため、印刷代や貼り替えの人件費が毎回100万円単位でかかってしまいます。
・電光掲示板の普及:多くの利用客が情報を必要とする次発・次々発の発車時刻は、ホームに設置した電光掲示板で確認できるようになったため。

 ただし、鉄道の決まりごとである「鉄道運輸規程」によって駅には時刻表の掲示が定められているので、改札口の近くなどの目立つ場所にだけ時刻表を残しておく鉄道会社が多いようです。また、もともと時刻表があった場所にはネットの時刻表にアクセスできるQRコードが掲示されていることもよくあります。スマホをなくしてしまったり電池が切れてしまったりしたときは、印刷した時刻表を無料配布している駅もあるので窓口に尋ねてみてください。

消えているものは他にもいろいろ

 そして、駅から姿を消していっているものはまだ他にもあるのです。そのひとつがゴミ箱。撤去のきっかけは2004年3月にスペインで発生した列車同時爆破テロを受けてのセキュリティ強化とされており、京王電鉄や東急電鉄はこのときからゴミ箱を撤去しています。さらに、2020年代のコロナ禍で使用済みのマスクなどが駅のゴミ箱に捨てられるようになり、感染拡大防止ために撤去の動きが加速しました。このときには東京メトロや東武鉄道などがゴミ箱を撤去しています。また、鉄道各社は駅のゴミ箱に家庭ゴミを捨てられてしまうことに頭を悩ませており、この対策として撤去したという事情もあるようです。

 そして近年は駅のトイレも撤去・閉鎖の動きが出ています。特に駅員が常駐していない無人駅はトイレの管理が難しく、維持するためのコストも負担になるため、やむを得ず撤去・閉鎖される事例が増えています。しかし周辺に店舗などのトイレを利用できる施設がない駅では、駅のトイレがとても重要な存在。このため地域の住民から存続の要望が出されることも少なくありません。2022年3月にはJR長崎線と鹿児島線で3つの無人駅のトイレが閉鎖されましたが、住民からの要望で8月に再開された事例もあります。

 時計やゴミ箱が撤去された当初は「不便になった」という利用客の声が鉄道会社に寄せられることもたびたびあったようです。しかし利用客も次第に慣れていったのか、最近では不満の声はほとんどないのだとか。駅にあるのが当然だった設備たちが姿を消していくのは寂しさもありますが、時代の流れなのかもしれませんね。

<参考サイト>
・“駅の時計”が消えていく? JR東日本が今後10年で約500駅での撤去を計画…その理由を聞いた│FNNプライムオンライン
https://www.fnn.jp/articles/-/314914
・西武鉄道など駅ホームの「時刻表」撤去の動き ウェブサイトでの案内広がる…その背景は?│NHK首都圏ナビ
https://www.nhk.or.jp/shutoken/newsup/20240221b.html
・鉄道営業法│日本民営鉄道協会
https://www.mintetsu.or.jp/knowledge/term/16424.html
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