●「最高の睡眠」の基本である“健康な睡眠”とは
―― 皆さま、こんにちは。本日はスタンフォード大学医学部精神科教授でいらっしゃる西野精治先生に、睡眠についての講義をいただきたいと思っております。西野先生、どうぞよろしくお願いいたします。
西野 よろしくお願いします。
―― まず先生が書かれたご本で、『スタンフォード式最高の睡眠』(サンマーク出版)や、『スタンフォード大学教授が教える熟睡の習慣』(PHP新書)があります。これらの本が日本でも大変話題になっているので、まずはどうすれば「最高の睡眠」が手に入るかというところからお話をお聞きできればと思います。先生、いかがでしょうか。
西野 はい。「最高の睡眠」の話に入る前に、“健康な睡眠”とはどういうものかを簡単に説明したいと思います。
まず、一番深い睡眠が出るのは入眠した直後なのですが、それは「レム(REM)睡眠ではない」ということで「ノンレム(non-REM)睡眠」という名称が付いています。これが約90分続きます。その後、短いレム睡眠が続いて出てくる。それを1周期として、明け方までに4~5回繰り返される。明け方になると、それほど深い睡眠ではなくて、レム睡眠が長くなります。
ノンレム睡眠は、脳も身体も休まります。レム睡眠は「夢を見る睡眠」として皆さんご存じだろうと思いますが、脳は起きているときと同じように活発に動きます。ところが身体は麻痺している。
このような健康な睡眠であると、最初に睡眠の重要な役割を果たして、明け方はどちらかというと起きる準備に入る。頭も脳も起きているときと同じような動きで、深い睡眠は出ないのです。
●在宅勤務続きで、寝る時間が不規則になっていないか
西野 そういう睡眠が取れればいいのですが、いろいろな原因でそれがうまくとれなくなります。例えば睡眠障害として代表的で、頻度も多いものに「睡眠時無呼吸症候群」があります。
このような人たちは持続した深い睡眠が取れないので、絶えず覚醒反応が出ていて、本人は気づいていなくても起きているような状態です。そうなると、明け方に深い睡眠が出てこようとするため、目覚めも悪くすっきりしません。
また、今コロナで在宅勤務されている人などは、睡眠時間は長くなっていますが、寝る時間が遅くなって、睡眠の質が悪くなっているということです。そのように、睡眠が後ろ倒し(夜型)になると、睡眠にとって大事な体温に影響します。普段であれば夜中の3時ごろが一番低いのですが、明け方の起きる時間帯に一番低い体温になったりするので、なかなか起きられないわけです。
それから、慢性の睡眠不足に対して「睡眠負債」という言葉も使うのですが、そういう状態では絶えず深い睡眠が出ようとしているのです。
だから、健康な睡眠を取れればいい。そのためにどうすればいいかということになってくると思うのですが、「なかなかよい睡眠がとれない」という人には、朝から問題がある人も多いのです。ですから、例えば、朝起きたら朝食を取る。また太陽の光を浴びるために外へ出て、散歩でもジョギングでもいいので体を動かすようにする。そして、仕事をする。そのように昼間は活動性のある生活を送り、家に帰ってきて、夕方、夕食を食べたあたりから「オン・オフ」のメリハリをつける。緊張をほぐして、リラックスするといいのです。
もう一つ大事なのは、同じ時間に寝ることです。そういうことを行うと体温のリズムなども整います。毎日午後10時に寝る人が規則正しい生活をすると、ちゃんと午後10時に最適な睡眠のタイミングが訪れるわけです。そうなると、寝付きも早くなる。さらに入眠直後の一番大事な睡眠(私は「黄金の90分」と言っています)が訪れるということになってきます。
だから、(睡眠は)夜だけの問題ではなく、朝から始まっている。特にメリハリが大事だということになってくると思います。
●睡眠の助けとなる「入浴」の注意点
―― そうしますと、一つは生活習慣を整えるということになるかと思いますが、後もう一つ補助的に、例えば寝る前にこういうことをすればいいとか、こういう食べ物を取るといいというようなことはございますか。
西野 例えば、体温の変化が非常に大事なことです。体温というと、熱を逃がすほうと熱をつくるほうで構成されます。夜はどうなっているかというと、体温(身体の中の温度)は下がる。下がるために、皮膚、特に手足から熱が抜けていっています。だから、それを助長するようなことをすればいいのだけれども、妨げるようなこと(部屋が暑い、湿度が高い、寝具の熱がこもるなど)があると、なかなか寝られないのです。
体温のことといえば、日本人は半身浴など入浴の習慣があるので、それを利用するといいでしょう。入浴だと、今の話と逆で...