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ミーゼス、ハイエク…計画経済はうまくいかず独裁になる

日本人が知らない自由主義の歴史~後編(2)社会主義計画経済への批判

柿埜真吾
経済学者/思想史家
情報・テキスト
第一次世界大戦後、リベラリズムは社会主義に傾倒していく流れがさらに顕著となっていく。この時期、ニューリベラリズムへの異を唱えたのがミーゼスやハイエクといった自由主義経済学者たちであった。彼らはニューリベラリズム(社会主義計画経済)に対して、どのような警告を発していたのだろうか。(全13話中2話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:08:31
収録日:2022/07/25
追加日:2023/07/21
≪全文≫

●社会主義計画経済がうまくいかないワケ


―― 次に「『ニューリベラリズム』への異議申し立て」ですけれども、1920年代から1940年代、ちょうどロシアも滅びてソ連になり、社会主義国ができました。あるいは1920年代ですと、その末に大恐慌が起こって、その流れの中で社会主義への注目が高まってくる時期です。ミーゼスやハイエクといった人物が、この社会主義計画経済を批判していったという流れになるわけですね。

柿埜 第一次世界大戦の時にロシア革命が起こって、社会主義者の言っていた夢が、ある意味で実現したわけです。それで計画経済に対する期待がすごく高まっていたわけですが、ここでミーゼスという人が出てきます。

 彼はオーストリアの経済学者なのですが、大変頑固な、超情熱的な自由主義者だった人です。ミーゼスは、それ(計画経済)は間違いだと指摘します。「社会主義計画経済はうまくいかない」と言うわけです。彼は何を言ったか。

 市場経済とは「価格」によって、何が必要で何が足りないか、あるいは何が余っているかといったことを皆に伝えるシステムです。

 例えば、鉄を使っている製品がとても需要があるとすると、鉄の値段が高くなる。鉄の値段が高いということは、鉄を節約しなければいけない、ということが鉄を使っている人たちには分かります。値段が高いから、企業はあまり鉄を使わない方法で製品を作ろうとするし、鉄を使っている製品を買っている人たちは「あまり鉄を使っていないものを買ったほうがいいかな」となる。鉄を作っている企業に対しては「今、鉄がとても需要がある」ということで、「たくさん作らなければ」というシグナルが与えられる。値段が高いわけですから。

 逆に余っているものだったら、値段が安くなる。値段が安いと、「それほどたくさん作らなくていい」と企業は考えるし、使っている人たちは「ああ、これはたくさん使っていいのだな」ということが分かるわけです。

 これは、市場があって、価格があるからです。けれども、もし、これが計画経済だったらどうなるか。全部が国有ですから、何にも値段がついていません。

 国有企業が何かを使うときに、勝手に政府が決めた値段をつけることはもちろんできますけれども、競争の結果として決まった値段ではないから、実は分からないわけです。つまり、不足しているのか過剰なのかということが全然分からない状態で計画経済を行うと、効率的に経済を運営することはできない、ということを彼は指摘したわけです。

 これは社会主義者にとっては非常に衝撃で、「いやいや、疑似的に価格をつくればいいのだ」「いやいや、コンピュータを使えばいいのだ」など(なぜそれでうまくいくのかは全く分からないのですが)いろいろなことを言ったのですが、結局、解決できなかった話です。

 ミーゼスは、「(計画経済が)経済学的にうまくいかない」ということを指摘しただけではなく、「計画経済は要するに、国が雇用者で、全ての人を雇用して全てのものを生産している社会ですから、国にものすごく権力が集まる。こんなものは独裁国家にしかならない」ということを言ったわけです。


●「従わざるもの食うべからず」野心家がつくる抑圧社会


柿埜 そのミーゼスの弟子がハイエクという人です。ハイエクはミーゼスが指摘したことをさらに発展させます。(『隷従への道』という本が有名ですが、)計画経済、社会主義経済というものは、国だったり共同体だったりが全部のことを決める社会であり、そういう社会だと、すごく中央集権的になるわけです。

 その中央集権的な社会では、その権力を使って、自分の好きなことをしてやろうと思う野心家が集まってくる。スターリンやポルポトのような人が集まってくるわけです。そうすると計画経済は、最初は善意で始めたかもしれないけれども、必ずひどい経済になる。そして、ひどい独裁国家になってしまう。そういったことを指摘したわけです。

 国が全部の資源を管理している社会だと、国に対して敵対的な行動を取ったら、雇われなくなるし、解雇されますよね。何かを買いに行っても、誰も何も売ってくれないという状況になる。これでは民主主義など不可能、多様な意見が存在することなど不可能だ、というわけです。

―― 例えば、いわゆる民主主義や自由主義の社会であれば、Aという企業グループで雇われていて、クビになったとしても、BやCやDなど他の会社に行く可能性はあるけれども、全てが国であればそんなことは不可能になる、という話ですね。

柿埜 ええ。(自由主義社会であれば)Aという企業を、例えば内部告発で批判してAをクビになったとしたら、Bという会社に雇ってもらう。それをCというメディアに持っていって、「こんなことがあったの...
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