●マルクスは全世界の社会主義に影響を与えた
第9回目はマルクスです。マルクスは、社会主義・共産主義の元祖で、これらに影響力を持った哲学者です。ここでは、彼の考え方の中核にある、「下部構造が上部構造を規定する」という言い回しについて考えてみたいと思います。
マルクスは19世紀の後半に活躍した人で、生まれはドイツ西部のフランスとの国境付近にあるトリーアというところです。ユダヤ人で、お父さんが弁護士をしていました。言うまでもなく、全世界の社会主義・共産主義に影響を与えました。主著は『資本論』です。
●肉体や労働である下部構造が、精神や倫理である上部構造を規定する
先ほど申しました、「下部構造が上部構造を規定する」という表現について考えます。ここで下部構造とは、人間の活動や出来上がった社会の前提となるさまざまな生産の様式、つまり産業の在り方のことです。例えば、人間は自分の体を動かしてさまざまな労働をします。そこでは畑を耕す、道路をつくる、工場で働くなど、いろんなものが考えられますが、そうしたフィジカルな働き方や、それを部分として持つ生産の様式のことを「下部構造」と呼んでいます。
それに対して「上部構造」とは、肉体に対する精神や、その精神の在り方を決めていく社会における倫理、キリスト教や仏教のような宗教、憲法や民法などの法、これらの背景にある哲学的な考え方、さらには芸術や絵画や音楽などのことを指します。簡単にいえば、上部構造とは人間にとっての精神や精神的な活動、その産物のことであり、下部構造とは身体やさまざまな製品を作る活動のことです。マルクスの考えは、この肉体や産業の在り方としての下部構造が精神である上部構造を規定するというものでした。
このようにいうと、少し違和感があります。というのは、人間において、やはり肉体よりは精神、身体よりは知性が、人間を人間たらしめている部分であると考えることもできるからです。誰もが人間として頭で考え、知性や精神でいろんなことを考えて決め、それに従って体を動かしたりするので、むしろ上部構造がさまざまな肉体や産業の在り方を決めていくというのが当然なのではないか、という考えです。むしろ逆ではないか、つまり上部構造が下部構造を規定するとい...