●人に感化を与えるのは、真の教養を持っている人
執行 希望論にしても「希望がなければダメだ」と言いますが、人類の希望こそが一番悪いのです。希望があると思っているから、人類は悪さをやめない。本当にダメだと思ったら、やめています。
―― そうでしょうね。
執行 それを知らず、希望を生み出してしまったのです。今AIとロボットが希望になっているのは、知らずにやっているからです。その希望であるAIやロボットを、われわれは「危険だ」などと言っている。危険というなら、人類のほうがよほど危険です。
―― 全くその通りですね。
執行 歴史が証明しています。
現代は、(例えば)大工場(トヨタの大工場など)、全部ロボットになっています。医療の現場も全部AI、ロボット的医療器具というのかな。
―― 手術ロボットとか、みんなそうですね。
執行 機械もそうです。手足はありませんが、ある種のロボットです。中に入っているのはAIですから。すでに全部がAI化していることが、なぜわからないかが私の疑問の主力です。
―― やはり行くところまで行きついていることを前提で議論しないと(いけませんね)。
執行 だから、今日のAI議論は、技術論よりもAIを議論する前提をわかってもらうための議論なのです。
―― そのほうが大事ですね。
執行 そうしなければAIを本当の意味で考えられません。みんな「AIは怖い」「人間は優しい」「人間には人情がある」と捉えていますが、その中でロボットやAIを議論してもダメなのです。
―― おっしゃる通りです。
執行 今、私がしゃべってきたことは、すでにAIのほうがずっと安全で、人情もあり、物がわかり、誤診もない、(つまり)「人間よりもまし」という話です。人間は今、ものすごくバカになったのです。そのことがわかっていない。
私が若い頃お世話になった教養のある、村松剛、森有正、小林秀雄、三島由紀夫といった方々は、本当に頭のいい人でした。
―― ずば抜けていますね。
執行 (そういう人は今)一人もいない。今はよくて専門分野に片づいているのですが、今挙げた人たちをはじめ、昔の教養人は何でも知っていました。村松剛も森有正も、世話になっていますが知らないことがこの世にない…。
―― かつ感化を人に与えるのですね。
執行 そういう印象です。小林秀雄もそうです。私は20歳の時に小林秀雄と知り合って、この人は神様じゃないかと思いました。この人にわからないことが世の中にあると思えなかった、まじめに。もちろんあるのでしょうが、そういう人です。
―― それはすごいですね。
執行 真の教養を持っている人です。
―― 真の教養を持っているから感化できるわけですね。
執行 だと思います。真の教養は知識だけでなく、人格的力ですから。わからないことがこの世にないような印象を若者には与えるのです。
―― なるほど、人格的力ですね。
執行 そうです。今の有名な人は、確かに知っているけれども、みんな「どこどこは優れている」「確かにあれに関しては頭がいい」といったレベルです。
―― だいぶ違うのですね、人物の大きさが。
執行 全然違います。昔の有名だった人は、森有正にしても仏文学者として有名なだけでなく、「森有正」という固有名詞の中にすごい力を持っていました。言葉にできない、ああいうものがないのです。
―― でも、ついこのあいだまで日本の社会にいっぱいいたわけですね。
執行 私が20代までいました。
―― 50年前まで、いたわけですね。
執行 そうです。でも一遍にいなくなった。
―― なくなるときは、そういうものなのですね。
執行 医療も運転も大工場もすでに全部AIロボット化されているのに、どっちがいいといった議論をしている。この議論を止めないと、本当に人類は無様に滅びます。AIを本当の意味でみんなが信じて、育てる。これを社会風潮として、国も含めてやるようになれば、AIももっと素晴らしくなると思います。
―― なるほど。
●悪意に満ちた人類性善説、機械性悪説を打ち砕かなければダメ
執行 今現在だと、どちらが主導するかは非常に低次元の話です。産業も医療も、もう人間はダメ。AI化しないものは生き残れません。そういうところに来ていると、これ(テンミニッツTV)を聴いている人にはわかってほしい。あとは、いい意味でどうAIとロボットを育てていくかという話です。
―― 活用していくか、ですね。
執行 もう疑っている段階ではない。今ロボットがいなくなったら、日本人は6000万人が餓死するでしょう。3カ月で。そんなこともわかっていないのです。
そういえば、トヨタのロボットの(話題の)ときに出た(話で、)「故障する可能性がある」などと言っている学者がいますが、人類は散々ストライキばかりして...