テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2016.06.06

反捕鯨国が日本人にクジラを食べさせたくない理由とは?

 クジラを食べるか、食べないか。捕鯨問題は、今やあまり日本人の関心を引かない話題になりつつあります。飽食の時代、「クジラなんて、食べなくても、どっちでもいい」というのが、みんなのホンネだからでしょうか。

給食によみがえる「クジラの竜田揚げ」

 昭和30年代から40年代の風物詩に、学校給食の「クジラの竜田揚げ」を挙げる人も多いでしょう。当時高かった牛・豚・鶏肉の代わりに安価な鯨肉を、少しでもおいしく子どもたちに食べさせるために開発されたメニューでした。

 そんな「クジラ給食」が消えたのは、1987年に南極海での商業捕鯨が中止になったため。一時は「給食のクジラ経験があるかないかは、おじさん度のバロメーター」といわれるほどの急激な減少でしたが、2008年ごろからは徐々に復活を果たしています。

 たとえば、山口県下関市では年間12回、学校給食にクジラ料理が登場します。2016年2月3日の節分の日には、「大きなものを食べて邪鬼をはらう」という山陰の風習にちなんで、下関市・長門市が共同で「学校給食・くじら交流の日」を実施。かつてのような肉の代用感覚ではなく、「日本伝統の食文化を守る」スタンスの強いのが、トレンドのようです。

クジラに戒名をつけ、供養してきた日本人

 一方、「一度失われた食文化は戻らない」という危機感から、商業捕鯨が禁止された年に始まったのが、「クジラ食文化を守る会」。日本のNPOの先駆けです。その会長を務めるのは、10MTV講師で東京農業大学名誉教授の小泉武夫氏。小泉氏によると、日本人とクジラの関係は決して切れない深いものだそう。

 佐賀県の呼子、山口県の仙崎、宮城県の女川、和歌山県の太地など、日本各地に点在する捕鯨基地を訪ねた小泉氏は、基地の近くの寺院にクジラを供養する「鯨墓」があり、戒名までつけられた例もあることを紹介しています。

 ときおり浅瀬や岩場に座礁するクジラを、日本人は「寄り鯨」と呼び、海神からの賜り物として珍重しました。漂着神として信仰される「えびす」神は、クジラそのものだとする地方もあるほどです。

反捕鯨国が日本人にクジラを食べさせたくない理由とは?

 小泉氏は主張します。「いま日本に"捕鯨禁止"を強く迫っているのは、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドの3国。いずれも日本に牛肉を輸出している国ばかり。これは、日本に牛肉を売りたいからです。そして、アイスランドやノルウェーは商業捕鯨をして良いのに、なぜ日本はダメなのか?こういった理不尽もあります。今やクジラは、人類の食、環境といった問題を超えて、政治や経済の道具に使われているのです。」

 70年前の戦後混乱期、日本人の動物性たんぱく質は70%までクジラで支えられました。低い食料自給率に悩む日本が、今以上に輸入牛肉に頼るようになれば、万が一供給がストップした際、「クジラを食べられない」日本人は何を食べればいいのでしょうか。

 今年は夏バテ予防に、「ウナギとクジラ、どっちにしようか」とひとしきり迷ってみるのもいいかもしれませんね。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
雑学から一段上の「大人の教養」はいかがですか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

「見せかけの相関」か否か…コロナ禍の補助金と病院の関係

「見せかけの相関」か否か…コロナ禍の補助金と病院の関係

会計検査から見えてくる日本政治の実態(2)病床確保と補助金の現実

コロナ禍において一つの大きな課題となっていたのが、感染者のための病床確保だ。そのための補助金がコロナ患者の受け入れ病院に支給されていたが、はたしてその額や運用は適正だったのか。事後的な分析で明らかになるその実態...
収録日:2025/04/14
追加日:2025/07/18
田中弥生
東京大学客員教授
2

なぜ民主主義が「最善」か…法の支配とキリスト教的背景

なぜ民主主義が「最善」か…法の支配とキリスト教的背景

民主主義の本質(1)近代民主主義とキリスト教

ロシアや中華人民共和国など、自由と民主主義を否定する権威主義国の脅威の増大。一方、日本、アメリカ、西欧など自由主義諸国における政治の劣化とポピュリズム……。いま、自由と民主主義は大きな試練の時を迎えている。このよ...
収録日:2024/02/05
追加日:2024/03/26
橋爪大三郎
社会学者
3

胆のう結石、胆のうポリープ…胆のうの仕組みと治療の実際

胆のう結石、胆のうポリープ…胆のうの仕組みと治療の実際

胆のうの病気~続・がんと治療の基礎知識(1)胆のうの役割と胆石治療

消化にとって重要な臓器「胆のう」。この胆のうにはどのような仕組みがあり、どのような病気になる可能性があるのだろうか。その機能、役割についてあまり知る機会のない胆のう。「サイレントストーン」とも呼ばれる、見つけづ...
収録日:2024/07/19
追加日:2025/07/14
糸井隆夫
東京医科大学病院 消化器内科 主任教授
4

3300万票も獲得した民主党政権がなぜ失敗?…その理由

3300万票も獲得した民主党政権がなぜ失敗?…その理由

政治学講座~選挙をどう見るべきか(5)政権交代と民主党

民主党は、2009年の衆議院選挙で過半数の議席を獲得し、政権交代に成功した。しかし、その後の政権運営に失敗してしまった。その理由についてはいまだ十分な反省が行われていないという。ではなぜ民主党は失敗してしまったのか...
収録日:2019/08/23
追加日:2020/02/12
曽根泰教
慶應義塾大学名誉教授
5

印象派を世に広めたモネ《印象、日の出》、当時の評価額は

印象派を世に広めたモネ《印象、日の出》、当時の評価額は

作風と評論からみた印象派の画期性と発展(2)モネ《印象、日の出》の価値

第1回印象派展で話題となっていたセザンヌ。そのセザンヌと双璧をなすインパクトを与えた作品があった。それがモネの《印象、日の出》である。印象派の発展において重要な役割を果たした本作品をめぐる歴史的議論や当時の市況を...
収録日:2023/12/28
追加日:2025/07/17
安井裕雄
三菱一号館美術館 上席学芸員