社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
「知識」が造った東大寺の廬舎那仏
「仏像」といえば東大寺は奈良の大仏(廬舎那仏金銅像)を思い浮かべる方も多いと思いますが、聖武天皇(701~756年)の発願で造られたこの仏さまは、天皇の力、その財力によって造られたわけではありません。実は、民衆の「知識」があってこそ成し得たものだったのです。
そもそも菩薩とは、悟りを得るための修行を積みながら、衆生を仏道に導く、いわば悟りを開いた仏と人間の間にある存在です。自らも修行を重ねながら周囲を導き、悟りに近づこうとする菩薩の心を知ることは、現世で煩悩に惑わされながら生きている人間にとって大きな支えとなっていたのでしょう。
こうして、東大寺は総国分寺として国家と強く結びつきながら、「知識」で成った廬舎那仏で、民衆とも密接につながって、仏の教えを語り継いできたのです。
北河原氏は、その一因は戦後民主主義にもあると考えます。個人の権利の確立を目指し、個が尊重されるようになったのはよいことである反面、「他人よりまず自分」の風潮が主流になってしまった、と。
そこで北河原氏は、近年増えているお年寄りの孤独死の話を挙げながら、こう話しています。「お節介を焼く必要はないのですが、せめて普段から、ちょっとしたことでいいから、それこそ“こんにちは”とか“おはようございます”、あるいは“元気ですか”というぐらいのことでも十分なのです。そうやって、他者を慮るという心持ちが薄れているのではないか」
かつて他者を思いやる菩薩の精神を行き渡らせることを願って大仏さまが造られた時、民衆がそれに協力しました。時代は変わっても、その時の聖武天皇の思いは大事に引き継いていきたいですね。
「知識」が造った東大寺の廬舎那仏
ここでいう「知識」とは、いわゆる現代の“knowledge”のことではなく「協力者」を意味すると、東大寺長老である北河原公敬氏は言います。地域の人たちのお金や材料、労力などの協力を得て造られた寺が、天平期の河内大県郡(現在の大阪府柏原市)にありました。その名も知識寺といって、この寺を聖武天皇が740年の行幸の際に訪れ、人々の力が結集して造ったという点に着目したのだとか。天皇は、縁で結ばれた人たちの協力で仏像を造る、そのことで菩薩の心に近づくことができる、知ることができると考えたに違いありません。そもそも菩薩とは、悟りを得るための修行を積みながら、衆生を仏道に導く、いわば悟りを開いた仏と人間の間にある存在です。自らも修行を重ねながら周囲を導き、悟りに近づこうとする菩薩の心を知ることは、現世で煩悩に惑わされながら生きている人間にとって大きな支えとなっていたのでしょう。
こうして、東大寺は総国分寺として国家と強く結びつきながら、「知識」で成った廬舎那仏で、民衆とも密接につながって、仏の教えを語り継いできたのです。
今、菩薩の心が薄れている
北河原氏は、「今、菩薩の心が薄れている」と感じると言います。しかし、人々がその心を失ったわけではありません。その証拠に、たとえば、東日本大震災といった大災害の時には、多くの人が救いの手を差し伸べ、ボランティアとして活動しました。ただその心は「いざという時」にしか、なかなか表れることがありません。あるいは、自分の知っている人が困っているのを目にすれば、皆、躊躇なく助けようとするけれども、日常のありふれた場面、見知らぬ人々の中では、見て見ないふりをしたり、日本人らしい思いやりの心が発揮されません。こうしたことに、北河原氏は非常に危機感を抱いているのです。北河原氏は、その一因は戦後民主主義にもあると考えます。個人の権利の確立を目指し、個が尊重されるようになったのはよいことである反面、「他人よりまず自分」の風潮が主流になってしまった、と。
他者への節度ある関心を示すことが大事
そこで取り上げたいのは、かつてはよくご近所さんと交わしていた「いいお天気ですね。今日はどちらまで?」「ええ、ちょっとそこまで」といった、何気ない挨拶です。このやりとりですが、返事はワンパターンで決まっているからこの挨拶に意味はないよね、などと思う方もいるかもしれません。そこで北河原氏は、近年増えているお年寄りの孤独死の話を挙げながら、こう話しています。「お節介を焼く必要はないのですが、せめて普段から、ちょっとしたことでいいから、それこそ“こんにちは”とか“おはようございます”、あるいは“元気ですか”というぐらいのことでも十分なのです。そうやって、他者を慮るという心持ちが薄れているのではないか」
かつて他者を思いやる菩薩の精神を行き渡らせることを願って大仏さまが造られた時、民衆がそれに協力しました。時代は変わっても、その時の聖武天皇の思いは大事に引き継いていきたいですね。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
自分を豊かにする“教養の自己投資”始めてみませんか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。
『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
日本でも中国でもない…ラストベルトをつくった張本人は?
内側から見たアメリカと日本(1)ラストベルトをつくったのは誰か
アメリカは一体どうなってしまったのか。今後どうなるのか。重要な同盟国として緊密な関係を結んできた日本にとって、避けては通れない問題である。このシリーズ講義では、ほぼ1世紀にわたるアメリカ近現代史の中で大きな結節点...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/11/10
知ってるつもり、過大評価…バイアス解決の鍵は「謙虚さ」
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(3)認知バイアスとの正しい向き合い方
人間がこの世界を生きていく上で、バイアスは避けられない。しかし、そこに居直って自分を過大評価してしまうと、それは傲慢になる。よって、どんな仕事においてももっとも大切なことは「謙虚さ」だと言う今井氏。ただそれは、...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/16
「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ
「宇宙の創生」の仕組みと宇宙物理学の歴史(1)宇宙の階層構造
宇宙とは何かを考えるうえで中国の古典である『荘子』・『淮南子(えなんじ)』に由来する「宇宙」という言葉が意味から考えてみたい。続いて、地球から始まり、太陽系、天の川銀河(銀河系)、局所銀河群、超銀河団、そして大...
収録日:2020/08/25
追加日:2020/12/13
なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(1)サイバー・フィジカル融合と心身一如
現代社会にとって空海の思想がいかに重要か。AIが仕事の仕組みを変え、超高齢社会が医療の仕組みを変え、高度化する情報・通信ネットワークが生活の仕組みを変えたが、それらによって急激な変化を遂げた現代社会に将来不安が増...
収録日:2025/03/03
追加日:2025/11/12
日本は素晴らしい歴史史料の宝庫…よい史料の見つけ方とは
歴史の探り方、活かし方(1)歴史小説と史料探索の基本
「歴史を探索していく」とは、どういうことなのだろうか。また、「歴史を活かしていく」とはどういうことなのだろうか。歴史作家の中村彰彦氏に、歴史を探り、活かしていく方法論を、具体的に教えてもらう本講義。第一話は、歴...
収録日:2025/04/26
追加日:2025/11/14


