社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
遠くが見える=「目が良い」のは勘違い?
よく「目が良い」と言うけれど……
昔から、裸眼で遠くまで見える人は、周囲にうらやましがられました。また、その当人も、「目が良い」ことをよく自慢していたものです。しかし、筑波大学眼科教授・大鹿哲郎氏は、そんな風潮を疑問視しています。そもそも「目が良い」「目が悪い」といった言い方は、日本語独特のものです。英語で似たようなことを表現する場合、端的に「視力が良い/悪い」というのであって、目そのものが良い/悪いとは言わないからです。では「目が良い」あるいは「目が悪い」とは、いったいどういうことなのでしょうか。
冒頭で述べたように、日本では「目が良い」=遠くまで見える(近視ではない)と考えるのが一般的です。しかし、日常の生活を振り返ったとき、そんなに遠くまで見ることはあるでしょうか。今、このコラムをスマホやパソコンで読んでいるみなさんは、手元しか見ていないのではありませんか。そう実は、現代社会で遠くまで見える必要はあまりないのです。
大鹿氏によれば、生活時間の3分の2は、身の回りしか見ていないそうです。いくら「目が良い」といっても、その良さを生かせる機会はそんなにないのですね。むしろ、「目が悪い」=「遠くは見えないが近くは見える」くらいが、現代社会には適しているとすら言えそうです。
現代社会で「視力2.0」は必ずしも必要ない
そのため、目が悪い人が視力矯正をする場合でも、必要以上に強い眼鏡やコンタクトレンズを着けるのは、目にあまり良くありません。たしかに強めの度数にすると、今までとは見違えるほど周りがよく見えて、「目が良い」ことを実感できるのですが、結果として目が疲れやすくなります。実際には、0.8~0.9くらいでも十分なのだそうです。レーシック手術によって近視を治す場合もありますが、同じ理由で強すぎる矯正は問題とのこと。必要以上に「目が良い」状態をめざす過矯正は、眼精疲労や肩凝り、頭痛、吐き気といった症状を引き起こすこともあるからです。必要以上に「目が良い」よりも、少しくらい「目が悪い」ほうが、ちょうど良いということです。
年齢のよって変化する、目の良さ
また大鹿氏は、どんな状態が「目が良い」状態で、どうなると「目が悪い」状態なのかは、年齢によって変化すると指摘します。子どもの頃は、たしかに「目が良い」方がうらやましがられます。しかし、年を取って老眼になると、眼鏡がなくても近くが見えることのほうが自慢になります。「目が悪い」人は近視ということになりますが、言い換えればその人は、近くはよく見えているわけです。反対に「目が良い」人には、遠視の傾向があります。しかも、遠視の人のほうが老眼の症状は出やすいそうで、そうなると、実は「目が悪い」と考えられてきた人のほうが、高齢社会では「目が良い」人ということになるのです。
時間がたてば目も変わる
時間がたてば、目の良さも変わってきます。それだけでなく、目の状態そのものも、年を取れば変わることがあるそうです。人の体は日々変化します。同様に、近視や遠視に影響する目の屈折も、実は変わっているのです。「目が良い」「目が悪い」とはどういうことかは、一義的に決まるものではありません。「目が良い」と言うためには、その人の生活環境まで含めて考えなければなりません。大切なのは、自分の目の状態を認識し、それに合った矯正や対策を行うことです。自分は「目が悪い」と落ち込んでいたみなさん、少しは心が軽やかになりましたか。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
雑学から一段上の「大人の教養」はいかがですか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。
『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」という現象は起こるのか。対人コミュニケーションにおいて誰もが経験する理解や認識の行き違いだが、私たちは同じ言語を使っているのになぜすれ違うのか。この謎について、ベストセラー『「何...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/02
「白人vsユダヤ人」という未解決問題とトランプ政権の行方
戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(3)未解決のユダヤ問題
保守的な軍国化によって、内戦への機運が高まっているアメリカだが、MAGAと極左という対立図式は表面的なものにすぎない。その根本に横たわっているのは白人とユダヤ人という人種の対立であり、それはカーク暗殺事件によって露...
収録日:2025/09/24
追加日:2025/11/06
「境地は裏切らない」とは?禅の体験から見えてきたもの
徳と仏教の人生論(6)物事の本質を見極めるために
10年の修行で自我を手放し宇宙と一体化する境地に達すると、自分中心からホリスティックな視点に変わり、物事の表と裏の共通点が見えてきて、その本質がつかめるという田口氏。人生は常に新たな命題を解き明かし続ける旅である...
収録日:2025/05/21
追加日:2025/11/08
なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち
たかが「1」、されど「1」――今、数の意味が理解できない子どもがたくさんいるという。そもそも私たちは、「1」という概念を、いつ、どのように理解していったのか。あらためて考え出すと不思議な、言葉という抽象概念の習得プロ...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/10/06
40代前半に訪れる「中年の危機」、鍵は「人生の成長戦略」
人生100年時代の「ライフシフト概論」(3)キャリアの危機〈下〉
40代前半で訪れる「中年の危機」を脱するためには、会社中心の人生から「未来は自分で作る」という自分を中心とした人生への意識転換が必要だ。そのためのカギは、「Will・Can・Create」の3つから自分の「人生の成長戦略」を考...
収録日:2022/06/15
追加日:2022/09/24


