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なぜ伊東にいた源頼朝が北条に行くことになったのか

鎌倉殿と北条氏(4)流人の恋と貴種流離譚〈下〉

坂井孝一
創価大学文学部教授
情報・テキスト
八重と別れた源頼朝は北条政子と結びつくことになるのだが、注目すべきは伊東氏のもとにいた流人・頼朝がなぜ北条氏のところに行くことになったのかということだ。貴種流離譚では悪逆非道の人物として描かれている伊東祐親だが、実際はどうだったのだろうか。頼朝との関係について解説する。(全9話中第4話) ※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:06:38
収録日:2021/11/08
追加日:2022/01/30
タグ:
≪全文≫

●北条政子との出会いと源頼朝の思い


―― 八重をめぐる話は非常に興味深いところですが、(気になるのは)もう一人の北条政子のほうです。話をさかのぼりますと、源頼朝はもともと八重と結ばれますが、できた子ども(千鶴丸)が殺されてしまいます。そのような中で、ではどうして今度は政子と結びついていったのかということですが、そこはどういう経緯なのですか。

坂井 頼朝が北条氏のところに入った後、たまたま北条時政が大番役で都に行って留守にします。そうすると、先ほどから再三申し上げていますが、頼朝は貴種なので都の貴族の考え方を当然のごとく受け入れています。だから、女性がいたら声を掛けないといけないと思ったのか(それが頼朝にとっては当たり前なのでしょうが)、それと同時にやはり身内が欲しい、拠りどころとなる味方が欲しいという気持ちが当然あったのでしょう。

 また、頼朝の中には平清盛に対する恨みがありますから、いずれ平家を滅ぼしたいという思いもあったでしょう。実現するかどうかは分からないけれども、その気持ちはずっと持ち続けていたと思います。そのためにも、頼りになる身内は欲しいということになります。そういったさまざまな条件が重なって、政子にすぐ手を出してしまうということになったわけです。


●伊東祐親との対立から北条氏という新たな境地を開いた源頼朝


―― もともと伊東にいた頼朝が北条氏のほうに行くのは、どういう経緯だったのですか。

坂井 (第2回で)やむを得ない事情ではあったものの千鶴丸を殺したと話しましたが、それは伊藤祐親がそれほど激怒していたということで、八重を江間次郎のところに再婚させてしまいました。頼朝からすれば、そのことで祐親に苦難を与えられていたのは確かです。

 貴種流離譚の枠組みからいってもそうですが、悪逆非道な人物のように描かれているのが祐親です。しかし、祐親にも感情はあります。そこまで悪逆ではなかっただろうと思われます。祐親からすれば、許しもなく自分の娘に子どもを産ませた頼朝への(憎悪はあったでしょう)。かわいがって育ててきた美しい末娘を、こともあろうに大した勢力もない江間次郎のところに再婚させるような形でケリをつけなければならないということで、頼朝に対して、父親としての怒りも、武士団の長としての怒りも、当然あったと思われます。

 頼朝の側からしても、自分の最初の子どもを殺され、妻とも別れさせられた上、なおかつ北の小御所(伊東の御所)というところに住み続け、食事も衣服も与えられ、いわゆる衣食住の全てを祐親によって面倒を見てもらうのは耐え難いことになります。

 したがって、祐親の側も頼朝の側も、もうお互いの顔も見たくない状況になっているわけです。だからといって祐親が頼朝を簡単に殺すことができたかというと、平家の命令で流罪になって伊東に来ている流人ですから、頼朝を監視するという役目はやはり務めなければいけない。勝手に殺すのはなかなか難しい。もし「なぜ殺したのか」というお咎めが来たら、申し開きができません。

 つまり、頼朝を殺せば伊東一族全体の危機に陥る可能性もあるのです。ですから、厄介払いはしたいけれども、どこにいるかをちゃんと把握していなければいけない。そういうことで、娘婿の北条氏(北条時政)のところに、おそらく頼朝を追い出すような、厄介払いをするような形になったのだと思います。

―― その後、時政が京都に行ってしまっていたと。

坂井 そうですね。

―― そこで、(頼朝は)政子と結ばれることになるわけですね。

坂井 はい。頼朝は自分の新たな境地というものをこの北条氏のところに見いだすことができ、祐親も厄介払いができてせいせいしたという形になりました。

―― はい。

坂井 物語の上では、祐親が頼朝を夜討ちにして殺そうとしたと書かれていますが、実際に夜討ちなどは行っていません。それも貴種流離譚の枠組みで、祐親がいかにも悪者という形に描かれているのです。夜討ちでもしかねないぐらいの緊張感や緊迫感がみなぎる悪い状況、対立にはなっていましたが、完全に決裂する前になんとかうまく北条氏のところに身柄を移すことができたというのが、実際に起こった事柄ではないかと、私は考えています。
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