社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2017.10.16

すべて見栄えのため…「インスタ映え」問題とは

 ガラケーの時代は今や昔、もはやパソコンと変わらない性能を持つスマホの時代では、SNSブームの広まりはとどまるところを知りません。TwitterやFacebookを筆頭に、さまざまな交流サイトが増えています。

 みなさんは、「インスタ映え」という言葉を聞いたことがありますか?「インスタ」とは「インスタグラム(Instagram)」という、自分の撮った写真を投稿、共有して他人と交流できるアプリの略称です。つまり、「インスタ映え」とは、インスタグラムに「映え」る写真を撮影することを意味します。

 しかしこの「インスタ映え」を気にするあまり、一部のユーザーが過剰な行動を取り、問題になっているのです。

「人物像」づくりに必死になるユーザー

 インスタグラムは日々の生活の中の1コマを投稿し、お互いに「いいね」をつけあって、交流します。例えば、「今夜のご飯はカレーです」と文字と一緒に、カレーの写真を投稿したり、旅行で○○にいますと、その風景写真を投稿したり、といった具合です。

 これだけであれば、さほどユーザーが過剰な行動に出ることもなさそうですが、こうした投稿写真から、投稿者がどんな人物で、どんな生活を送り、何をしているか、うっすらとその「人物像」が浮かび上がってきます。誰しも、少しの見栄は張りたくなるものですが、このSNS上の「人物像」をつくりあげることに、“必死”になってしまうユーザーがいるのです。

問題になっている過剰行動

 代表的な過剰ユーザーの行動を挙げてみましょう。

・見た目のカワイイ食べ物を購入し、撮影だけして捨ててしまう。
・ひとりで食事をしているのに、ふたりでいるように見せるため、食事や飲み物を2人分注文して食べずに残してしまう。
・ブランドバッグや人気のグッズを購入して撮影を終えると、すぐに売ってしまう、捨ててしまう。
・立入禁止の場所や、危ない場所に立ち、見栄えのする写真を撮る。

「食べ物を大切にする」「ものを大切にする」ことは、それを作った人、使われている材料となった動物や植物への感謝、そこにあるものだけでなく、人そのものへの愛情も育みます。ところが、SNS上の理想の自分を追求するあまり、こうした行動を取る人が少なくないのです。また「立入禁止」の場所へ入ってしまう等、むやみにルールを破り、トラブルに発展した事例や、危険な行動を取り事故死するという事件も起きているのです。

 これは決してインスタグラムだけの問題ではなく、TwitterやFacebook、YouTubeでも同様のことが言えます。それぞれのSNSのユーザー層や、目的とする内容が違うため、事情は異なりますが、TwitterやYouTubeでは、話題になりたいがため、食べ物にわざと虫を混入させ、「異物混入」に見せかけた写真がアップされたり、コンビニのアイスケースの中に人が入り込む動画が投稿されたりもしました。

 また近年、インスタグラムやFacebookなどで映える写真を提供したり、友だちがたくさんいるように見せかけるため、疑似パーティの場で一緒に写真撮影を行ったりする業者もいます。

見せかけの自分にはいつか限界が来る

「自分をよく見せたい」、「理想の自分に近づきたい」、「人気者になりたい」というのは、人として当たり前の感情でもあります。負の側面だけでなく、インスタグラムでの撮影の腕を認められ、プロのカメラマンとなったユーザーも存在しますので、もちろん、一概にすべての投稿行為が「よくない」わけではありません。

 SNSへの投稿は、たくさんの人に見てもらうことができます。すてきな写真を撮れば、その分「いいね」がつき、嬉しくなるのも事実です。写真好き同士が仲間を見つけ合うこともすてきなことでしょう。すてきな写真を撮りに、旅に出ることもすばらしいことです。

 しかし、「いいね」の数を自分の“存在価値”にしてしまってはいけません。見せかけの自分にはいつか限界が来ます。美しい部分、かっこいい部分だけでなく、醜いところや、恥ずかしいところを見せ合い、理解し合うことで、人は本当の信頼を築いて行くからです。

 本来は便利で楽しいSNSサイト。きちんと現実世界に根を張り、適度に利用していくことが大切です。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
より深い大人の教養が身に付く 『テンミニッツTV』 をオススメします。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

『100万回死んだねこ』って…!?記憶の限界とバイアスの役割

『100万回死んだねこ』って…!?記憶の限界とバイアスの役割

何回説明しても伝わらない問題と認知科学(2)バイアスの正体と情報の抑制

「バイアスがかかる」と聞くと、つい「ないほうが望ましい」という印象を抱いてしまうが、実は人間が生きていく上でバイアスは必要不可欠な存在である。それを今井氏は「マイワールドバイアス」と呼んでいるが、いったいどうい...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/09
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授
2

日本でも中国でもない…ラストベルトをつくった張本人は?

日本でも中国でもない…ラストベルトをつくった張本人は?

内側から見たアメリカと日本(1)ラストベルトをつくったのは誰か

アメリカは一体どうなってしまったのか。今後どうなるのか。重要な同盟国として緊密な関係を結んできた日本にとって、避けては通れない問題である。このシリーズ講義では、ほぼ1世紀にわたるアメリカ近現代史の中で大きな結節点...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/11/10
3

デカルトが注目した心と体の条件づけのメカニズム

デカルトが注目した心と体の条件づけのメカニズム

デカルトの感情論に学ぶ(1)愛に現れる身体のメカニズム

初めて会った人なのになぜか好意を抱いてしまうことがある。だが、なぜそうした衝動が生じるのかは疑問である。デカルトが友人シャニュに宛てた「愛についての書簡」から話を起こし、愛をめぐる精神と身体の関係について論じる...
収録日:2018/09/27
追加日:2019/03/31
津崎良典
筑波大学人文社会系 教授
4

「白人vsユダヤ人」という未解決問題とトランプ政権の行方

「白人vsユダヤ人」という未解決問題とトランプ政権の行方

戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(3)未解決のユダヤ問題

保守的な軍国化によって、内戦への機運が高まっているアメリカだが、MAGAと極左という対立図式は表面的なものにすぎない。その根本に横たわっているのは白人とユダヤ人という人種の対立であり、それはカーク暗殺事件によって露...
収録日:2025/09/24
追加日:2025/11/06
東秀敏
米国大統領制兼議会制研究所(CSPC)上級フェロー
5

「境地は裏切らない」とは?禅の体験から見えてきたもの

「境地は裏切らない」とは?禅の体験から見えてきたもの

徳と仏教の人生論(6)物事の本質を見極めるために

10年の修行で自我を手放し宇宙と一体化する境地に達すると、自分中心からホリスティックな視点に変わり、物事の表と裏の共通点が見えてきて、その本質がつかめるという田口氏。人生は常に新たな命題を解き明かし続ける旅である...
収録日:2025/05/21
追加日:2025/11/08