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DATE/ 2017.06.29

仕事を辞めたいのに辞められないのはなぜか?

 今の仕事を辞めたいのに辞められない、と悩んでいる人は少なくないようです。「自分がいないと仕事が回らない」と周囲に気兼ねをするケースもあれば、「いい転職さえあれば」と転職エージェント頼みの人も、ひどいケースでは「辞めたら損害賠償を請求する」と会社から脅される人もいるのだそう。本当に自分都合だけで辞めることはできないのか?さまざまな角度から調べてみました。

従業員には、自分で会社を辞める権利がある

 まず、最初に社会のルールを確認しましょう。日本は法治国家ですから、個人も会社も法律に従う必要があります。

 憲法によれば、第十八条では「何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。」、さらに二十二条には「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。」と明記されています。どんな職業に就くのも、辞めるのも、個人の権利ということです。

 業種によっては、ライバル会社への転職を社内の規定で禁止(競業禁止)している会社がありますが、「職業選択の自由」を制限するものとして、会社の規定が無効と判断される場合もあります。判例によれば、競業禁止期間が1年以内であれば会社側の意向が認められやすく、3年以上では無効とされることが多いのだそう。同業他社への転職を考えている人は、自社の規定をチェックしておく必要がありそうです。

 また、自分の雇用契約に「雇用期間の定め」があるのかないのかも知っておきましょう。一般の正社員は「定めなし」、契約社員やアルバイトの場合は「定めあり」が多いようですが、多少手続きが異なります。「定めなし」で働いている正社員は2週間前に退職の申し入れをする必要があり、「定めあり」の契約社員でも、「契約期間」が1年以上であれば、原則いつでも退職することができます。

 いわゆるブラック企業などでは、「退職したい」と届けると、給与精算などの名目で、金銭を要求されるケースもあるようです。何に対してどのような要求がされているのか明快にした上で、労働基準局に相談しましょう。

「辞めたい」の裏側でブレーキになる「辞めたくない」心理とは

 「辞めたい」という心の裏側で「辞めたくない」という気持ちがブレーキをかけている、とみるのがアドラー心理学です。

 これは、転職だけではなく、すべてのライフスタイルに当てはまること。「変わりたい」と言いながら「変われない」のは、このままでい続ければ少なくとも対処することはできるのが、経験的に分かっているからです。引き換え、「変わって」しまった後はよくなる見込みがあるとは言え、新しい自分に何が起きるかわからないし、目の前の出来事にどう対処すればいいかもわからなくなります。

 不満はあっても、「このままの自分」でいるほうが楽で、安心だから、人は「変わらない」というのです。アドラー心理学では、そのことを過去や環境、能力のせいではなく、「幸せになる勇気」が足りないせいだと考えます。勇気の不足は、「人生のタスク」からの逃避を意味します。

 例えば、小説家になることを夢見ながら、文学賞に応募したことはない人がいるとします。本人は「忙しくて書く時間がない」と言うでしょうが、実は応募しないことによって、「やればできる」という可能性を残しておきたい。それが人生のタスクからの逃避です。思い切って応募しさえすれば、たとえ別の道を選ぶことになったとしても、前に進むことができる。ライフスタイルを変えるとは、そういうことなのだと、アドラー心理学は教えています。

「辞められない理由探し」に走っていませんか

 ホリエモンこと堀江貴文氏は、『すべての教育は「洗脳」である』(光文社新書)で、人が転職や起業のように自分でリスクをとる行動ができなく理由を「学校教育のせい」だと断じています。アドラー心理学でも、人がライフスタイルを選ぶのは10歳頃だと言っているので、重なるところがありそうです。

 著書の中でホリエモンは、「自殺したいくらい仕事が苦しい」という何人もの人たちと話した経験に触れ、「辞めたら次の職が見つからないかも」「人手不足だから自分が辞めたらまわりが迷惑する」などと「辞められない理由探し」に走っている状態の人を、我慢のせいで「心の健康をすでに害している」と指摘しています。

 実際には会社や学校をやめても「大変なこと」など起こらないのに、親や学校や社会全体から受ける「脅迫」のせいで、心理操作をされているのだ、というのです。これまでの受動的な「お勉強」の態度を捨て、能動的な「学び」の世界へ。没頭することこそ、人生の主体性を取り戻すカギだと、ホリエモンは主張します。

 人に与えられた1日の時間がみな24時間であるように、人生にも限られた時間しかありません。「無理に働かなくていい」「無理に家族に尽くさなくていい」という環境だったら、自分は24時間をどう使いたいのか。それが考えてみるべき問題なのかもしれません。

<参考文献>
・『「死ぬくらいなら会社辞めれば」ができない理由(ワケ)』(汐街コナ著、あさ出版)
・『すべての教育は「洗脳」である』(堀江貴文著、光文社新書)
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