●「終身知創」のために、ベテラン資産を棚卸し
今度は第2話で少し触れましたが、今回は「キャリア自律」について、具体的にどのような戦略で行っていくのかということについてお話をしていきたいと思います。
基本の考え方は、何度も言いましたが「終身知創」です。終身、すなわち人生100年にわたって、常に価値を生み出す自分というものをどう創っていくのかという話になります。
そのためのカギとして、私は「キャリアをSECIキャリアモデルで振り返りましょう」と書きました。「SECIモデル」についてはあとで説明しますが、このモデルをキャリアに当てはめて、自分の長い人生の旅路(ライフシフト・ジャーニー)をどう作っていくのかということを考えていっていただきたい。今日は、そのお話をしたいと思います。
そもそもわれわれには、相当なベテラン資産があります。いろいろなことを行ってきたので、それは暗黙知だったり形式知だったりします。形式知になっている部分はいいのですが、多くのものは暗黙知になっています。
多くの人の場合、自分の体に染みついたものを使って、自分には本当は何ができ、何が得意なのか、よく分からないまま、ただやっている場合が大半だと思います。ですが、それらが本当はベテランになったときの資産になっているわけです。それは、若い人たちがまだ知らない、全然経験できていないこと、でもわれわれは知っている、あるいは経験していることです。
●いつでも活用できるよう知をアップデートする方法
ただ、それをきちんと言語化しないと、自分でも忘れてしまうし、人にも伝えられない。そうすると価値にはならないということです。ベテラン資産を言語化することが非常に大事ですし、言語化することで、逆に「これは、もう古い」ということに気づく可能性もあります。つまり、これはベテラン資産のアップデートにもつながります。暗黙知は放置すると劣化してしまうし、言語化すると活用できるということです。
スライドに「人生の後半で3つの苦悩へ転落」とあります。せっかく資産として持っていても、それを活用できないとすると、結局価値を生み出せないということです。価値を生み出せないと、人生後半の3つの苦悩として、病気・貧困・孤独に陥ります。 価値を生み出せないから、社会から切り離されてしまい、誰も当てにしてくれない。やることがなくなるので病気がちにもなるし、社会から孤立して孤独にもなる。さらに、お金も入らないということで、病気・貧困・孤独となります。
それらにならないためにも、これまで蓄えてきた暗黙知をいかに資産化するかが大切です。それは平たくいえば、「自分の資産はいったい何だろう」と問いかけることです。
ということで、ぜひこれらの問いかけをしていただきたい。「いや、何もない」と思われる人もいますが、そんなことは絶対にありません。相当なことをされてきたので、それをぜひ言語化してみましょう。
特に大企業の方ほど、中小企業やスタートアップ企業と比べると多くの経験を積んでいらっしゃるのに、「あまり自信がない」と言われがちです。しかし、それは選ぶ場所によっては全然違う、ということにもつながっていきます。
●知識創造の「SECIモデル」を知る
ここからは、「SECIキャリアモデル」の話をしていきたいと思います。まず「SECIモデル」についてです。これは、「知識創造のSECIモデル」といって、一橋大学の野中郁次郎名誉教授がオリジナルに開発された、世界的に有名なモデルです。
今日は詳しくは言いませんが、(枠の)左側と上に「暗黙知」とあり、右側と下には「形式知」とあります。この暗黙知と形式知の循環から「知」というものが生まれてきます。
最初は「共同化(Socialization)」で、他の人の暗黙知をなんとなく見よう見まねで一緒にやってみる。これにより肌感覚でつかみ取るのが「共同化」で、今日でいえば最初はOJTなどを行って、先輩からいろいろ学ぶ段階です。例えば、一緒に顧客同行して様子を見ることで、「こういうときは、そう言うのか」などの気づきもある。これが、暗黙知の共同化です。
それをいろいろ学んだあと、今度は「それはどういうことなんだろう」と、自分なりにマニュアルにしてみたり、コンセプト化してみたりするのが「表出化(Externalization)」です。これは暗黙知を形式知化することです。「自分ではなんとなく分かったつもりだったが、書いてみるとよく分からない」ということがよくあります。だから...