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DATE/ 2020.03.09

犯罪データでみる東京23区…最も安全な地域とは?

 進学や就職で4月から東京に住むことになった人も、生活に慣れてきた頃ではないでしょうか。満員電車や雑踏、複雑な駅構内など、最初のうちは「東京って怖い」と思われることの連続だったかもしれません。でも本当に怖さをコントロールするのは、やっぱり治安。警視庁のデータから、東京23区の「怖い」伝説は本当なのかウソなのか。住んで安心な街はどこなのかを検証してみました!

2019年に最も犯罪が多かったのは、新宿区?

 東京23区の犯罪発生状況については、毎年警視庁が統計をとり、現在では「東京都オープンデータ」からもアクセスできるようになっています。ただ、この数字は「区市町村の町丁別」に数字が並べられているので、読み方には注意が必要です。順に見ていきましょう。

[23区犯罪件数ワースト3(2019年)]

 1. 新宿区  5,898件
 2. 世田谷区 5,221件
 3. 大田区  5,031件

 歌舞伎町で悪名高い新宿区が、ワースト1という結果となりました。一方、ワースト2の世田谷区は高級な住宅地というイメージがありますが、これは人口との関連を忘れているからです。23区の人口は日々変化しますが、2020年2月1日現在では1,395万人(推計、以下同)。多い順に世田谷区(93.9万人)、練馬区(74.2万人)、大田区(73.9万人)が並んでいます。なお、飛び抜けて少ないのは、千代田区(6.6万人)です。

人口あたり犯罪件数のワーストは千代田区!?

 また、「多い・少ない」の基準として、全国平均はどうなっているかもチェックする必要があります。全国の年間犯罪発生件数は、人口10万人あたりの数字として、722.2件(2017年)と公表されています。では、人口10万人あたりで計算し直した東京都の犯罪件数と比較してみましょう。

[人口10万人あたり犯罪件数ベスト3](2019年)

 1. 杉並区 528.8件
 2. 文京区 535.3件
 3. 世田谷区 555.8件

[人口10万人あたり犯罪件数ワースト3](2019年)

 1. 千代田区 4,386.0件
 2. 渋谷区  2,063.4件
 3. 新宿区  1,686.8件

 人口10万人あたりの発生率を見ると、杉並区、文京区、世田谷区を始め品川区、練馬区、目黒区などの住宅地は全国平均よりも低い数値で、東京が一概に「怖い」場所ではないことを示します。人口の少ない千代田区での犯罪件数が多いのはなぜかというと、丸の内や神田など、昼間人口の多い地域を抱えているからです。

犯罪件数を決めるのは昼間人口? 面積の狭さ?

 昼間人口との関係を見ると、犯罪発生率の傾向はよりよくわかるでしょうか。

[昼間人口10万人あたり犯罪件数ベスト3](2019年)

 1. 中央区  334.5件
 2. 千代田区 339.4件
 3. 文京区  364.8件

[昼間人口10万人あたり犯罪件数ワースト3](2019年)

 1. 豊島区  979.7件
 2. 台東区  941.6件
 3. 葛飾区  903.7件

 ベスト1の中央区とベスト2の千代田区の犯罪発生率は、昼間人口で見ると、全国平均の半分以下、ベスト3の文京区も全国平均の半分近くまで下がります。かわって浮上したのが、豊島区、台東区、葛飾区です。

 豊島区と台東区は、いずれも昼間人口の方が登録された人口より多くなるオフィス街・商店街を抱えていますが、その傾向は中央区や千代田区の方がよほど顕著です。また、住宅地イメージの強い文京区にしても、学校が多いことから、昼間人口のほうが登録人口を上回る傾向は同じです。では面積はどうでしょうか。面積が狭く、人が少なければ少ないほど犯罪件数も少なくなるのは明らかです。

[23区面積の小ささべスト3]

 1. 台東区 10.11平方キロ
 2. 荒川区 10.16平方キロ
 3. 中央区 10.21平方キロ

[23区面積の大きさベスト3]

 1. 大田区  60.83平方キロ
 2. 世田谷区 58.05平方キロ
 3. 足立区  53.25平方キロ

 上の犯罪発生件数と照らし合わせても、明らかな関係は見られません。となると、犯罪の種類のほうに原因があるのかもしれません。

東京23区…最も安全な区は文京区?

 冒頭では[23区犯罪件数ワースト3(2019年)]を取り上げましたが、では反対に犯罪件数が少ない区はどこなのでしょうか。ベスト3は以下となっています。

[23区犯罪件数ベスト3(2019年)]

 1. 文京区  1,263件
 2. 荒川区  1,537件
 3. 目黒区  1,814件

 栄えあるベスト1となった文京区は、なんと[人口10万人あたり犯罪件数ベスト3][昼間人口10万人あたり犯罪件数ベスト3]にもランクインしており、23区の中でも相当に安全な区であるように感じられます。

 警察の統計では犯罪件数を「凶悪犯(殺人、強盗、放火など)」「粗暴犯(暴行、傷害、脅迫、恐喝など)」「侵入窃盗(金庫破り、空き巣、忍込みなど)」「非侵入窃盗(自動車・自転車盗、ひったくり、すり、万引きなど)」「その他」の5つに分類しています。

 5分類のうち「非侵入窃盗」の割合が圧倒的に高いのですが、文京区の特徴は「非侵入窃盗」の総件数が群を抜いて少ないところにあります。具体的には、2番目に少ない荒川区であっても1,050件と千件オーバーとなっていますが、文京区は755件と唯一千件以下の区となっています。

 つまり、文京区は地域住民だけでなく、街を訪れる人たちにとってもかなり安全な区といえるのではないでしょうか。

 その背景には、定期的な放置自転車の取り締まりや警察官のパトロールにとどまらず、「文の京」安全・安心まちづくり協議会を主体とした青色防犯パトロール活動・客引き行為防止対策の実施・自動通話録音機の無償貸し出しなど、文京区独自の防犯への取り組みがあります。

「犯罪発生年間1件」の町は具体的にどんな場所?

 以上のように警視庁のデータから、区を単位として見ると、文京区、荒川区、目黒区、杉並区、世田谷区、中央区、千代田区といった区が比較的安全な地域ということがうかがえるようにおもえます。しかし、区という単位は一概に“安全な地域”というには、すこしおおざっぱすぎるかもしれません。

 2019年中犯罪発生がゼロという場所はないものの、同じ区でも明らかに差が見て取れ、時折「1」という数字が現れます。年間に1件しか犯罪のない土地は、一体どんな場所なのでしょうか。

 例えば台東区では、谷中4丁目。これは各宗派の集まる寺町であることが原因です。葛飾区では東水元4丁目。区の最北東にあたり、最寄りの金町駅からは徒歩で約30分かかります。足立区では西綾瀬1丁目。東京拘置所のすぐ裏手です。

 新宿区は意外にも犯罪1件地域が多いのですが、例えば市谷加賀町1丁目は、南には防衛省と陸海空自衛隊が、北には牛込警察署があります。また、赤城元町は、牛込の鎮守・赤城神社の出世稲荷が鎮座しています。

 なお、現役の住宅地として機能していながら、「犯罪件数1」を達成している安全な町は、世田谷区の給田1丁目、文京区の関口3丁目ぐらいしか見つかりませんでした。

 ちなみに東京23区内で最も犯罪が頻発するのは新宿3丁目。年間1,098件の内490件が「万引き」ですが、「暴行」も76件に上ります。ファッショナブルな商品の陳列とお酒に酔った勢いこそ、東京の「怖さ」の正体ということでしょうか?

<参考サイト>
・警視庁 区市町村の町丁別、罪種別及び手口別認知件数
http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/about_mpd/jokyo_tokei/jokyo/ninchikensu.html
・東京都の人口(推計)トップページ - 東京都の統計
https://www.toukei.metro.tokyo.lg.jp/jsuikei/js-index.htm
・平成30年警察白書 統計資料|警察庁Webサイト
https://www.npa.go.jp/hakusyo/h30/data.html
・東京都昼間人口の予測 -統計データ- 平成27年3月
http://www.toukei.metro.tokyo.jp/tyosoku/ty-data.htm
・都内区市町村マップ|東京都
https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/tokyoto/profile/gaiyo/kushichoson.html
・文京区 安全・安心まちづくり
https://www.city.bunkyo.lg.jp/bosai/bosai/bouhan/anzenanshin.html

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