社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2017.05.31

文明発祥の地は肥沃な土地でなく乾燥地帯だった!

 古代四大文明について、歴史や地理の授業では「雨量が多く、年に数回、川が氾濫することで肥沃な土壌が生まれる。そうした土地に古代四大文明が生まれた」、このように習った人も多いのではないでしょうか。しかし、水循環システム研究の第一人者である東京大学生産技術研究所教授の沖大幹氏によれば、世界の四大文明はむしろ大河の河口付近の比較的乾燥した地域に生まれたのだとか。どうやら、水と文明発祥の関係には、歴史や地理の授業で習った「常識」とは違う意外な事実がありそうです。

四大文明河川は決して「大河」ではない

 ところで、「世界の四大文明はむしろ大河の河口付近の比較的乾燥した地域に生まれた」とお伝えしましたが、エジプト文明、インダス文明、メソポタミア文明、黄河文明、これらの古代文明が発生したのは、いずれも地球規模で見れば必ずしもトップクラスの「大河川」とは言えないと、沖氏は語ります。河川流量などで比較すると、世界の大河川は、アマゾン川、ミシシッピ川、オビ川、エニセイ川、レナ川、ラプラタ川と続き、その次にようやくエジプト文明が発生したナイル川といった位置づけになります。

文明発祥の地はいずれも乾燥地帯

 さらに意外なのは、これらの古代文明発祥の地は決して雨量は多くないということです。沖氏の調べでは、川の上流では雨がよく降りますが、河口付近はそうではなく、上流からの水を利用するために灌漑設備を整えなければならず、そのために灌漑農業が発展したということです。これが四大文明に共通して見られるパターンなのだそうです。最初から居ながらにして豊かな水に恵まれていたのではなく、手に入れた水資源を工夫して使うことで、独自の文明を発展させてきたということです。

降水量と人口密度は必ずしも比例しない

 水と文明の関係を見ていくと、もう一つ面白いことに気づきます。それは、水が豊富なところ、降水量の多いところと人口密集地域は必ずしも一致していないということです。大量の雨が降れば、むしろ病害虫やそれらが引き起こす伝染病が心配されます。また、舗装された道路などない時代ですから、降水量が多いことは交通経路という観点で考えれば、決して有利な条件ではなかったのです。

 昔は大量の荷物は船で運ぶ以外に手段はなく、水路がすなわち交通機関でした。ですから、日々の生活に直結する水路を維持できるところに人々は集まったのです。こうして、豊富な雨は水路という形で活用されてはじめて文明に貢献したと言えます。やはり、水の恵みをあるがまま受け取るのではなく、水を使いこなす技術の追求が文明を発展させたわけです。

 大河は水路を経て海に通じていました。その河口から人々は世界と交易をし、異種の文明、文化に触れる機会を得たのです。

一筋縄では解決しない温暖化現象

 ところで、水と文明、人々の暮らしとの関係を見るうえで気になるのが、やはり地球温暖化の問題です。温暖化が進むと雨の多い熱帯地域が南北に広がるのと同時に、乾燥地域も北に広がってくるそうで、熱帯と乾燥、正反対の現象が温暖化の影響として起こってきます。スペインのような半乾燥地域がさらに乾燥して水資源が減少することが最大の懸念点だと、沖氏は言います。

 逆に、アラスカ、シベリアあたりでは、温暖化が進むことで農地により適した土地になり、単純に考えれば、温暖化はむしろ歓迎すべきことになるという見方もあるのだとか。しかし、土地を開墾して農地にするには非常に手間がかかります。人的・資金的な投資、収穫した農作物をどう運ぶかといったロジスティックスなど、解決すべき問題は山ほどあり、農地化のためには本気で取り組まなければならない、と沖氏は語っています。

 四大文明発生から、水を利用することで発展を遂げてきた人類ですが、自然の恵みを享受し続けるにはいろいろな課題をクリアしていく必要がありそうです。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
より深い大人の教養が身に付く 『テンミニッツTV』 をオススメします。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ

「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ

「宇宙の創生」の仕組みと宇宙物理学の歴史(1)宇宙の階層構造

宇宙とは何かを考えるうえで中国の古典である『荘子』・『淮南子(えなんじ)』に由来する「宇宙」という言葉が意味から考えてみたい。続いて、地球から始まり、太陽系、天の川銀河(銀河系)、局所銀河群、超銀河団、そして大...
収録日:2020/08/25
追加日:2020/12/13
岡朋治
慶應義塾大学理工学部物理学科教授
2

なぜ伝わらない?理解の壁の正体を今井むつみ先生に学ぶ

なぜ伝わらない?理解の壁の正体を今井むつみ先生に学ぶ

編集部ラジオ2025(27)なぜ何回説明しても伝わらない?

「何回説明しても伝わらない」「こちらの意図とまったく違うように理解されてしまった」……。そんなことは、日常茶飯事です。しかしだからといって、相手を責めるのは大間違いでは? いやむしろ、わが身を振り返って考えないと...
収録日:2025/10/17
追加日:2025/11/13
3

日本は素晴らしい歴史史料の宝庫…よい史料の見つけ方とは

日本は素晴らしい歴史史料の宝庫…よい史料の見つけ方とは

歴史の探り方、活かし方(1)歴史小説と史料探索の基本

「歴史を探索していく」とは、どういうことなのだろうか。また、「歴史を活かしていく」とはどういうことなのだろうか。歴史作家の中村彰彦氏に、歴史を探り、活かしていく方法論を、具体的に教えてもらう本講義。第一話は、歴...
収録日:2025/04/26
追加日:2025/11/14
4

デカルトが注目した心と体の条件づけのメカニズム

デカルトが注目した心と体の条件づけのメカニズム

デカルトの感情論に学ぶ(1)愛に現れる身体のメカニズム

初めて会った人なのになぜか好意を抱いてしまうことがある。だが、なぜそうした衝動が生じるのかは疑問である。デカルトが友人シャニュに宛てた「愛についての書簡」から話を起こし、愛をめぐる精神と身体の関係について論じる...
収録日:2018/09/27
追加日:2019/03/31
津崎良典
筑波大学人文社会系 教授
5

脳内の量子的効果――ペンローズ=ハメロフ仮説とは

脳内の量子的効果――ペンローズ=ハメロフ仮説とは

エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(2)量子論と空海密教の本質

「ワット・ビット連携」の概念がある。これは神経と血管の関係にも似ており、両者が密接に関係するところから、それをもとに人間の本質について考察していくことになる。また、中村天風の思想から着想を得て、人間の心には霊性...
収録日:2025/03/03
追加日:2025/11/13