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「人の資本主義」においては、人間的な人間が重要である

人の資本主義~モノ、コトの次は何か?(5)『論語』からみる新しい人間

中島隆博
東京大学東洋文化研究所長・教授
概要・テキスト
資本主義の最終段階である「人の資本主義」においては、労働や知識獲得ではなく、世界との関連の仕方を変えていかなければならない。その場合、中国哲学における「仁」が手掛かりになると、中島隆博氏は言う。(2018年5月15日開催日本ビジネス協会JBCインタラクティブセミナー講演「人の資本主義」より、全8話中第5話)
時間:09:07
収録日:2018/05/15
追加日:2019/03/13
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≪全文≫

●「人の資本主義」においては、人間的な人間が重要である


 こうしたことを念頭に置くと、人間の再定義ができるのではないかと思っています。来るべき「人の資本主義」において、人間の再定義は絶対に必要です。先ほど述べた通り、資本主義はモノからコトへ、そしてコトから人へ移行していくだろうと思います。今は大体まだ、コトの段階でしょう。この段階では、出来事はパッケージ化されています。それの何が不満かというと、出来事を経験しても、経験した人の在り方はそんなに変わらないからです。経験が増えた状態は、経験が乏しい状態よりも望ましいといえます。しかし本当に大事な価値とは、全く違うCapabilityを身に付け、その人の在り方が変容することです。それは単に自転車に乗れるというようなことではなく、その人の世界に対する関与の仕方が変わる、ということです。私はこれが価値というものの重大な在り方なのではないかと思っています。

 そうすると、Human Becomingとは、これまでより人間的になっていくということだと思います。もちろんこの「人間的」というのが問題です。われわれはこれを、主体としての人間のように、あらかじめ前提されたイメージでもはや語ることはできません。そうではなく、より良い形で変わっていく結果として考えることが求められます。内容としてはその都度発明されなければいけないものなのでしょうが、Capabilityを上げたその価値に向かって人間が変容するということが、とても大事なのだろうと思います。


●人間が変容するためには、他者との共変が求められる


 ただし、気をつけなければならないのは、「human beingじゃなくてHuman Becomingだ」と言ったところで、放っておいても人間は変容しません。人間が変容するためには、いろいろな情報をその人にあげるような、他の人間が絶対に必要です。

 例えば「勉強しなさい」というだけでは得られるものは情報や知識だけで、変容は生じません。ですから、そのプロセスでは人が関与していかなければならないのです。先ほどの自転車の例でも、自転車の乗り方を教える人や自転車に乗って良いのだという社会的状況を整える人が絶対に必要でした。誰か別の目や手が人間の変容には絶対に必要だということです。そうするとHuman BecomingどころかHuman Co-becoming、つまり共に変容して...
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