●横井小楠が考えた日本の役割
――佐久間象山は本当にすごいですね。この門下から勝海舟も、坂本龍馬も、陸奥宗光も出てくるし、その系譜がすごいですね。
田口 その後の日本を背負った人がたくさん出ているというのは、すごいことです。
―― やはり、この人たちが主軸にさえなっていれば、という意味では非常に惜しかったですよね。岩倉具視らがいない間に、西郷隆盛に廃藩置県などの難しいことを片っ端からやっておいてもらいましたが、その後、佐久間象山や横井小楠という構想係と、西洋から戻ってきた人たちが協力して進めれば、ずいぶん違ったでしょう。
田口 全然違ったでしょう。佐久間や横井といった構想係がおり、大久保利通と伊藤博文のようなすこぶる優秀な実行係がいました。この4者が力を合わせつつ、西郷なども協力しつつ全体の責任者として岩倉がいる、というような布陣であれば、もっと凄まじい、優秀な国になっていたでしょう。言ってみれば、地球の上を非常に発展・繁栄させることができるような、国家構想を引いたでしょう。
横井は、世界に大義を引くということが、日本の基本的な役割だと考えました。要するに、「なぜ地球はあるのか」「なぜ地球の上に人類はいるのか」ということに対する大義です。そうしたものを地球上の人間に示すというのが日本の役割なのだと、彼は言いました。そういうことを考えても、彼を失ったのは残念でならないのです。
●日本の優秀さを理解する構想係がいれば、日本は脱線しなかった
―― 少なくとも日露戦争の頃までは、まだそれなりに、江戸で別選の教育を受けた人たちが残っていたから、なんとかうまくいったのでしょう。しかし、その後は、そうした武士の末裔の将官たちが消えて、そこからはダッチロールのような動きが始まりますね。
しかし、そこで佐久間や横井のような構想係がいて、枠をしっかり決め、そして自分の頭で考える人たちがいたら、脱線しなかったでしょう。
田口 脱線しなかったでしょう。それから、日本の優秀さも知りつつ、日本人が陥りがちな間違いもよく知っていたというのも大きいでしょう。全て心得ているような人が、構想係として上にいなかったということも残念です。
―― そうですね。失敗の研究のような本もたくさん出ていますが、もっと根っこのところが間違っているんじゃないかと私は思っています。例えば、太平洋戦争の場合、「どうしてインパール作戦だったのか」とか、「どうしてミッドウェーだったのか」というような振り返り方ではなく、もう少しその前の段階から考えないといけないと思うのです。
やはり、ここでも構想係が実はものすごく重要で、その人たち抜きに技術論だけでやっていると、辻褄合わせにしかなりません。
田口 そうです。
●根源的かつ長期的視点で考えると、構想係の重要性も見えてくる
―― そういう意味で、横井小楠と佐久間象山についての田口先生の御著作2冊(『横井小楠の人と思想』『佐久間象山に学ぶ大転換期の生き方』、いずれも致知出版社より)は、今の日本人にとってすごく重要だと思います。
田口 そもそも、日本は構想係を大切にしない国なのです。どうしてかといえば、その二人が早く亡くなったこともありますが、明治維新の志士を挙げるというときに、横井も出てこなければ、佐久間も出てこないからです。これはやはり残念です。
例えば、5箇条の御誓文の意義を考える際には、これを横井小楠の発想として理解し、彼がどのような思想の持ち主だったのかを掘り下げて学ぶこともできるし、その必要があると思うのです。これは全く足りていません。
―― そうでしょうね。まず、焦点を当てて尊敬をしなきゃいけない人が脇の方に追いやられています。私はいつも先生の議論を聞かせていただいて、すごくありがたいなと感じていますが、彼らを佐藤一斎からの系譜で考えるというところもポイントですね。そこを捉えて考えると、全然違います。
田口 なにしろ、根源的かつ長期的にものを考えるということが重要です。根源を知ろうと思ったら、長期的な視点がないとできないのです。そのなかで、構想係の重要性も見えてくるわけです。ですから、構想係を重要視すべきだということですね。
―― ありがとうございました。