●産業保健戦術4段階
それでは、今エイジマネジメントの考え方をご紹介しましたが、今度は産業保健という領域から、エイジマネジメントの考え方に基づいて高齢社会、そして高齢労働社会であるからこそ生まれてくる課題、これに対して、どのように取り組んでいくかというお話をします。このときの産業保健戦術としては、私が考えた個人、職場、企業、行政に至る4段階戦術を中心としてお話を進めていきたいと思います。
具体的にはどんなものかというと、最初の第1段階では「個人レベルでの戦術」、そして第2段階では「職場レベルでの戦術」、そしてそれをやったら、今度は「企業レベルでの戦術」、さらにその上位として「国もしくは行政レベルでの戦術」というように、4段階に分かれています。
●個人レベル戦術と職場レベル戦術
その中で、第1段階の「個人レベルでの戦術」、第2段階の「職場レベルでの戦術」は第一次予防に関するお話です。この第一次予防も「健康関連因子に関する第一次予防」、そして「作業関連因子に関する第一次予防」に分けています。このような形で話を進めていきます。
まず、簡単に第1段階と第2段階のお話をします。まず第1段階、これは個人レベルの戦術ですが、これは病気などの健康障害そのものを予防することを目的としています。この対策は多くの皆さんになじみのある、食事、運動といった健康に直接関連する項目です。健康的な生活習慣づくりを指しています。
第2段階の職場レベルでの戦術は、仕事に関連した、さらには働いている場所の環境に関連する予防活動です。一般的には、この職場レベルでの戦術は健康管理活動とは結び付けないと思われます。しかし、この戦術が、健康を維持もしくは増進させる上で非常に大事な役割を果たすものと、私は位置付けています。非常に大事な側面なのでもう一度、繰り返しこの第2段階のところをお話ししますと、日々の労働場面での過大な負荷を背負わないように、さらには体に有害な作業環境を避けるように、職場づくりをしていかなければいけません。したがって、この職場レベルでの戦術は職場改善活動という言葉に尽きると思います。
これらの対策は労働衛生管理活動の中の作業管理、作業環境管理に位置すると思います。実は、健康管理にはこの作業管理、作業環境管理が非常に重要なことです。これは、以前にラマツィーニの話をしましたが、そこでお話しした通りです。
●機能年齢算定式-重要な5つの要素
ここで、第一次予防の個人レベルでの戦術に少し立ち戻ってみたいと思います。この個人レベルでの戦術、これはいわゆるアクティブエイジングの指標を作らなければいけないということです。そのためには、今申し上げた生活習慣病の予防もさることながら、体力面での若返りや、機能年齢を低下させる、すなわち若返らせるということが非常に大事な問題になるかと思います。
そこで、かつて私が機能年齢算定式を編み出した時に、どの機能が必要だったかということを紹介したいと思います。この第1段階における体力年齢、さらには機能年齢を引き下げる機能、この機能年齢算定式に重要な役割を示した機能が次の5つでした。「夜間視力」(暗いところで見る力)、「立位体前屈」、「1秒率肺活量」、血圧の中でも上の方の値である「収縮期血圧」、そして「全身反応時間」です。この5つの機能が、機能年齢を表現するのに非常に大事な要素であるということが分かりました。
●職務能力に大きく関わる機能年齢
この5つの機能で構成された機能年齢算定式を用いて、愛知県内にある某企業を対象として、機能年齢の算定を試みてみました。暦年齢分布にこの機能年齢分布を重ね合わせたのが上のグラフです。ちなみに算定式に「30lxルクス視力」とありますが、これは夜間視力のことです。横軸が15歳から88歳までの年齢です。縦軸がその頻度を表しています。そうすると、緑の部分が実際の従事する従業員の年齢分布です。彼らに対して、体力測定や健康診断データを取り入れて、この機能年齢算定式に当てはめてみました。
その結果がこの赤で示された棒グラフです。すると、実際にはいない15歳から18歳までの年齢の人たちが若干名出てきています。また、この会社の対象者たちは60歳でいったん定年になっているので、それ以降、この対象群からいないはずなのですが、この赤の棒グラフで見ると、1名ですけれども87歳の人がいます。このような人が出てくるのです。
これは何を意味するかというと、機能年齢で何もガードを掛けなくて計算式で出しておりますから、この若い年齢が出たというのはその人がスーパーマン...