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DATE/ 2017.11.01

水と油の連立政権はどこまで続くのか?

 1999年10月「自自公」連立による小渕第2次改造内閣が発足して以来、17年あまり。途中2009年から2012年の民主党時代をはさむものの、自民党と公明党の連立自体は揺らぎを見せていません。2016年、『自民党と創価学会』(集英社新書)により、この問題を追及した評論家の佐高信氏は、自公連立の歴史的経緯を再点検するべき時期だと語っています。

「水と油」だった自民党と公明党

 佐高氏が「自公連立」に対する批判を展開するのは、主に自民党の姿勢に対するものです。というのも、もともと両党の関係は「水と油」。自由民主党の機関紙「自由新報」には、1994年7月以降20回にわたって、激しい公明党および創価学会批判が連載されたこともあります。その自民党と公明党が、約5年後に連立政権を組み、現在では野党共闘を「野合」呼ばわりしていることに、佐高氏は物申しているのです。

連立のきっかけは「密会ビデオ」?

 自民党は、福田赳夫から現在の安倍晋三氏に至る「清和会」がいわゆる右翼的な「タカ派」の流れであるのに対して、池田勇人や田中角栄のつくる宏池会は「ハト派」のリベラルな流れだとすると、公明党は結びつくのはタカ派と結びつくことになるのです。

 そのきっかけとして、忘れられないのが「密会ビデオ」事件です。当時、公明の代表を務めた人物と山口組傘下の後藤組組長の密会現場を映したビデオテープが自民党に渡り、公明党は完全に屈服した、と佐高氏は話しています。

 密会ビデオを入手したのは、当時清和会に所属していた亀井静香氏、実際に両党の窓口として働いたのは野中広務氏だといいます。野中氏の回想録では、公明党篭絡の方法を問われた野中氏が、「叩きに叩いたら、向こうからすり寄ってきた」と返答しています。また、2008年に暴力団を引退し、得度した後藤氏は著書『憚りながら』(宝島社)の中に、「創価学会との攻防」の一章を設けています。

 こうした一連の流れへの反応として、「ヤクザより政治家のほうが汚いね」という発言を佐高氏は聞き漏らさず、著書に記しています。弱みを握られた公明党が、自民党に対する協力を要請されたことは明らかで、到底対等な「連立」とは言えないからです。
 

佐高氏が連立に警鐘を鳴らす理由

 実際、現在の小選挙区では、自民党の候補者は、創価学会票の下駄を履かなければ、当選は難しくなっています。創価学会の集票力に信頼が置けることが、自公連立政権の存続を磐石にしてきたのです。そして、野中広務氏以来、創価学会を押さえた人物が自民党の実力者になるという構図が始まりました。現在の安倍政権で、その役割を継承しているのは菅義偉官房長官だと佐高氏は見ています。

 さらに、安倍首相自身が、最初に首相になった2006年、就任の直前に創価学会名誉会長の池田大作氏と面談したことも、多くの新聞が報道した事実です。安倍氏は、首相就任後も公明党の大会に出席して、「御党と岸家の関係は、自分の祖父(岸信介)の代にまでさかのぼる」と強調しています。

 公明党が理念を捨てて結びついたのは、自民党の中でもタカ派と呼ばれる会派だったわけですが、これについて危惧する本が50年近く前に出版されています。TBS系列の『時事放談』で、細川隆元氏とともにホスト役を務めた政治学者の藤原弘達氏が1969年に著した『創価学会を斬る』です。

 藤原氏は自民党の中にある「右翼的、ファシズム的要素」と公明党の中にある「宗教的ファナティックな要素」が結合して日本がとんでもない状況になるということを恐れていた、と佐高氏は分析。「そうなったときには日本の議会政治、民主政治もまさにアウトになる」という半世紀前の危機感を、佐高信氏もまた共有しているのです。
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