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神の「恩寵」は真空状態のところにしか入っていかない

勇気について(6)Jリーグ第5代チェアマンに就任

対談 | 執行草舟村井満
概要・テキスト
フランスの哲学者シモーヌ・ヴェイユは、「恩寵は満たすものである。だが恩寵を迎え入れる真空のあるところにしか入っていかない」という言葉を残している。実は、村井氏はリクルート香港法人の社長を辞めたあと、半年間、何もせず無職だった。それなりの地位にいた人が次の仕事のないまま辞める。明治時代ならともかく、これは現代では珍しい。だが、そんな村井氏だからこそ、まさに神の恩寵のようにJリーグチェアマンの話も来たのであろう。就任に際して村井は「命を賭して受ける」と語った。この言葉がすぐに出てくるところに、村井氏の本質がある。(全10話中第6話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:12:03
収録日:2021/09/02
追加日:2021/12/03
カテゴリー:
≪全文≫

●あっさり無職になって「真空状態」に身を置く


執行 村井さんがJリーグのチェアマンになられるときに、村井さんと話をしていて、村井さんの勇気を実感し、感動した事件があります。

 村井さんはサッカーマンではないので、どういう経緯でJリーグに行ったのかをいろいろ思っていました。すると村井さんとお話ししたときに、会社(リクルート)の役目を終えて、社長など会社での仕事を全部辞めて、言葉でいえば「無職」になっていたときに何かの関係で、新たに話が来たと聞きました。

 私は、これもすごいことだと思います。小さな仕事ならともかく、香港法人の社長など社会的に素晴らしい地位の仕事に就いているのに、次を決める前に、それをあっさり捨てる。任期が終わったからと1回無職になれる人間は、すごいことです。現代では、あまり見たことがありません。

 明治時代には、たくさんいました。明治人の伝記など、本では知っていますが、現代人ではほとんど見たことがありません。村井さんの進退問題、自分の去就を決める勇気をすごく感じました。

 それがJリーグのチェアマンとしての功績にもつながっている。スポーツ団体のチェアマンをしている人はたくさんいますが、お世辞ではなく、村井さんは画期的な業績を上げている方だと思います。そういう業績を上げられる中心になっているのが、言葉は軽くなりますが「欲でなったのではない」ということです。「欲でなる人」は、やはりそれなりの経緯があります。

村井 チェアマンになろうと思って、なれるものでもないですが……。

執行 そうでもありません。「なりたくてなる人」が多いのです。私が見ていて、そうです。

 1回1回自分の務めを果たして、果たし終わったら相当の地位でもパンと辞める。次の仕事がなければないでいい。来たのなら受ける。そういう人は、あまりいません。まだ明治には、たくさんいました。

 もっと古い話でいえば諸葛亮孔明と同じです。「三顧の礼」ではありませんが、優れた人物は自分から出ていくのではなく、請われればやる。「頼まれたら、やってもいいけど」というのが、昔のある程度の人物です。それを村井さんはやったのです。自覚はないと思いますが(笑)。

村井 いや、まったく……。高校時代はサッカー部にいました。プロでも何でもない、普通の高校生です。そのとき、夏休みの合宿に卒業した先輩が偉そうに...
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