社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
文明発祥の地は肥沃な土地でなく乾燥地帯だった!
古代四大文明について、歴史や地理の授業では「雨量が多く、年に数回、川が氾濫することで肥沃な土壌が生まれる。そうした土地に古代四大文明が生まれた」、このように習った人も多いのではないでしょうか。しかし、水循環システム研究の第一人者である東京大学生産技術研究所教授の沖大幹氏によれば、世界の四大文明はむしろ大河の河口付近の比較的乾燥した地域に生まれたのだとか。どうやら、水と文明発祥の関係には、歴史や地理の授業で習った「常識」とは違う意外な事実がありそうです。
昔は大量の荷物は船で運ぶ以外に手段はなく、水路がすなわち交通機関でした。ですから、日々の生活に直結する水路を維持できるところに人々は集まったのです。こうして、豊富な雨は水路という形で活用されてはじめて文明に貢献したと言えます。やはり、水の恵みをあるがまま受け取るのではなく、水を使いこなす技術の追求が文明を発展させたわけです。
大河は水路を経て海に通じていました。その河口から人々は世界と交易をし、異種の文明、文化に触れる機会を得たのです。
逆に、アラスカ、シベリアあたりでは、温暖化が進むことで農地により適した土地になり、単純に考えれば、温暖化はむしろ歓迎すべきことになるという見方もあるのだとか。しかし、土地を開墾して農地にするには非常に手間がかかります。人的・資金的な投資、収穫した農作物をどう運ぶかといったロジスティックスなど、解決すべき問題は山ほどあり、農地化のためには本気で取り組まなければならない、と沖氏は語っています。
四大文明発生から、水を利用することで発展を遂げてきた人類ですが、自然の恵みを享受し続けるにはいろいろな課題をクリアしていく必要がありそうです。
四大文明河川は決して「大河」ではない
ところで、「世界の四大文明はむしろ大河の河口付近の比較的乾燥した地域に生まれた」とお伝えしましたが、エジプト文明、インダス文明、メソポタミア文明、黄河文明、これらの古代文明が発生したのは、いずれも地球規模で見れば必ずしもトップクラスの「大河川」とは言えないと、沖氏は語ります。河川流量などで比較すると、世界の大河川は、アマゾン川、ミシシッピ川、オビ川、エニセイ川、レナ川、ラプラタ川と続き、その次にようやくエジプト文明が発生したナイル川といった位置づけになります。文明発祥の地はいずれも乾燥地帯
さらに意外なのは、これらの古代文明発祥の地は決して雨量は多くないということです。沖氏の調べでは、川の上流では雨がよく降りますが、河口付近はそうではなく、上流からの水を利用するために灌漑設備を整えなければならず、そのために灌漑農業が発展したということです。これが四大文明に共通して見られるパターンなのだそうです。最初から居ながらにして豊かな水に恵まれていたのではなく、手に入れた水資源を工夫して使うことで、独自の文明を発展させてきたということです。降水量と人口密度は必ずしも比例しない
水と文明の関係を見ていくと、もう一つ面白いことに気づきます。それは、水が豊富なところ、降水量の多いところと人口密集地域は必ずしも一致していないということです。大量の雨が降れば、むしろ病害虫やそれらが引き起こす伝染病が心配されます。また、舗装された道路などない時代ですから、降水量が多いことは交通経路という観点で考えれば、決して有利な条件ではなかったのです。昔は大量の荷物は船で運ぶ以外に手段はなく、水路がすなわち交通機関でした。ですから、日々の生活に直結する水路を維持できるところに人々は集まったのです。こうして、豊富な雨は水路という形で活用されてはじめて文明に貢献したと言えます。やはり、水の恵みをあるがまま受け取るのではなく、水を使いこなす技術の追求が文明を発展させたわけです。
大河は水路を経て海に通じていました。その河口から人々は世界と交易をし、異種の文明、文化に触れる機会を得たのです。
一筋縄では解決しない温暖化現象
ところで、水と文明、人々の暮らしとの関係を見るうえで気になるのが、やはり地球温暖化の問題です。温暖化が進むと雨の多い熱帯地域が南北に広がるのと同時に、乾燥地域も北に広がってくるそうで、熱帯と乾燥、正反対の現象が温暖化の影響として起こってきます。スペインのような半乾燥地域がさらに乾燥して水資源が減少することが最大の懸念点だと、沖氏は言います。逆に、アラスカ、シベリアあたりでは、温暖化が進むことで農地により適した土地になり、単純に考えれば、温暖化はむしろ歓迎すべきことになるという見方もあるのだとか。しかし、土地を開墾して農地にするには非常に手間がかかります。人的・資金的な投資、収穫した農作物をどう運ぶかといったロジスティックスなど、解決すべき問題は山ほどあり、農地化のためには本気で取り組まなければならない、と沖氏は語っています。
四大文明発生から、水を利用することで発展を遂げてきた人類ですが、自然の恵みを享受し続けるにはいろいろな課題をクリアしていく必要がありそうです。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
雑学から一段上の「大人の教養」はいかがですか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,500本以上。
『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
地球上の火山活動の8割を占める「中央海嶺」とは何か
海底の仕組みと地球のメカニズム(1)海底の生まれるところ
海底はどうやってできるのか。なぜ火山ができるのか。プレートが動くのは地球だけなのか。またそれはどうしてか。ではプレートは海底の動きの全てを説明できるのか。地球史規模の海底の動きについて、海底調査の実態から最新の...
収録日:2020/10/22
追加日:2021/05/02
「国際月探査」とは?アルテミス合意と月探査の意味
未来を知るための宇宙開発の歴史(9)宇宙開発を継続するための国際月探査
現在の宇宙開発は「国際月探査」を合言葉に掲げている。だが月は人類の移住先にも適さず、探査にさほどメリットがない。にもかかわらずなぜ「月探査」が目標として掲げられているのか。それは冷戦後、宇宙開発の目標を失った各...
収録日:2024/11/14
追加日:2025/09/16
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
組織のまとめ役として、どのように接すれば部下やメンバーの成長をサポートできるか。多くの人が直面するその課題に対して、「経験学習」に着目したアプローチが有効だと松尾氏はいう。では経験学習とは何か。個人、そして集団...
収録日:2025/06/27
追加日:2025/09/10
トランプ・ドクトリンの衝撃――民主主義からの大転換へ
トランプ・ドクトリンと米国第一主義外交(1)リヤド演説とトランプ・ドクトリン
アメリカのトランプ大統領は、2025年5月に訪れたサウジアラビアでの演説で「トランプ・ドクトリン」を表明した。それは外交政策の指針を民主主義の牽引からビジネスファーストへと転換することを意味していた。中東歴訪において...
収録日:2025/08/04
追加日:2025/09/13
各々の地でそれぞれ勝手に…森林率が高い島国・日本の特徴
「集権と分権」から考える日本の核心(5)島国という地理的条件と高い森林率
日本の政治史を見る上で地理的条件は外せない。「島国」という、外圧から離れて安心をもたらす環境と、「山がち」という大きな権力が生まれにくく拡張しにくい風土である。特に日本の国土は韓国やバルカン半島よりも高い割合の...
収録日:2025/06/14
追加日:2025/09/15