●「相手ならこうだろう」と考えるのは、すごく勇気が要る
執行 人事部長の次が、エイブリックですね。
村井 リクルートエイブリックの社長をやりました。
執行 リクルートの関連会社の社長になった。その次は香港法人だったと思います。人事部長のときから村井さんは、「相手の立場に立つ勇気」と呼ばれるものを出すようになりました。地位により、すごい勇気を出す人間になってきた。見ていて、それをすごく感じたことを覚えています。「相手の立場に立つ勇気」――これが、その後、Jリーグのチェアマンになってからの成功の原因だと思います。あの人事部長のときに、早急に覚えられた、というより、もともとあるものが出てきたのです。
「相手の立場に立つ勇気」はすごく重要ですが、それを勇気の概念として知らない人が多いです。自分ではなく、相手が何を考えているか。「相手ならこうだろう」と考えるのは、生命的にいうと、すごく勇気が要ることです。人間が動物である以上、どうしても乗り越えられない「自我意識」というものがありますから。その勇気を村井さんは出した。この講座を見ている方にも、ぜひそれを学んでほしいと思います。
この勇気が、なぜ出たかというと、先ほどの話に戻ってしまいますが、「記憶を持つ勇気」なのです。自分が記憶したものが、勇気の源泉になります。どうして相手の立場に立つ勇気を村井さんが持てたのかというと、先ほど話した小林秀雄の「知性は勇気のしもべである」という言葉が関係しています。
「知性」を今の人たちは、「人間の証」として一番ありがたがるものです。でも知性も「勇気のしもべ」なのです。私と話したとき、これに村井さんは一番感応した。それを魂の奥深くに落としてあったから、人事部長のときに「相手の立場を見る勇気」につながったのです。
それがリクルートエイブリックの社長に就任したときの成功にもつながった。次のリクルートの香港法人でも、やはり「相手の立場」に立たれた。海外法人は、あの頃の日本の会社の多くが失敗していました。日本的な身贔屓(みびいき)の経営をやっていたときに、現地に根差した法人づくりを村井さんはどんどんやっておられました。
簡単そうに見えますが、あれこそが相手の立場に立つ勇気です。「相手の立場」を友達や会社の知り合いだけでなく、外国人にも適用する。今はみんな偉そうなことをい...