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代替が難しい経営者の「直感力」はAIにとって重要なテーマ

社会はAIでいかに読み解けるのか(7)経営者的嗅覚

対談 | 柳川範之松尾豊
概要・テキスト
金融市場の面白さは、ずっと勝ち続けるのは難しいということだ。2、3年ほどで潮目が変わってしまうため、過去データが使えなくなってしまうからだ。そうした中、優れた経営者は表面的な現象だけでなく、その背後にあることも捉えているように感じる。そこには、ある種の「直感力」、あるいは「経営者的嗅覚」ともいうべきものが働いているようで、そこがAIにとってこれからのテーマになるのではないか。(全8話中第7話)
※司会者:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:08:17
収録日:2020/03/03
追加日:2020/06/02
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≪全文≫

●「効率市場のパラドックス」に近いような現象が起きつつある


松尾 おそらく金融分野でも、データとして使いやすいところはもう全部使われているようなイメージがあります。しかし、本来使えるけれどもまだデータになっていないものや、少し時間がかかるような部分がいろいろとあるのではないかという感じはします。

柳川 おっしゃる通りです。実は、経済学が伝統的に取り組んできた市場は、「効率的市場」と呼ばれます。前回言ったような裁定取引が瞬時に行われ、使える情報が全て市場に反映されている構造が前提されているのです。

 そこには有名なパラドックスがあります。前回お話ししたようなことがすぐに起こるとすると、誰も情報を集めなくなります。情報を集めても、誰かがその情報をうまく使って、周りの人に一斉に裁定取引されてしまうと儲けられないからです。これは、有名な「効率的市場のパラドックス」と呼ばれていて、市場が効率的になり、誰もが情報を瞬時に使えば使うほど、わざわざ情報を探しだし、新しい発見をしても儲からなくなってしまうという状況を指します。そうすると結果的には、何も市場に情報が入らなくなってしまうのです。本来、最も効率的に情報が使われるはずの市場で、情報が使われなくなってしまうというパラドックスです。

 それでは、これを理論的にどう解消したのでしょうか。現実には、完全に皆がラショナル(合理的)に動いているわけではありません。市場にはノイズがあるだろうと考えたのです。そのノイズがあると、例えば突然ある株の株価が上がったとしても、その原因について2種類の可能性が出てきます。1つは、誰かがこの株の株価が上がるという情報を見つけたに違いないというもので、もう1つは、たまたま株が必要になったから株を買おうと思い、それによって株価が上がったというものです。2種類の構造があると、そこに裁定取引の限界が来ます。

 だから、市場取引には、ある意味でノイズがあることで情報がそこに集まるという構造があるという点が非常に面白いところだと思います。

松尾 なるほど。

柳川 だから、みんなが完璧になりすぎてしまうと、逆に情報が集まらないのですね。

松尾 それでも、だんだん効率的になっている感じがしますよね。

柳川 そうなんです。だから、最初はノイズが相当あるので、まだまだ大丈夫と言っていたのですが、だ...
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