●民主主義にもいろいろな問題がある
―― 韓国は大統領制で敵国を抱えています。台湾の状況も近いですね。シンガポールは特殊なエリアで、ある意味では民主主義政治体制ですが、独裁国家ですね。
このあたりの状況を読み解くのは非常に難しいですね。古代ギリシャの特定の50年間だけを捉えると民主主義も評価されるのですが、その後プラトンやアリストテレスが民主主義を見限りました。実際には、やがて古代ローマでは、その融和体制である元老院による共和政を敷いていた時代が訪れ、ピークを迎えます。とはいえ、あまりに大きくなりすぎたので、皇帝を戴くことになりました。そうした状況も結局は良い統治者がいるときだけでしょうか。
小原 やはり、絶対的な権力は腐敗します。ですから、古代ギリシャのような哲人政治は、まさに権力者がどのような人間であるかにかかわっています。そのため、問題はシステムではなく個人の資質です。個人の資質が本当に神のように素晴らしければ、それはワークします。しかしそうではない場合、悲惨な目に遭うことになります。だから、これをなんとか防ぐために、ウィンストン・チャーチル(イギリスの元首相)が言うような、「ベストでなくとも他に比べれば良いもの」として、人類はこれまで民主主義を続けてきました。しかし、民主主義にもいろいろな問題があるわけです。
例えば、今起きているのはポピュリズムという問題です。こうしたものをどう乗り越えていくかが、今回もやはりテストされます。これをくぐり抜けて、民主主義を強くしていく。そのために日本がやらなければならないことはたくさんあります。
●トップがどのようなメッセージを発していくかが大事なポイント
―― 一方でアメリカがドナルド・トランプ大統領を、イギリスがボリス・ジョンソン首相を生み出したことを考えれば、現在は試される時期ですね。日本の民度は、世界の中でものすごく高く、社会の結束力もあります。技術力や専門家の数も、医療体制や保健所を含めて、たくさんの優位性があります。しかし、これがまだしっかりとワークしているとは言い難いものがあります。これだけいろいろと優秀なものを持っていながら、今のところそれを総合力として発揮することが全くできていません。
台湾やシンガポールなどで成功した事例や、初動に失敗しながらもそこから立て直した中国の事例などから考えると、日本はうまくいっているとは言い難いでしょう。
日本の良いところは、本来的な得意技を取り出してきて、自分の国に合ったような形で作り直すところです。それが今回は、あまり見られてないのではと感じます。成功した国々がなぜ成功し、どこがまずかったのかを分析する必要があるように思います。さらに、中国は共産党一党独裁であったのに対し、台湾は民主政でしたが、同じように封じ込めに成功したという点も重要です。こうした、全体観と本質論についての議論は、ほとんどないのではないでしょうか。
小原 そうですね。
―― 今後、混乱は一定期間長引くとして、それが終息した後、どこで自分たちが間違ったのかを捉えておかないと、何の教訓もなく過ぎ去ってしまいます。とりあえず108兆円をばらまいただけでは、問題の本質が雲散霧消してしまいます。世界的に財政の悪い国がそうしたお金をばらまいても、無限大には撒き続けられないということは誰もが分かっています。だから、根っこの部分が今、一番重要だと思います。
小原 ですから、こうした危機のときには、政府や政治のトップにある人がどのようなメッセージを国民に発していくのかが非常に大事だと思います。それは、いくら金を配るかというような枝葉末節の話ではありません。それも重要ではありますが、もっと大きなメッセージが必要です。
つまり、今われわれはどのような危機に直面しており、その危機はどのようなものであり、それを克服するためにはどうしないといけないのかについてのメッセージです。例えば、国民の行動です。こうした自由で民主的な社会においても、やはりそれなりに行動をコントロールしなければなりません。
●メルケル首相がメッセージで訴えたこと
小原 私が非常に感動したのは、ドイツのアンゲラ・メルケル首相のメッセージです。本当に素晴らしいメッセージです。
彼女は旧東ドイツの出身で、民主主義を非常に重要視しています。彼女のスピーチにはそれがものすごく表れています。どんなに危機に陥っても、民主主義は破ってはいけないのです。しかし、同時にメルケル首相が訴えているのは、このウイルスと戦うためには、やはり皆が考えて行動してもらわないといけないということです。つまり、そのためには皆の理解が必要なのだということを切々と訴えているので...