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DAZNとの2000億円契約の裏にあった「体当たりと愛の力」

勇気について(10)未来を信じる勇気

対談 | 執行草舟村井満
情報・テキスト
Jリーグチェアマンとして村井満氏はパフォームグループ(DAZNグループ)と契約し、世界で初めてサッカー中継を全試合、インターネットやスマホを使って、いつでもどこでも見られるようにした。10年間で2000億円の契約という、大変な快挙であった。この成功の裏には村井氏がロンドンに乗り込み、体当たりで直談判したことがあった。これは『葉隠』的なものが、ビジネスに生きたことを意味する。また村井氏に「未来を信じる勇気」があったからでもある。村井氏がさまざまなことを成し遂げられたのは、村井氏の奥深くに眠る「愛の力」が大きい。「愛の力」の根源は、「決める」こと。「決める」のは不合理であり、だからこそ勇気が不可欠なのだ。勇気がある人だけが愛を実現できる。(全10話中第10話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:16:04
収録日:2021/09/02
追加日:2021/12/31
カテゴリー:
≪全文≫

●体当たりで契約に至ったDAZN


執行 あと先日、村井さんと話しをして思ったのが、私はこのようなビジネス的なことに弱いのですが、スポーツイベントに対する(スポーツ専門の定額制動画配信サービスを行う)パフォームグループ(現DAZNグループ)との契約についてです。10年で2000億円の契約をJリーグが結んだ。

 プロスポーツが新しい投資対象になるわけで、当初、これを村井さんがやられたと知らなかったのですが、これも凄いことだと思います。

村井 動機はけっこうシンプルです。例えば日本が出ているワールドカップの試合を「3対0で負けたよ」と言われてから見ると、面白くないですよね。スポーツはやはり、結果を知ってから見るのではなく、一緒にそこで戦っている感覚を持てるのがスポーツ観戦の醍醐味です。学生や社会人のときに家でビデオに録画して、「結果は言わないで」と言って1日仕事をしていたら、ポロッと誰かに言われてガッカリすることが何回もありました。

 だからスポーツは授業中でも会議中でもタクシーの中でも、いつでもどこでも見られることが、すごく大事だと思ったのです。テレビの放送だけでなく、インターネットやスマホで見られるのがいいと思っていたのが、まず先にありました。

執行 これは年月からいうと、先鞭ではないかと思います。

村井 世界初です。サッカー中継を全試合、単独で契約するのは。何回も交渉が頓挫して頓挫して、いったんチームを解散したのですけれど、もう1回、勝負をかけようとなってロンドン本社に行ったのです。それこそ体当たりもいいところで、直談判しました。

 スポーツを、いつでもどこでも見られる。インターネット配信で、スマホでも見られる。「あなたたちが考えているモデルはいいと思う。まだ世界中のどこでもやってないので、まずはサッカービジネスがそれほど大きくない日本でやる。そうすれば必ずイタリアのセリアAでも何でも、やるようになるから。」そんな話しをして、「じゃあ、やってみるか」と2000億で決まったのです。

 2015年の話ですが、このとき相手側にいた人は、その年のロンドンの長者番付1番の人だったのです。ケンジントン公園のところで、「王室のウィリアム王子がテニスに来るよ」というような感じでした。そんなことも知らずに、飛び込みで行った。これも多分、体当たりのいいところです。

執行 これも凄いことです。私が見ていてもびっくりしてしまいます。

村井 失うものがないと言えば、ないですから。

執行 これはすごいことです。村井さんだからごく普通にしゃべっていますが、部外者というか、横で見ていると驚くほどのビジネスの才能です。スポーツだけではなく。そして私が嬉しいのは、『葉隠』的なものがビジネスに生きていることです。

村井 そうかもしれないですね。

執行 世界初ですから。

村井 そのあとイタリアなどでも全部普通になっていきました

執行 今では当たり前みたいになっていますが、歴史的に最初というのは大変なことです。


●DAZNのCEOに「三方よし」を教えた


村井 表に出ているのは2000億だとか10年だとかいった話ばかりですが、そのときのイギリスのパフォーム社、現在のDAZNのCEOとは今でも夜な夜な、このぐらいの時間になると会議をやるのですが、そこで近江商人の「三方よし」みたいな話を彼に教えているのです。

執行 やはり先祖ですから(笑)。

村井 コロナで試合が4か月中断したので、Jリーグの試合を見ている人たちが激減したのです。解約が出てしまう。向こうは収入が大きく減るのですが、契約ではこちらに入金することになっている。そこで最終的に契約の見直しをすることになったのです。

 相手はジェームズ(・ラシュトン)という名前で、「ジェームズ、近江商人に『三方よし』という言葉があるのを知っているか? 売り手よし、買い手よし、社会よし。だから今回は、こういう改善をして、修正し直そう」と。

 これに彼は乗ってくれたのです。結局10年契約を12年に伸ばして、総額も増やした。そのときに彼らに言ったのが、近江商人の話です。今SDGsやサステナブル、ESGといった横文字があり、「持続可能な社会にしよう」「環境にいいことをしよう」といったことをどの企業も重視しますが、すでに400年も前から近江商人は「売り手よし、買い手よし、社会よし」という商道徳を言っていた。

 「売った方がぼろ儲けしたらダメ」とか「安い労働力でつくって儲けてもダメ」と。そんな過去の先達から聞いていた話をパフォームの彼らに、偉そうに言っていました(笑)。今言われて、思い出しました。

執行 日本とヨーロッパの商道、長い歴史を持つ商人たちは、ある意味、騎士道や武士道から出ている商道ですから、同じです。今、日本社会やヨーロッパが侵されている...
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