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ロールズ『正義論』…無知のベール?マキシミン原理?

日本人が知らない自由主義の歴史~後編(6)ロールズ『正義論』

柿埜真吾
経済学者
概要・テキスト
ニューリベラリズムとリバタニアニズムの基本として押さえておくべき文献について解説する今回。まずニューリベラリズムの古典とされているのが、ロールズの『正義論』である。中でも注目なのは「無知のベール」と呼ばれる理論で、「自由原理」と「格差原理」によってうまれたものが正義にかなった制度であるという。これはいったいどういうことなのか。『正義論』で書かれた考え方や内容を読み解くとともに、その批判にも迫っていく。(全13話中6話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
≪全文≫

●ニューリベラリズムを基礎づけたロールズの『正義論』


―― 次に文献編ということで、特にニューリベラリズムとリバタリアニズムが、それぞれどのような主張をベースにしているのかを読み解いていきます。

 最初に、ニューリベラリズムの古典として先生に挙げていただいたのが、ロールズの『正義論』という本です。これはどのような本になるのですか。

柿埜 このロールズの『正義論』という本は、ニューリベラリズムの流れを汲んでいる、アメリカのリベラリズムの古典と言える本です。これはベンサムの功利主義に基づく自由放任的な自由主義に対する反論というか、それを否定して、ニューリベラリズム的な発想を(ここではニューリベラリズムとはいわず、むしろリベラリズムという言い方を彼はしていますけれども)哲学的に基礎づけた本です。

 ベンサムの功利主義は、それ以前の社会契約論に基づいた理論(やや神学的な発想が入っているもの)に対し、「個人の幸福、効用に基づいて社会を考える」という合理的な発想で自由主義社会を正当化したものでした。それに対してロールズは、「いやいや、社会契約論はほんとうの正義や自由などの問題を考える上では、むしろ大事なのだ」と言って、ある意味でそちらに戻るところが面白い点です。

 この社会契約論をロールズが考えるにあたって前提にしているものは、「善に対する正義の優先」といわれる発想です。

 これはどういうことかというと、いろいろな望ましい「目標(善)」が人間にはあるわけです。だけど、どれかが絶対的で、それを押し付けることはよくない。そういうことをすると、いろいろな善のうちの一つだけを取ってしまって、他を抑圧することになってしまう。だからそうせずに、いろいろな目標を人々が追求できるように、制度をつくらなければいけない(これは正義であるわけです)。これをつくらなければいけないというのが「善に対する正義の優先」です。

―― これは、要は「いろいろな善があるのだから、いろいろな人たちがそれぞれの善を追求する権利を尊重する。それが正義である」というイメージですね。

柿埜 ですから、ここは先ほど(第5話)のノーラン・チャートの図ですと、多様性を認めるというリベラルの発想なわけですね。個人の自由は大事...
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