テンミニッツ・アカデミー|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツ・アカデミーとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2017.03.30

遠くが見える=「目が良い」のは勘違い?

よく「目が良い」と言うけれど……

 昔から、裸眼で遠くまで見える人は、周囲にうらやましがられました。また、その当人も、「目が良い」ことをよく自慢していたものです。しかし、筑波大学眼科教授・大鹿哲郎氏は、そんな風潮を疑問視しています。

 そもそも「目が良い」「目が悪い」といった言い方は、日本語独特のものです。英語で似たようなことを表現する場合、端的に「視力が良い/悪い」というのであって、目そのものが良い/悪いとは言わないからです。では「目が良い」あるいは「目が悪い」とは、いったいどういうことなのでしょうか。

 冒頭で述べたように、日本では「目が良い」=遠くまで見える(近視ではない)と考えるのが一般的です。しかし、日常の生活を振り返ったとき、そんなに遠くまで見ることはあるでしょうか。今、このコラムをスマホやパソコンで読んでいるみなさんは、手元しか見ていないのではありませんか。そう実は、現代社会で遠くまで見える必要はあまりないのです。

 大鹿氏によれば、生活時間の3分の2は、身の回りしか見ていないそうです。いくら「目が良い」といっても、その良さを生かせる機会はそんなにないのですね。むしろ、「目が悪い」=「遠くは見えないが近くは見える」くらいが、現代社会には適しているとすら言えそうです。

現代社会で「視力2.0」は必ずしも必要ない

 そのため、目が悪い人が視力矯正をする場合でも、必要以上に強い眼鏡やコンタクトレンズを着けるのは、目にあまり良くありません。たしかに強めの度数にすると、今までとは見違えるほど周りがよく見えて、「目が良い」ことを実感できるのですが、結果として目が疲れやすくなります。実際には、0.8~0.9くらいでも十分なのだそうです。

 レーシック手術によって近視を治す場合もありますが、同じ理由で強すぎる矯正は問題とのこと。必要以上に「目が良い」状態をめざす過矯正は、眼精疲労や肩凝り、頭痛、吐き気といった症状を引き起こすこともあるからです。必要以上に「目が良い」よりも、少しくらい「目が悪い」ほうが、ちょうど良いということです。

年齢のよって変化する、目の良さ

 また大鹿氏は、どんな状態が「目が良い」状態で、どうなると「目が悪い」状態なのかは、年齢によって変化すると指摘します。子どもの頃は、たしかに「目が良い」方がうらやましがられます。しかし、年を取って老眼になると、眼鏡がなくても近くが見えることのほうが自慢になります。

 「目が悪い」人は近視ということになりますが、言い換えればその人は、近くはよく見えているわけです。反対に「目が良い」人には、遠視の傾向があります。しかも、遠視の人のほうが老眼の症状は出やすいそうで、そうなると、実は「目が悪い」と考えられてきた人のほうが、高齢社会では「目が良い」人ということになるのです。

時間がたてば目も変わる

 時間がたてば、目の良さも変わってきます。それだけでなく、目の状態そのものも、年を取れば変わることがあるそうです。人の体は日々変化します。同様に、近視や遠視に影響する目の屈折も、実は変わっているのです。「目が良い」「目が悪い」とはどういうことかは、一義的に決まるものではありません。

 「目が良い」と言うためには、その人の生活環境まで含めて考えなければなりません。大切なのは、自分の目の状態を認識し、それに合った矯正や対策を行うことです。自分は「目が悪い」と落ち込んでいたみなさん、少しは心が軽やかになりましたか。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
“社会人学習”できていますか? 『テンミニッツTV』 なら手軽に始められます。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,500本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

世界で最もクリエイティブな国は? STEAM教育が広がる理由

世界で最もクリエイティブな国は? STEAM教育が広がる理由

数学と音楽の不思議な関係(4)STEAM教育でつくる喜びを全ての人に

世界では「創造性がどれくらい大事か」という問題意識が今、急激に高まっている。創造性とは全ての人にあり、偏差値などでは絶対に計れない、まさに無限軸の創造性のこと。そうした創造性を育む学びが「STEAM教育」である。最終...
収録日:2025/04/16
追加日:2025/09/18
中島さち子
ジャズピアニスト 数学研究者 STEAM 教育者 メディアアーティスト
2

国民に求められる外交感覚とは?陸奥宗光の臥薪嘗胆の意味

国民に求められる外交感覚とは?陸奥宗光の臥薪嘗胆の意味

外交とは何か~不戦不敗の要諦を問う(3)「内政と外交」と持つべき外交感覚

「内政と外交」――これはまさに切っても切れない大事な関係にある。外交とは、国際関係ばかりに気を遣っていればいいのではなく、海外の声をききながら国内の声にも耳を傾けることが重要だと小原氏は述べる。まさに内政が大事で...
収録日:2025/04/15
追加日:2025/09/19
小原雅博
東京大学名誉教授
3

トランプ・ドクトリンの衝撃――民主主義からの大転換へ

トランプ・ドクトリンの衝撃――民主主義からの大転換へ

トランプ・ドクトリンと米国第一主義外交(1)リヤド演説とトランプ・ドクトリン

アメリカのトランプ大統領は、2025年5月に訪れたサウジアラビアでの演説で「トランプ・ドクトリン」を表明した。それは外交政策の指針を民主主義の牽引からビジネスファーストへと転換することを意味していた。中東歴訪において...
収録日:2025/08/04
追加日:2025/09/13
東秀敏
米国大統領制兼議会制研究所(CSPC)上級フェロー
4

日本と各国の比較…税負担は低いが社会保障の負担は高い

日本と各国の比較…税負担は低いが社会保障の負担は高い

続・日本人の「所得の謎」徹底分析(1)各国の財政と国民負担

国民の税負担を増やすか、政府の財政支出を増やすか。前回の講義《日本人の「所得の謎」徹底分析》に続き、見解の分かれる日本の財政に関する議論を今一度整理し、見通しを与える当講義。まずは日本の財政と国民の負担の現在地...
収録日:2025/07/10
追加日:2025/09/17
養田功一郎
元三井住友DSアセットマネジメント執行役員 YODA LAB代表 金融・経済・歴史研究者
5

米長邦雄のアンラーニング、弟子の弟子になってV字成長

米長邦雄のアンラーニング、弟子の弟子になってV字成長

経験学習を促すリーダーシップ(2)経験から学ぶ力

人が成長していくために重要な経験学習。その学習サイクルを適切に回していくためには、「経験から学ぶ力」が必要になる。ではそこにはどのような要素があるのか。ストレッチ、リフレクション、エンジョイメントという3要素と、...
収録日:2025/06/27
追加日:2025/09/17
松尾睦
青山学院大学 経営学部経営学科 教授