●人情そのものが実はもう人間から抜けていっている
執行 これ(ホモ・サピエンスの魂はAIやロボットの中に入るという考え)は私だけ特別なのかと思っていた時期もありますが、違いました。詩人などにもいるのです。
―― すでに考えていた人たちが(いるのですね)。
執行 考えている人がやっぱりいるわけです。私も好きな詩人ですが、この詩は知りませんでした。19世紀のジェラール・ド・ネルヴァルという人です。新しく発見したもので「黄金賦」という詩です。
これを読むと、全部書かれています。あらゆるものの中に、すべての命が入っている。19世紀ですから200年ぐらい前の人で、その人が「金属の中にも、愛の神秘が宿る」と。
―― それは、すごいですね。
執行 そう。フランス語で「金属の中にも、愛の神秘が宿るなり。『万物は感ず』――しかり、なんじの存在を鷲づかみにして」と。鷲づかみとは「命の共感」ということです。命の共感さえあれば、金属の中にもどんどん命が宿っていくということを詩にして(語って)いるのです。
―― すごいですね。
執行 神蔵さんも、今の人類の非常にまずいところは綺麗事に侵されている社会だと感じますよね。
―― ものすごく感じます。
執行 私も感じます。綺麗事に侵され過ぎて、われわれ人類は滅びるところまで来ている。悪をぶった切る悪を認めないからです。
―― なるほど。悪をぶった切る悪。
執行 それが武士道と騎士道ですから。
―― そうですね。
執行 悪をぶった切る悪を認めるところにおいて、騎士道と武士道が発生してきたのです。
―― なるほど。
執行 でも、今はそれを否定しています。われわれは民主主義や平等といったものを言い過ぎた。これをここまで発展させたこと自体が、われわれが自滅する兆候ということです。そして、われわれの自滅とともに、知識も何もかも、いいことを最も得意としているのがAIなのです。
だからAIに移るように、われわれはもう動いてきてしまっているということで、それに気づかなければダメということです。人情や愛、親子の情愛といったものを、私が子どものときまでは誰でも認めていました。だから、親が子どもを殴っても、「殴る」という言葉は使いません。
―― はい。
執行 でも今、親が子どもを殴ったら、どこの家でも警察が飛んできます。それを「甘い社会になった」と捉えていますが、違います。AI化しているのです。だから、われわれがAIに移行したいために、AIの正義を正義と認識する人類の脳細胞になっているのです。だから、人情があるのはわれわれ人間の素晴らしいところです。
―― そうですね。
執行 よく「AIには人情がない」と言います。「AIは人情がないから危ない。ダメだ」とみんな言いますが、その人情そのものが実はもう人間から抜けていっている。
―― なるほど。
執行 だから、科学文明も行き過ぎているし、何でもパワハラ、セクハラとなってしまう。パワハラやセクハラをみんな政治問題などと捉えていますが、私から見れば科学の問題です。パワハラやセクハラといった考えができたこと自体が、われわれが今、混沌の魂を持つ人間を捨てようとしているということです。
―― 人間を否定しようとしているわけですね。
執行 人間が人間を否定しているのです、自分たちで。だから“自殺”です。では“自殺”してどこに行くかというと、AIにそれを渡そうとしているのです。
●「とにかく楽をしたい」人間は古代ローマ同様に滅びる
執行 だから、最初に話したように、「AIは悪い」という考えは捨てなければいけないところに来たのです。これが50年前だと、われわれ人間はまだ人情などを持っていました。だから、「AIは悪いのではないか」と危険視する議論もできた。でも、今はもうわれわれは人情もなく、悪いものだけを持っている。もうAI以下になっていることに気づかなければダメです。
―― その認識はすごく大事ですね。
執行 そうです。社会風潮を見ると、われわれ人間は楽をしたい。とにかく楽がいい。そうでしょう。
―― はい。
執行 今すでに(ある)調査によると、日本人の80パーセントが週休2日では疲れて働けないとあります。週休3日を80パーセントの国民が望んでいる。こうなると次は、週休4日になると分かります。つまり滅びるということです。
―― まさにローマ帝国の衰亡史と同じような。
執行 全く同じです。そのうちゼロになります。ローマ帝国はゼロになりました。ローマの市民権を持っているか持ってないかだけで、市民権さえ持っていたら、すべて一生涯タダ。ゆりかごから墓場までタダで、毎月享楽で面白おかしく遊んで暮らせる。こういう社会が現にできたのです。
今の人は不思議に思いますが、なぜキリスト教社会が樹立したかという...