●「猪八戒」の仲間の人間が、人生を楽しむには?
―― 先生、今回は角度を変えまして、「人生を幸福にする発想法」ということでお話をうかがいたいと思います。先生のご著書『還暦からの底力』の中でも、いろいろなヒントをお書きになっています。たとえば「人間はいい加減で猪八戒のような存在」という節があります。非常に印象深く読ませていただきましたが、これについてご説明いただけますか。
出口 世の中、そんなに立派な人はいないということです。
―― そうですね(笑)
出口 職場ではまじめな人も、ちょっとお酒が入ったらベロンベロンになって、アホなことをいい出したりします。人間は、僕ももちろんそうですが、だいたい怠け者ですし、素敵な異性には目がないし、おいしいものを見たらすぐに食べたくなる。まさに『西遊記』の猪八戒こそがわれわれの仲間だという気がするのです。そのように、人間はそんなに立派な存在ではないと、僕自身は思っています。
僕の大学時代に小田実という人がいて、『何でも見てやろう』という本を書き、世界中を旅行していました。その人が口癖のように話していたのが、「人間、チョボチョボや。大した奴なんか、いやへんで」と。これには、すごく共感しました。でも、そういうチョボチョボの人間が人生を楽しもうと思ったら、これはやはり勉強しかないのです。
―― ほんとに学ぶことの大切さということになるわけですね。
出口 はい。中学生や高校生には、よく次のような話をしています。
「今、スキー場に来ています。みんながスキー1級の免許を持っていて、とてもうまいと仮定します。楽しみ方が二つある。ガンガン滑るのと、滑る人をボーッと見ているのと。どちらが楽しいと思う? 手を挙げて」。
そう話すと、ほとんどの生徒が「ガンガン滑る」方に手を挙げますから、そこでこう説明するのです。
「何が言いたいか分かるか? スキーを学んだ人、スキーを勉強した人は、選べるんやで。今日は元気やからガンガン滑ってやろうとか、昨日ガンガン滑って筋肉痛になったから、今日はボーッと見てよう、とか。でも、学ばなかった人はボーッと見ていることしか選べへんのやで。人生、これから長いんだよ。何事でも選べたほうが楽しいと思わない?」
楽しい人生を選べるようになるためには、スキーを勉強しなければいけない。だから、勉強というのは、どんなことの勉強であっても、人生の可能性を一つずつ増やしていくことなのですね。
●人生を楽しむために、勉強しない手はない
―― 野球でいえば、「打席に立てるか、立てないか」というのとも一緒ですね。
出口 そうです。立てなければ打てない。立てる可能性を広げるのが勉強です。打席に立つためにも、ちょっとは練習しないと、監督が選んでくれないでしょう。だから、勉強というのは自分の人生を豊かにするため、楽しむためにやるのだよ、と。これは大人でも子どもでも一緒ですよね。
―― それは、子どもが学ぶことの意味と大人が学ぶことの意味では、たぶん少し変わってくる部分もあるのではないかと思うのですが。
出口 変わってくる部分もあるかもしれませんが、基本は同じだと思います。
―― なるほど。基本は同じなのですね。
出口 はい。例えば大人になっても、ゴルフを覚えたらゴルフを楽しめるし、麻雀を覚えたら麻雀が楽しめるわけです。楽しむためには、やはり勉強しなければいけない。これは一緒です。子どもと大人の違いは、大人はそれまでにたくさん勉強してきているので、勉強のコツが分かっているところです。
―― なるほど。コツですね。
出口 だから、子どもより早く学べると思います。
―― 勉強の場合、一つの知識があって、もう一つの知識があって、それらが結びつくと新しい価値として発揮されるとよく言われますけども、それが大人になるとやりやすいということなのですね。
出口 はい、そうです。だから、若者に比べて年齢を重ねれば重ねるほど勉強がしやすくなる。ですから、人生を楽しむために勉強しない手はないですよね。お酒でも、銘柄が分かっているほうが蘊蓄がしゃべれて楽しいでしょう。
―― そうですね。お酒のつくり方ですとか、どういう麹を使っているかとか、その話が入ると、また深みが増してきますね。
出口 ガンガン盛り上がりますよね。
―― ええ。あとは土地柄や歴史が分かっていると面白いですね。
出口 だから、どんなことでも学ぶということは楽しいことなんです。何かを学んだら同好の士が生まれますから、友だちも増えます。人生が楽しくなります。
●怠け者だからこそ、仕組みを生かして勉強できる
―― 先生は大人になってから学ぶための「仕組みづくり」のこともおっしゃっていますけども、これはどういうふうに留意すればよろしい...