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ソーシャルネットワークで決して補えない外交の基本

米国の対中政策~戦略の現状と課題(8)深掘り編:外交の基本を問う

吉田正紀
元海上自衛隊佐世保地方総監/一般社団法人日本戦略研究フォーラム政策提言委員
情報・テキスト
外交の基本は「face to face」で、ソーシャルネットワークとは違うタイプの交流となるため、時間もお金もかかる。だが、ソフトマネー予算削減の方向へ進んでいる現代では、信頼関係を築いた「友人」と呼べるほどの交流は持ちにくくなっている。講義収録後の質疑応答編その2。(全8話中第8話)
※インタビュアー:神藏孝之(テンミニッツTV論説主幹)・川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:11:23
収録日:2020/10/07
追加日:2021/01/12
カテゴリー:
≪全文≫

●ソーシャルネットワークでは成り立たない情報交換の重要性


―― 日本のことをよく知っている政権中枢といえば、国務省やペンタゴン、あるいは先生のお話に沿うと「インド太平洋」の各々の司令部かと思います。私が非常に懸念しているのは、その層が極めて薄くなっている点です。

 こういう人たちがたくさんいないと、いくら日米同盟の形を強調しても、最後は人と人の強烈な結びつきであり、どれくらい友人がいるかといったことが重要になってきます。ロシアの大使館に目を向けても、大使の平均赴任は10年ぐらい、長い人は20年以上いましたし、皆とても長く滞在しますよね。

吉田 そうですね。

―― 日本のローテーションの仕組みによると、ほぼ2、3年でくるくる替わる。基盤ができた頃に替わってしまうので、実際問題として友人はほとんどできません。日本のもう一つの希望は、吉田さんたちのような制服のアドミラルやジェネラルになられた人たちのネットワークで、これまで日本がほとんど生かしていないエリアですね。

吉田 そうですね。特に冷戦時代からずっと一緒にやってきた点は大きいと思いますし、ミリタリーの部分については、後輩たちも含めてあまり心配していないのです。一方で、本当に草の根的な活動、例えばアメリカの創設したフルブライトで渡米した人など、若い人たちをこれからどうするか。

 外務省はそれなりに(取りまとめを)されていると思いますが、他の省庁との連携も欲しい。これからは金融や投資などの経済分野、さらに技術分野の人たちを含めた同盟のようなことになり、もともとある文化交流の形がさらに「オールジャパン」で機能するようになっていくのかと思っています。非常に微力ではありますが、そのあたりについてはワシントンで頑張っていきたいと思っています。

―― 私はちょうど、国務省で誰が友人かとか、米大(米国大使館)で誰が友人かとか、ペンタゴンで誰が友人かという、友人関係のリストが非常に少ないことを気にしています。ここがやはり一番の問題で、おそらく今回のシリーズ講義で吉田さんが教えてくれたようなことをやっていくためには、いかに日本もソフトマネーの予算を計上するかにあると思います。やはり基本的には、一緒にメシを食うことが外交ですよね。

吉田 はい、そうですね。

―― それから、帰った後も長く付き合うことが外交ですよね。

吉田 ええ。

―― それに対するソフトマネーをまったく切ってしまった。特にこの10年ぐらい、リーマン以降はひどくなっているのかと思います。この部分を少し真剣に考えて、ソフトマネーの捻出について提起していってもいいかと感じます。これは、使う人間さえ間違えなければ、かなり少ない予算で多大な効果を生むものですものね。

吉田 もう、おっしゃる通りだと思います。メシ・インテリジェンスとワイン・インテリジェンスの二つは基本です。私たちも、コロナの前にそれができていたから今web(ネット)に移行できるのであって、それがない状態でネットはできません。

―― 実は今、その部分が一番足りていない。この部分に対して予算措置を取るのが、一番有効な手法になるのではないかと思います。一方で、米中対立の現在、中国もほとんど友人がいない状態になっているので、同じことが言えると思います。吉田さんが講義で言われたように、冷戦の中でもKGBとCIAは絶えず情報交換をしていましたよね。

吉田 はい。していました。

―― 日本がアメリカと中国にしてあげることで一番分かりやすいのは、アメリカが取れない中国や台湾や韓国の情報を持ってきてあげること。そして、それを伝えるためにアメリカの中にインフォーマルなネットワークを持つということもあります。これらが今どちらかというと、かなりの部分で両国に対して補える最大の要素になるのではないかという感じがしています。

吉田 まさにそうだと思います。やはり「face to face」でなければ話せないことはいっぱいあります。しかも、そこは信頼関係なので、ソーシャルネットワークとは少し違うタイプの交流であり、時間がかかります。

 しかし、これは非常に大切なことですし、おっしゃったように、同じ情報や写真を見ても、それに対する見方、考え方、評価は違います。たとえ写真はアメリカの衛星が撮っていたにせよ、それに対する分析能力は日本の持ち味でした。これは文化など、いろいろなものに根ざしています。

 今はいろいろと便利になり、ソーシャルメディアもできて、今回のようにウェブ上で話ができる。「これで、もう大丈夫なんだ」と言っていますが、私はこういう世界だからこそ、それは逆ではないかと思います。

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