社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2015.12.20

働きすぎの日本人にいま最も必要なことは?

そもそも日本人は働きすぎている

 会社勤めをしたことがある人なら誰しも実感したことがあるのではないでしょうか。多くの企業が既定の労働時間を無視して社員を働かせるのが暗黙の了解となっています。そういった雇用形態を行使する会社はブラック企業と呼ばれ、世間では悪名高いものとして非難の対象になっています。

 過酷な労働環境が問題となっている業界のひとつとして、IT業界の名を聞くことが少なくありません。例えば、この業界の過酷さを揶揄する上で『デスマーチ(死の行進)』という言葉があります。パソコンに向かって作業する各種のエンジニアたちが、ひたすら睡眠時間を削って仕事を強制させられてゆく。その結果、からだを壊して、ひどいときには過労死するケースすらゼロではありません。

 もちろん、労働環境を見直す動きも高まっています。しかし、いまだに日本の企業の多くは、努力と根性があれば乗り切って行けるという、ある種の体育会系的な風潮が残っており、社員をぼろ雑巾のように扱うところは後を絶ちません。

過酷な環境下において最も必要なこと

 糸井重里氏の『ボールのようなことば。』という著作の中で、寝ちゃう、と題された魅力的な言葉を紹介しましょう。ぼやきのように聞こえてくる温かみのある文章なので耳をすませるように読んでほしいと思います。

 「アイディアがほしいときにも、悩みがあるときにも、悲しいときにも、そういえば、ぼくは「寝ちゃう」ことで凌いできました。すごいでしょう!もちろん、ただ眠いときにも、ね」

 この何気なくさらりと書かれた文章は、眠ることの大切さ、そしていて、その効用をほのめかしています。解説をほどこすことは多少野暮ですが、「寝る」ことが単純に生きてゆく上で出会わざるをない諸問題を解決するカギになるかのようです。また寝ることは、必然的に休息するための時間なのです。

 2014年に亡くなった、故・赤瀬川源平さんは『優柔不断術』という著作の中で「日本人は様々な問題に遭遇したときに、すぐに解決しないで、時間というものを上手く利用して、棚上げしてきた。例えば、ひとまずこの問題は後で考えてみることにして…などと、会議でよく耳にすることがあるだろう」といった具合に、その場の解決を求めるよりも、先送りしようとすることを説いています。気付いたら、なるようになっている…漠然としたままの状況を良しとしているのです。

 これはまた、人間関係においても生かせるでしょう。お互いの価値観で相容れないときは、白か黒かではっきりと答えを求めるのではなく、少し放っておくことで、意外と歩み寄れるものです。

 寝る、ということから若干話がそれてしまったように聞こえるかもしれませんが、寝るという休息の中にも、この「時間を置く」という解決の力が潜んでいるのです。ふと、イタリアやスペインなどの国がシェスタ(昼寝)を取り入れるのも、そういった時間の力を借りて、後半の仕事につなげようとするためだろうかと勘繰ってしまいますね。

充分な睡眠をとること

 日本の労働環境において、今もっとも必要とされるのは、充実した睡眠です。殊に四六時中、パソコンの画面と向き合って過酷な仕事を余儀なくされる人々は気をつけなければならなりません。精神を病み、からだを壊すだけでなく、死にいたる前に身を守る必要があります。デスマーチは気づかぬうちに鳴り響いているものです。

 その昔「24時間働けますか?」といった栄養ドリンクのCMが流れていましたが、「はい!」とかっこつけて答えることなどやめて、「寝かせてください」と答えて、休息を取ることも忘れてはいけません。

 よりよい睡眠こそが、ビジネスに限らず、あらゆる分野のパフォーマンスを本質的に高めるからです。そして、何よりもそれが長続きの秘訣です。

 さぁ、明日に向かって寝ましょう!

<参考文献>
・『ボールのようなことば。』(糸井重里/ほぼ日文庫)
・『優柔不断術』(赤瀬川源平/ちくま文庫)
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
「学ぶことが楽しい」方には 『テンミニッツTV』 がオススメです。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

日本でも中国でもない…ラストベルトをつくった張本人は?

日本でも中国でもない…ラストベルトをつくった張本人は?

内側から見たアメリカと日本(1)ラストベルトをつくったのは誰か

アメリカは一体どうなってしまったのか。今後どうなるのか。重要な同盟国として緊密な関係を結んできた日本にとって、避けては通れない問題である。このシリーズ講義では、ほぼ1世紀にわたるアメリカ近現代史の中で大きな結節点...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/11/10
2

近代医学はもはや賞味期限…日本が担うべき新しい医療へ

近代医学はもはや賞味期限…日本が担うべき新しい医療へ

エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(3)医療の大転換と日本の可能性

ますます進む高齢化社会において医療を根本的に転換する必要があると言う長谷川氏。高齢者を支援する医療はもちろん、悪い箇所を見つけて除去・修理する近代医学から統合医療への転換が求められる中、今後世界の医学をリードす...
収録日:2025/03/03
追加日:2025/11/19
3

知ってるつもり、過大評価…バイアス解決の鍵は「謙虚さ」

知ってるつもり、過大評価…バイアス解決の鍵は「謙虚さ」

何回説明しても伝わらない問題と認知科学(3)認知バイアスとの正しい向き合い方

人間がこの世界を生きていく上で、バイアスは避けられない。しかし、そこに居直って自分を過大評価してしまうと、それは傲慢になる。よって、どんな仕事においてももっとも大切なことは「謙虚さ」だと言う今井氏。ただそれは、...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/16
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授
4

「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ

「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ

「宇宙の創生」の仕組みと宇宙物理学の歴史(1)宇宙の階層構造

宇宙とは何かを考えるうえで中国の古典である『荘子』・『淮南子(えなんじ)』に由来する「宇宙」という言葉が意味から考えてみたい。続いて、地球から始まり、太陽系、天の川銀河(銀河系)、局所銀河群、超銀河団、そして大...
収録日:2020/08/25
追加日:2020/12/13
岡朋治
慶應義塾大学理工学部物理学科教授
5

宇宙の理法――松下幸之助からの命題が50年後に解けた理由

宇宙の理法――松下幸之助からの命題が50年後に解けた理由

徳と仏教の人生論(1)経営者の条件と50年間悩み続けた命題

半世紀ほど前、松下幸之助に経営者の条件について尋ねた田口氏は、「運と徳」、そして「人間の把握」と「宇宙の理法」という命題を受けた。その後50年間、その本質を東洋思想の観点から探究し続けてきた。その中で後藤新平の思...
収録日:2025/05/21
追加日:2025/10/24