●北朝鮮への経済援助は国際関係を大きく揺るがす
―― 最後に、日本の話をお伺いしたいと思います。デカップリング、すなわち離間論や分断工作という部分でいうと、先ほどの北朝鮮による韓国へのメッセージというのは、極めて怖いメッセージです。「お前ら、俺たちとうまくやろうとするならば、もっと経済協力しろ」、みたいなものです。もし韓国がそれに応えて経済協力をしたら、今度は米韓の間がめちゃくちゃなことになりますよね。だから「お前ら、どっちを取るんだ」という半ば踏み絵のような状態になっています。
小原 これまで韓国が歩み寄れなかったのは、アメリカがやっちゃダメだと言ったからです。
―― ということですね。
小原 それから、やっぱり経済協力の中の多くは、国連制裁に引っかかる可能性があるんです。そういう意味でいうと、やはりアメリカや国連安保理での議論が進まないといけません。実は中国とロシアは、この制裁は解除していいんじゃないかということで、安保理に働きかけているんです。もちろん、安保理では常任理事国が全員イエスと言わないかぎり動きません。ですからアメリカは今、制裁を解除すべきじゃないと主張し続けています。これには日本も強く釘を刺しているので、現状が維持されているんだと思います。
そういう意味で言うと、今は静かに見えますけどね、これから半年、つまり2019年の年末までの各国が動き方によっては、来年は大変厳しい年になると予想されます。また緊張が高まる可能性があると思いますね。
●アメリカ国内の関心は北朝鮮よりイランに向いている
小原 ただドナルド・トランプさんはイランも抱えていますし、中国も抱えています。その中で、大統領選挙がいよいよ来るという時期に、北朝鮮問題でどの程度北の要求に応えられるのかという問題があります。つまり、下手すると、大統領選挙にも影響するのです。
実は大統領選挙のことを考えると、トランプさんにとって北朝鮮はそんなに大きなテーマではないんです。もちろん、最も大事なのは経済です。これまでも大統領選挙を最終的に決めてきたのは国内経済でした。今、アメリカでは経済がちょっとおかしくなってきてますね。これは金利や米中の貿易戦争が関わっています。米中の貿易戦争は自分が仕掛けたものですが、どうやってこれをソフトランディングさせていくのかが非常に難しい。
それに対して、アメリカ国内ではイランへの国民の関心は圧倒的に高いのです。在イランのアメリカ大使館の人質事件もあり、イランに対しては国民の関心が相当高く、かなり厳しい見方を持っている人もいます。そういう意味でいうと、金正恩さんがいくら叱りつけても、アメリカの優先度は1番にはなかなかならないんですね。特に大統領選挙を念頭に入れると。
そのため、やっぱりトランプさんは北朝鮮問題について「私は急ぎません」と言っているんですね。「急ぎません」というのはまさにそういうことです。ところが金正恩さんからすれば、「私は急いでいます」「早く制裁解除してください」ということになります。「そうしないと、僕、暴発するかもしれませんよ」と言っているのです。
●中国は北朝鮮を実質的にサポートしている
小原 これには、中国も若干心配しています。「暴発しちゃいかん。制裁を解除しないといかん」と。さらに中国は、国連制裁決議に違反しない範囲で、やはり少しできることはやっていこうという話があるようです。国境を接していますから、それなりの現場でいろんな交流があります。そこで、これまで会った人には、そうしたことを話していると思います。例えば人道支援にしてもそうですし、あるいは人の交流ですよね。観光も含めて。こういうものは国連制裁決議の内容に引っかかっていないですから、これで今、少しずつ中国は実質的なサポートをしていると思うんですね。ただ、それだけでも行き詰まってしまいますから。そうなってくると、やっぱり時間の問題というのは非常にこれから大きくなるでしょう。僕は、2019年の年末から2020年にかけてが要注意だなと思っています。
●北朝鮮の体制転覆の可能性
―― 確かに、シリーズ内でお話が出た「悪人の論理」からいけば、制裁をジリジリ、ジリジリと続けていくと、文字通りの兵糧攻めですもんね。それによって国内がもたなくなって、クーデターや体制転覆が起こることもありますし。また、金正恩のお兄さん(金正男)の息子をアメリカがかくまっているといった話もあったりして。そういうことも含めると、兵糧攻めでやりながら、体制変換をやっていくという必要もあるのでしょう。
小原 ただこれね、北朝鮮がひっくり返ってしまうと、中国は困ってしまうんです。難民が大量に入ってきますからね。体制が倒れるということは大変なので、これはどうしても防がな...