●ブランドの基本をもう一度新たに考え直す
中央大学ビジネススクール大学院戦略経営研究科教授の田中洋と申します。本日は多数の方ご来場いただき、ありがとうございます。またこうした場を設けていただき、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社(CCC)、蔦屋書店にも感謝申し上げます。本日は最初の30分は私がお話しし、その後はジャーナリストでifs未来研究所所長の川島蓉子氏に加わっていただき、トークセッションを行います。
今回は、「ブランドってなに?」というタイトルでお話しします。ブランドのことはよく知っていると思っていても、しばしば実際に議論を始めると、それが何なのかが分からなくなってしまうという経験があるのではないでしょうか。私もいろんな企業を見てきて、そうしたことが非常によく起きるのを目の当たりにしてきました。2017年に『ブランド戦略論』(有斐閣)という本を執筆したのですが、その理由は、こうした問いに対する回答を少しでも与えられればと思ったからです。
私はもともと、電通という会社に、21年間勤めていました。その後、現在は中央大学ビジネススクールで働いています。中央大学ビジネススクールは後楽園にありますが、土曜日曜に講義が開講され、働きながら2年間でMBAが取れるという学校です。そこでは『ブランド戦略論』を使いながら講義をしていますので、ご関心をお持ちいただければ、社会人の方であってもぜひご志願いただければと思います。
『ブランド戦略論』は私の最新の本ですが、2017年12月に発売されて、もうすでに重版が決まりました。有斐閣の営業の方の努力によるところが非常に大きいのですが、おかげさまでたくさんの方にご購入いただけました。4,000円(税別)という非常に高い本ですので恐縮していますが、有難いことです。
この本の特徴は、統合ブランド戦略の枠組みを示したということにあります。詳しくは後で少しご紹介しますが、ブランドの最も基本的なところをもう一度新たに考え直しました。例えば、ブランドの定義とは何かといった問題もそうです。
●ブランドとは何かが非常に不明確になっている
なぜこの本を書いたのか、そのモチベーションからお話ししましょう。先ほども申し上げたように、ブランドをどのように理解したらいいのか、実際の議論になると分からなくなってしまうことがよくあります。特に社内で議論するとき、どうすればいいかという問題です。「今の時代、ブランドって大事ですよね」。「うちのブランドってちょっと問題ですよね」。「ブランドを強化しましょう」。こうしたレベルであれば、皆さん賛成してくれます。しかし、いざブランドについて何をすればいいのか考えるとなると、途端に議論が沸騰してくるのです。先日、ある関西の企業の方にお話を聞きました。ブランドについて議論しようとすると、「ブランドは大事だけれど、うちの会社には技術力や商品力、営業力があるのだから、ブランドのことは対策しなくてもいい」という意見が出るようです。中には、「うちの会社はブランド力がないことがブランドなんだ」という、ちょっと訳の分からない議論もあったりします。
このように、結局ブランドとは何かが非常に不明確になってしまっています。例えば、ブランド力と商品力、技術力などをどのように区別すればいいのか分からなければ、結局ブランドについて何をしたらいいのか議論がまとまりません。こうした状況を克服してもらうために、この本を書きました。
●ブランドは売り上げなどの本質にインパクトを与えている
もう一つ、モチベーションについてお話しします。ブランドというと表層的な話だろうと考える方がいます。確かに、そういったことを書いている本もあります。それには、ブランドは表層的な力だから、もっと深層や本質に関わる商品力や営業力こそが大事だと書いてあるわけです。
そうなると、例えばブランドイメージという言葉があるように、「表層だけ取り繕えばいいんだ」という人も出てきますし、あるいは表層だけを取り繕ってもどうにもならないと考える人も出てくるでしょう。うちの会社は本質的に物作りが得意なのだから、ブランドなんて考えなくていいというわけです。
しかし、ここで少し立ち止まって考えてみましょう。確かにある意味では、ブランドには表層的でふわふわしたイメージがありますが、他方で、ブランドはまた企業を動かすための売り上げや企業価値といった本質にもインパクトを与えています。もちろん消費者が何かを選ぶときにも、ブランドが頼りです。
例えば、プラセボ効果という現象があります。ある医者たちが実験しているのですが、ブランドを付けた頭痛薬とブランドを付けない頭痛薬を、別々の患者に与え、その効果を試しました。プラセボ効果とは偽薬効果のこと...