●現行人類もいいところもあれば、悪いところもある
―― では先生、よろしくお願いいたします。
執行 はい、よろしく。
―― 先生に今回お聞きしたいのは、現代のAIの議論や発想……。
執行 電脳化社会ということですね。
―― そうですね。この辺りからお聞かせください。先生は独自の考え方を持っていらっしゃいますから(そこをお聞きできればと思います)。
執行 独自というほどではないですが、AIのこれからのあり方というか……。
―― ずいぶん早い段階から注目されていましたね。
執行 自分自身が好きか嫌いかは別途として、私の考えですが、AIの発展は人類唯一の希望だと思っています。
―― 唯一の希望ですか。
執行 嫌な言い方を最初にしておくと、われわれ現行人類つまりホモ・サピエンスは、量子コンピュータに結びつくAIの技術やそのロボット化を生み出すため地球上に生存していたのではないか。そう思うぐらいAIは最終的な人類の、良くも悪くも希望だと思います。
―― 良くも悪くも希望だと。
執行 悪いほうもあります、今の人類から見れば。そこで、議論の最初に私が言っておきたいのですが、今の人には「現行人類が絶対にいいものだ」という前提があります。誰と話してもそうです。みんな自分が現行人類ですから。
―― はい。
執行 でも、それは間違いだと思います。現行人類もいいところもあれば、悪いところもあり、悪魔に近いところもある。AIもそうです。
―― なるほど。AIも同じなのですね。
執行 悪魔になる場合は悪魔にもなるし、いいほうになる可能性もある。現行人類もそうだった。AIもそう。それで私の直感なり経験知で言うと、現行人類は現行人類だけで生きていくとしたら、よいほうの希望はなくなったように思います。
もう悪いほうしかない。歴史的に言うと原子爆弾ができた20世紀中頃からです。科学文明が頂点に達し、悪い言い方をすると自分を神だと思い、もう止めるものがなくなってしまった。
―― 神だと思ったのですね。
執行 そこからはもう悪いほうしか出ていません。
―― なるほど。私が執行先生に絶対お聞きしたかったのは、学者によるAIの技術的な解説やAIを経営的にどう使うとかといった話でなく、先生のような歴史やある種の文明論的な話です。ものすごく楽しみにしていました。
執行 まず最初に言いたいのは、現代人がAIを考える場合、われわれ人間はすべてよくて、AIは危険であって、悪くなる可能性があるという議論しかないということです。まず、これを捨ててほしい。「じゃあ、われわれはそんなによかったのか」という話です。
われわれは、はっきり言えば滅びる直前です。どの統計学から見てもそうです。そう思わないなら勉強していないだけです。あらゆる統計を見て、われわれ現行人類は滅びる直前です。
―― そうでしょうね。
執行 そうですよ。(その可能性は)もうどんどん上がっています。これがわからないならAIの議論もできないと言っているのです。
―― なるほど。
執行 現行人類が滅びる直前というのは科学的事実です。その段階で、AIとの共存でわれわれのうちの一部が生き残る可能性がある時代に、直面しているのです。
―― 唯一、可能性が出てきたわけですね。
執行 そう。だから「唯一の希望」と言ったのです。われわれ単独では、希望はない。
―― もう今の人類単独では希望がないのですね。
執行 一切ないと思います。私はそれがわかっているので、今(そのための)準備をしていますが、あとはこれからのAI化社会で、どうわれわれがAIとともに生きていくかです。そのように私は捉えています。
●われわれは科学と物質を発展させて今日まで来たが……
―― 最初にその大前提を……。
執行 大前提が違うと議論になりません。現代人の大前提は「われわれ人類は愛に満ちていて、素晴らしい」です。これならAIは要りません。当たり前の話で、われわれが素晴らしければ、民主主義も要らないし、科学も要らない。何も要らないのです。
われわれはもともと釈迦の言うことも聞きませんでした。キリストの言うことも聞かない。物質主義に負けて、欲望と物質にまみれて、どんどん、われわれが言うところの発展を遂げました。科学と物質を発展させて今日まで来たわけです。
それがすべて頂点を超えた。もはや無限経済成長まで含め、滅びるしかありません。今の経済構造にしても、破綻して滅びる以外(なく、それを)もう止める人間は誰もいません。
―― そうですね。もうひたすら拡大です。
執行 爆発してなくなるまで、ひたすら走るだけです。それは誰でもわかるし、もう戻ることはできません。科学文明も戻れません。
―― 戻れないですね。
執行 だからもう今、騒ぐ人はいないのだと思います。
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