社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
『健康格差社会への処方箋』が教える、3つの格差対策
ピケティの警告
近年、「格差」に対する関心がどんどん高まっているように感じます。新聞やテレビでは、毎日のようにニュースとして取り上げられています。日本でも話題となった世界的ベスセラーの『21世紀の資本』(トマ・ピケティ著)は、100年間の歴史分析を通して、格差をそのまま放置しておけばさらに格差が拡大することを警告しました。ただし、ひとくちに格差と言っても語り方はさまざまです。今回は、『健康格差社会への処方箋』(近藤克則著、医学書院)にそって、「健康格差」について紹介したいと思います。
なお著者の近藤克則氏は、2005年発刊の『健康各社社会-が心と健康を蝕むのか』(医学書院)において「健康格差」について早期に日本社会に警告した医学研究者です。現在、千葉大学予防医学センター社会予防医学研究部門かつ同大学院医学研究院公衆衛生学の教授であり、国立長寿医療研究センターで老年学・社会科学研究センター老年学評価研究部長も務められています。
東洋経済とNスペで特集
「健康格差」は、昨年、ビジネス誌の「週刊東洋経済」やNHKスペシャルで特集テーマとして取り上がれ、話題となりました。注目を集めはじめたのは、現実に健康格差の拡大に苦しんでいる人たちが増えているからではないでしょうか。はじめに、どうして健康格差は生まれるのかについて探っていきます。近藤氏は、3つの視点から原因を解説しています。1つ目は「ライフコース」、2つ目は「仕事と健康」、3つ目は「遺伝と環境」です。
「ライフコース」「仕事」「遺伝」
1つ目の「ライフコース」ですが、本書で「生まれる以前の親の社会階層などの因子や、生下時体重などの出生時の因子から成人期に至るまでのライフコースの因子が、健康状態にまで影響しているという理論に基づく研究」とあり、本人の胎児から成人に至る長期の生活過程だけでなく、親世代の生活状態などの影響にも注目しています。2つ目の「仕事と健康」というテーマにおいては、長時間労働や職業性ストレス、非正規雇用など雇用形態が健康に悪影響を及ぼすことを述べています。
3つ目の「遺伝と環境」では、社会的弱者は不健康が多いという健康格差を示した上で、「社会的弱者が生まれる一因として、遺伝は関与しているが(中略)育ち(環境)の影響は、全体としてみれば遺伝と同等以上にあると思われる」と解説しています。
いずれにしても、健康格差の原因は経済と密接に結びついているようです。つまり、健康格差と経済格差は切っても切れない関係にあるのでしょう。
スキルアップが健康につながる
上に挙げた3つのうち、「仕事と健康」がみなさんにとって一番身近なテーマではないでしょうか。ここでは、「仕事と健康」という視点から健康格差の対策をご案内します。近藤氏は、個人、職場、国の3つのレベルの対策が必要と指摘しています。まず、個人レベルでは、職業能力やストレス対処スキル、社会スキルの開発が健康格差の対策になると書かれています。仕事においてはストレスが健康に大きな影響を及ぼします。自分の能力を超えた要求をされた時、人はストレス状態になります。
そのため、職業能力の向上はストレス対策になるのです。また、社会スキルの向上は社会的サポートを受ける手立てになります。
3つのレベルの対策が必要
もちろん、個人レベルだけの対策では限界があります。企業には成果主義や非正規中心の雇用形態を修正するなど、個人のストレスをなるべく減らす取り組みが期待されます。そうした企業の取り組みを生み出していくためには、国レベルでの対策も不可欠です。とはいえ、企業や国が動かなければ個人はどうしようもないというわけではありません。企業や国の動きを注視しつつも、個人レベルでできることから試してみることが大事です。
例えば、本書にしたがうなら、職場でのストレスを減らすには、まずはスキルアップと休息の時間を確保することです。
その他にも、個々それぞれに合う方法があるはずです。一度、じっくりと生活を見直し、自分なりのオリジナルな方法を見つけてみてはいかがでしょう。
<参考文献>
『健康格差社会への処方箋』(近藤克則著、医学書院)
http://www.igaku-shoin.co.jp/bookDetail.do?book=89174
<関連サイト>
近藤克則氏のホームページ
http://katsunorikondo.wixsite.com/webpage
『健康格差社会への処方箋』(近藤克則著、医学書院)
http://www.igaku-shoin.co.jp/bookDetail.do?book=89174
<関連サイト>
近藤克則氏のホームページ
http://katsunorikondo.wixsite.com/webpage
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
「学ぶことが楽しい」方には 『テンミニッツTV』 がオススメです。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。
『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
忠犬ハチ公で哲学する…人と犬の関係から見えてくる道徳論
東大ハチ公物語―人と犬の関係(1)上野英三郎博士とハチ
東京大学大学院人文社会系研究科教授・一ノ瀬正樹氏が、海外でも有名な「ハチ公」の逸話を例に、人と犬の関係について考察する。第一回目は、ハチの飼い主・上野英三郎博士について触れ、東大とハチ公の結びつきや、東大駒場キ...
収録日:2017/04/04
追加日:2017/06/13
使えるデータで「健康のプラットフォーム」を実現しよう
産業イニシアティブでつくるプラチナ社会(3)健康産業イニシアティブ実装に向けて
「プラチナ社会」の実現には、人々の健康もその重要な指標になる。それを支える「健康産業イニシアティブ」とは、いったいどのような構想なのか。日本の弘前大学をはじめ、アジアの周辺諸国で集められるビッグデータを資源に、...
収録日:2025/04/21
追加日:2025/10/29
変人募集中…0から1を生める人、発掘する人、育てる人
エンタテインメントビジネスと人的資本経営(4)エンタメで一番重要なのは「人」
エンタメビジネスにおいて一番大切なのは「人」である。さらに、「0から1を生める」クリエイターが必須であることはいうまでもないが、そのような人材だけではエンタテインメントビジネスは成立しない。時として異能で多様なク...
収録日:2025/05/08
追加日:2025/10/28
正直とは何か――絶対的存在との信頼関係の根幹にあるもの
徳と仏教の人生論(2)和合の至りと正直
『書経』を研究する中で発見した真理について理解を深めていく今回。徳は天をも感動させる力を持ち、真の和合は神を動かす。そして、宇宙は人間のように、また人間も宇宙のように構成されており、その根底には「正直」がある。...
収録日:2025/05/21
追加日:2025/10/25
一強独裁=1人独裁の光と影…「強い中国」への動機と限界
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(1)習近平の歴史的特徴とは?
「習近平中国」「習近平時代」における中国内政の特徴を見る上では、それ以前との比較が欠かせない。「中国は、毛沢東により立ち上がり、鄧小平により豊かになり、そして習近平により強くなる」という彼自身の言葉通りの路線が...
収録日:2025/07/01
追加日:2025/09/25


