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ナノマシンはアルツハイマー病の治療にも有効

ナノテクノロジーで創る体内病院(4)ナノ医療の未来

片岡一則
ナノ医療イノベーションセンター センター長/東京大学名誉教授
情報・テキスト
ナノマシンを使った最先端治療が研究されているのは、がんだけではない。東京大学政策ビジョン研究センター特任教授でナノ医療イノベーションセンター長の片岡一則氏によれば、ナノ治療が最終的に目指すのは、まさにバラ色の未来だ。再生医療で関節の痛みはなくなり、長期入院も不要になる。アルツハイマー病さえ過去の病にしてしまう可能性を、ナノマシンは持っている。(全5話中第4話)
時間:16:44
収録日:2016/10/24
追加日:2017/03/15
≪全文≫

●バラ色の未来に向けたビジョン


 ナノマシンを使った体内病院の実現に向けた研究を進めていますが、やはりビジョンが必要だろうということで、われわれはそれを明確にしました。今ここで取り組んでいる文部科学省のプロジェクトにCOINS(Center of Open Innovation Network for Smart Health、コインズ、スマートライフケア社会への変革を先導するものづくりオープンイノベーション拠点)があり、このスライドにあるものをミッションとしてやっています。

 ここまでの研究のビジョンは、がんの再発・転移を大幅に抑え、国民をがんの不安から解放するというものです。しかし、がんの治療以外にも、いろいろな課題があります。例えば、アルツハイマー病の治療です。また、年齢を問わず、スポーツが楽しめるようになることや、社会が医療コストの負担から解放され、病気が国民の精神的・身体的負担にならなくなること、そして医療が日本の基幹産業になることがビジョンで、(これらが解決されれば)まさにバラ色のような未来が生まれます。

 これを、単なる願望ではなく現実のものにするにはどうしたらいいか。そのためにミッションがあります。アルツハイマー病を克服するには、まず脳に薬を自由に届けなくてはいけません。そこで、血液と脳の間の関門を突破する必要があります。

 また、年齢を問わずスポーツが楽しめるようになるには、運動・感覚器官の再生ができなくてはいけませんが、これをどうするか。さらに医療コストを考えなくてもいいということは、負担なく正確な予防診断技術を確立しなくてはいけないということです。そして、病気が国民の精神的・身体的負担にならないということは、入院が不要となり日帰り治療が普及することを意味します。最後に、医療を日本の本当の基幹産業にするためには、今のままでは駄目なので、医薬・医療のビジネスモデルを変革する必要があります。こういったことをミッションとして、今は進めています。


●負担のない正確な予防診断技術の確立


 では、社会が医療コストの負担から解放されるという点から説明します。言い換えれば、本当に負担なく正確な予防診断技術などができるのかということです。その例として挙げたいのが、磁気共鳴イメージングです。これはMRIと呼ばれます。現在、日本ではかなり普及しており、約6,000台が稼働しています。年間のべ約110万人が検査を受けています。

 MRIの良いところは、放射線が要らないことです。そのため、完全に無侵襲で安全で、(同じ患者に)繰り返し使えます。その反面、弱点もあります。MRIは、解像度は良いのですが、感度が低いのです。MRIとCTとPETを比較しても、MRIは放射線被ばくがありませんし、解像度もかなり高いため単独運用が可能ですが、残念ながら感度が低いのです。

 そこでよく使われているのは、PET-CTです。これはPETとCTを組み合わせたものです。図の数字が小さいほど解像度が高いことを示しますが、PETは、感度は高いのですが、解像度が低い。CTは、感度はそれほどでもないが、解像度が高い。だから両方組み合わせる必要があります。ところが、これではどちらも放射線で被ばくをしてしまうのです。

 MRIの解像度は高い。もしMRIの感度を上げることができれば、安全でかつ単一の装置で診断ができることになります。そのためには、感度向上のために造影剤が必要となります。そこで、ナノマシンの登場です。画面に示したのは、最近われわれが作ったナノマシン造影剤です。先ほどからお話ししているミセルの真ん中に、リン酸カルシウムという物質が入っています。骨の成分ですので、非常に安全です。その中に造影剤としてマンガンのイオンが入っています。このままでは造影されませんが、骨の成分(リン酸カルシウム)は、酸性になると少し溶けます。がん細胞のエンドソーム内はpHが非常に低いのですが、がんの組織自体のpHも7.4から7.0と少し下がります。このわずかな変化を検出して、ミセルのリン酸カルシウムが溶けます。そうすると、わっとマンガンが出てきて、造影ができるようになります。

 実際にどのぐらいになるかということですが、図の左側にあるのが、がんです。全く見えませんが、造影剤を投与すると、きれいに見えるようになります。このぐらいはっきり見えます。しかもそれだけではなく、信号強度も大幅に上がっていることが分かりました。

 さらにがんの転移も分かります。上の写真は肝臓を見ているものです。肝臓に白いポツッとした点がありますね。これが転移した直径1ミリメートルから2ミリメートルのがんです。こんなにきれいに見えるのです。現在、臨床で使われているプリモビストは陰性造影剤なので、がんの部分が黒くなって抜けます。ところが残念なことに、血栓なども同じように黒く抜けてしまうため、それだけで...
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