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メディア戦略を重視したヒラリーがトランプに負けた理由

トランプ政権研究(1)アメリカ大統領選・民主党の敗北

島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
公立大学法人首都大学東京理事長の島田晴雄氏は今年(2017年)4月、アメリカを訪問したが、そこで専門家たちから聞いた情報を踏まえて、トランプ政権の特質について解説する。第1回はアメリカ大統領選挙の結果についてだ。トランプ政権の誕生は非常に驚くべきことだったが、それは民主党の選挙戦略の失敗によるものである。トランプ氏は中西部、ラスト・ベルトの白人労働者層の心をつかんだが、クリントン陣営はメディア戦略を重視して、草の根キャンペーンを怠った。(全11話中第1話)
時間:13:58
収録日:2017/05/23
追加日:2017/06/03
カテゴリー:
≪全文≫

●トランプ大統領の誕生はショッキングな出来事だった


 ドナルド・トランプ政権は、日本にとって、そして世界にとっても、非常に大切な意味を持つ政権です。ただ、トランプ大統領の誕生は、アメリカにとっても、世界中にとっても、大変ショッキングな出来事でした。彼は前代未聞の過激発言をするし、明らかな無知に起因する危険な発言も多いのです。性格的には極端に自己中心的で、情緒不安定です。どんな大統領になるのか、まだよく分かりません。本当に予測不能なのです。したがって、日本をはじめ世界各国は、彼とどのように取り組んでいけばいいのか、そこは非常に大きな問題です。特に日本にとってアメリカは命綱ですから、トランプ政権をどう理解するかということは、日本の舵取りの上で、極めて重大な問題になってきます。

 そこで私たちは、この問題をどのように考えていけばいいのか、整理してみようと思いました。どんな大統領でも、就任後にいろいろと学習をします。経験を積むにつれて、過激な政策も次第に修正されてきます。だとすれば、日本がするべきは、日米安保と日米協力を基盤にして、世界と一層協調していくということでしょう。日本自身についていえば、成長力を高めて、財政健全化を目指し、長期の展望を確保することが重要になります。

 しかし、トランプ氏が選挙戦中に主張していたような乱暴な主張を、仮に貫徹するということになれば、どうでしょうか。彼は安全保障や国際協力の意味を全く分かっていません。これらを阻害する、あるいは破壊しかねないのです。そうなれば、日本はアメリカに命綱を完全に預けておくわけにもいかず、自力で防衛しなくてはならなくなります。現代の世界で自力で防衛するとなれば、核武装の必要性が高まってくるでしょう。これは重大な問題です。また、そうなると、アメリカ一辺倒ではいかなくなるため、中国など他の主要国との協力関係を開拓することにもなるでしょう。しかし、今まで日本はこうしたことをやってきませんでした。

 そこで私たちは、4月の中頃にワシントンD.C.とニューヨークを訪問し、民主党から共和党系まで、さまざまなシンクタンクや専門家に意見を聞くことにしたのです。政権が発足して3カ月もたてば、トランプ政権の政策や特質が、大体見えてくるのではないか、と思ったからです。島田塾の有志でアメリカに訪問してきました。ヒアリングやディスカッションの結果を踏まえて、トランプ政権下のアメリカと今後どう向き合っていくのかについて、手掛かりを得ることが目的です。皆さん、大変よく協力してくれたので、たくさんの情報が手に入りました。そこで今日は、皆さんにそのエッセンスをお伝えして、一緒に考えてみたいと思います。


●トランプ氏の発言は世界史を全く知らない人の発言だ


 2016年11月8日、アメリカ大統領選の投票当日まで、アメリカのほとんどの方は、特に知識層の方々は、何があってもヒラリー・クリントン候補の勝利になるだろうと思っていました。そうなってもらいたい、という願望もあったでしょう。

 ご存じのように、アメリカの選挙制度は非常に古く、200年以上前、独立した当時の選挙制度を使っています。当時は情報伝達が不十分だったため、各州で多数を取った候補がその州の選挙人を総取りする、という仕組みでした。その選挙人の数を全部足すと、大統領選の結果が出ます。こうした200年以上前の古い仕組みを、今でも踏襲しています。

 選挙の結果、大方の人々の期待に反して、選挙人の数でトランプ氏が勝ってしまったのです(トランプ氏306人、クリントン氏232人)。

 これは大変ショッキングな出来事でした。トランプ氏は選挙中にかなりむちゃくちゃな発言をしていたからです。例えば、メキシコの不法労働者の入国を阻止するために、メキシコの費用負担で国境に壁を立てる。中国と日本は不公正貿易をしているから、中国からの輸入品には45パーセントの関税を掛ける。中国は「ひとつの中国」を主張しているが、そんな原理にはとらわれない。これらは、世界史を全く知らない人の発言です。

 あるいは、こういうことも言っていました。イラクを攻撃して、油田を占領したらどうか。NAFTAは最悪だから、交渉し直しだ。北大西洋条約機構(NATO)は時代遅れで、テロにも無力だから、廃止すべきだ。TPPはアメリカの労働者のためにならないから、アメリカは即時離脱する。日本などの同盟国は、米軍の駐留で安全を享受しているのに、駐留経費を十分払っていない。十分払わないのなら、米軍は撤収する。日本が自衛をするのなら、核武装でもしたらいい。ウラジーミル・プーチン大統領は非常に強力な指導者であり、尊敬に値するから、彼と協力していく。場合によれば、ロシアに対する経済制裁を解除しても良いかもしれない。これはグランド・バーゲン(...
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