●客観的に見ても評価の高い日本の医療レベル
いろいろなお話をしてきているわけですが、もう一度、日本の医療レベルを確認して、かつ今度は「いい」ということだけではなく、何が問題か、言い替えると何がビジネスチャンスかということを見ていきたいと思います。
そこで、第1話でご紹介したのは『日本の医療、くらべてみたら10勝5敗3分けで世界一』(講談社+α新書)ですが、この本だけで説明するのではなく、他の資料も交えてお話ししたいと思います。
実は、上の表は、同じくテンミニッツTVで講義をされている日本医師会副会長の今村聡先生も出されたもので、世界の医療を項目別に評価したものなのですが、今村先生が使われているのを見て、私もこのカナダのカンファレンスボードの資料を取り上げているわけです。
今村先生もお話しされたかもしれませんが、これを見ても日本(JAPAN)はほとんどどの項目でも「A」評価なのです。一方、少し悪いのは2つあります。1つは「C」ですが、これは先ほどお話しした呼吸器疾患による死亡率で、つまり肺炎です。高齢者にとって嚥下性肺炎というなかなか薬も効きにくく、高齢者であれば避けがたい病気です。したがって、高齢化社会の日本では、この病気で亡くなる人が多いのはやむを得ないことではないかと思います。
もう1つ評価が低いのは、「Self-reported health status」、つまり自らが評価する自身の健康状態です。これは主観的なものなので、客観的にはやはり日本の医療は非常に優れていると思います。
それを私なりに解釈したのが、第1話でお話しした日本と世界の医療を比べた、上の表です。繰り返しになるので、ここでは説明を省きます。
●課題は国全体の医療費の高さ
ただ、問題は医療費なのです。もともと安くて、レベルが高くて、すぐお医者さんに行けるという、この3つは医療経済でなかなかかなえられないのに、それを3つともかなえているのが日本の医療だと、第1話でお話ししました。実はこの中でお金があまりかからない(安い)ということには、2つ意味があるのです。第1話で説明したのは、自己負担が少ないということでした。これは今も変わっていません。医者がその働き方の中で無理をしていたことで、この3つがかなえられていたということからいうと、今後厳しくなりそうなのはアクセス面についてです。
つまり、今までは病院に割と自由に行けましたし、夜遅くに病院に行ってもお医者さんがいて、インフォームドコンセントでお医者さんが患者さんの状態の説明をしてくれるというようなことが、今までもありました。また、土曜日なども外来はやっているということがあったのですが、働き方改革でむしろこの土曜日外来をやめようとか、お医者さんの帰る時間を考慮して夜のインフォームドコンセントはやめようなど、そのような話になってきているのです。
ですから、自己負担のお金はあまり悪くなっていないにもかかわらず、国全体の医療費が先ほどの評価でも「×」にしているのですが、急速に上がってきています。実は、2011年のデータを見ると、対GDP当たりの医療費はOECDの平均と比べても低いのです。アメリカなどは極端に高い状態です。
●2013年から急に医療費が上がった理由
ただ、2013年になると、日本のランキングはOECDの平均よりもはるかに上回っています。どうして2年でこんな状態になってしまったのかというと、実は患者さんにとってはいい変化がこの2年の間にあったからです。1つは、最先端の医療技術や薬の保険収載が日本で急速に進んだことです。2008年、2009年は民主党政権の時期で、今まで保険が使えなかった値段の高いがんの薬やリュウマチの薬を、どんどん保険が利くようになったのです。それはそれでいいことなのですが、当然値段は高いので医療費としては急速に上がってしまったということで、こういう状況になったのです。これが2013年のことです。
2014年になると、さらに上がってしまいます。世界で3位内、実質的には同率の2位です。1年で1パーセント以上上がってしまったということなのですが、これには統計の問題があります。
もともと日本は世界では珍しいのですが、介護保険を導入しています。つまり、医療保険と介護保険の両方があるのです。難しいのは介護の中にも医療を受けている人がいるということです。しかし、それは介護保険の中でやっていたので、今までそこは医療費には入れていなかったのです。ところが、世界には介護保険をやっている国は少ないので、ほとんどの国は介護を行っている...