●幸せについて心理学をベースに研究
前野 皆さん、こんにちは。慶應義塾大学の前野隆司です。本日は、「幸せのメカニズム」というテーマでお話をしたいと思っています。
実は私は、幸せの研究をしています。幸せの研究は、哲学ベースの研究も可能ですが、私は基本的には心理学をベースとして、どのような条件を満たせば人は幸せでいられるかということを研究しています。私の行っている研究はもちろん、世界中で行われている研究の成果も踏まえて、お話ししたいと思います。
例を挙げると、幸せに働く人は不幸せな人に比べて「創造性が3倍高い」、もしくは「生産性が1.3倍高い」などの研究結果が出ています。このように、実は幸せとは曖昧模糊としたものではありません。幸せに働くと生産性も創造性も上がり、パフォーマンスも上がる、さらに健康で長寿になるなど、さまざまなエビデンスが得られている分野なのです。こうしたことについて、詳しくご説明します。
このページは、私の自己紹介です。幸せの研究をしているというと、心理学者か哲学者かと問われることが多いのですが、実は、もともと機械工学を学び、ロボットの研究をしていました。ロボットの心を作ろうと試みるうちに、人間の心に興味が移り、その後、人間の心の働きについて研究するうちに、「幸せとはどういうことか」について研究するようになりました。ということで、今回のシリーズのテーマは「幸せ」です。
いくつか本も出版していますので、もしご関心があればそちらを読んでいただければ幸いです。今回のシリーズの話の、さらに詳しいエビデンスが分かると思います。
●緊急事態宣言中のアンケートでは幸福度が上がった人が最も多かった
現在(2020年6月時点)、「ポストコロナ時代」「ウィズコロナ時代」といわれます。ちょうどゴールデンウィークの時期、緊急事態宣言が出ていた頃に、私が主宰する「みんなで幸せでい続ける経営研究会」で、緊急アンケートを取りました。その結果がこちら(以下のスライド)になります。
新型コロナウイルス関連の昨今の状況下で、幸福度が下がった人は約20パーセント、変わらない人が40パーセント、そして上がった人が40パーセントという結果が出ました。新型コロナの被害に遭った方、あるいは医療者、飲食店経営者など大変な方は大勢いると思います。しかし、それにもかかわらず、日本人の平均では、実は幸せになった人のほうが多いという、少し不思議な結果が出ています。なぜなのでしょうか。
右側には、どのようなものがなくなってよかったかという問いに対する返答を調査した結果を示しています。これを見ると分かるように、なくなってよかったものとして、会議、通勤、仕事などが挙げられています。例えば、都内で片道1時間半かけて通勤していた人であれば合計3時間の通勤時間がなくなった、その分家族と過ごしたり散歩にいったりという豊かな時間を過ごせたという人が、実は意外と多かったのではないでしょうか。もちろん大変な経験をされた方も多いでしょうが、そんななか、このような興味深い結果が出ています。このように、パンデミックとの付き合い方に関しても、実は幸せと関係しているといえるのです。
では、どのような状況下で幸せを感じるのでしょうか。例えば、このようなパンデミックにおいても、幸せな人とはどういう人なのでしょうか。これらの点を探っていきたいと思います。
●「Well-being」「幸せ」「Happiness」は異なる概念
まず、幸せとは何でしょうか。英語で「幸せ」は何というでしょう。普通は、「Happiness」だと思われると思います。しかし、専門家の間では「Well-being and Happiness」という言葉が用いられています。「Well-being」とは、ここに書いたように、「幸せ・健康・福利・福祉」など「良好な状態」という意味を表します。つまり心、体、社会が良好な状態にあることを、「Well-being」といい、「幸せ」よりも広い概念なのです。
一方、「Happiness」は「感情としての幸せ」を指します。感情としての幸せとは、うれしい、楽しい、あるいは悲しい、怒っているなどと同じ範疇の言葉です。したがって、「Happiness」と「幸せ」という言葉は実は同義語ではなく、「Happiness」のほうが狭く、「幸せ」はより広い概念の言葉です。例えば、感情的な幸せ以外にも、真剣な顔をして、「つらいこともあったが幸せな人生だった」ということがあります。これは「Happiness」を超えて、もっと広い概念としての「幸せ」を表しているわけですね。
「Well-being」はさらに広く、幸せに加えて健康や福祉も含んでいます。「Well-being」「幸せ」...