テンミニッツ・アカデミー|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツ・アカデミーとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2017.11.02

激増する「異業種参入」は上手くいくのか?

 掃除機のダイソンがEV(Electric Vehicle/電気自動車の略)市場へ、学習塾の公文式が認知症予防ビジネスに、ソニーとパナソニックは介護事業に参入するなど、「異業種参入」がいま激増しています。

 もちろん、その挑戦には成功もあれば失敗もあります。昨今の異業種参入の例をいくつか検証してみたいと思います。

日本の大手家電メーカーもEV参入か

 異業種参入でも最も注目を集めているのはやはり、ダイソンのEVへの参入でしょう。創業者のジェームズ・ダイソン氏は「スポーツカーでも低価格車でもない、現在のEVとは異なるクルマになる」とその構想を述べています。

 ところで、ダイソンにできるなら日本の家電のメーカーにもできるのではないかと思いたくなりますが、現実的に、日本企業にもEVへの異業種参入のチャンスはあるのでしょうか。

 「@niftyニュース」の井元康一郎氏(自動車ジャーナリスト)の記事によると、日本のEV技術は世界最先端レベルであり、EVのスタートアップ自体は、雨後の筍のごとく出現しているのだそうです。しかしながら、失敗例が続いているため、「ステークスホルダーがアレルギー反応を示す傾向が強い」ということです。

 そんななか、「環境ビジネスオンライン」において、EV普及を推進している環境コンサルタントの村沢義久氏は「日本の大手家電メーカーの中にも参入が噂されるところがある」と述べています。

 EV参入に対して、ダイソンがもたらしたポジティブなイメージが持続しているうちは、ネガティブイメージの強い日本においても、支持される可能性が高いのではないでしょうか。

ニチイ、ベネッセ、大手資本が勝つ介護ビジネス

 「ダイヤモンドオンライン」では「介護ビジネスへの新規参入がことごとく失敗する理由」という記事で、介護ビジネスへの異業種参入について述べています。

 2000年度の「介護保険制度」開始によって、介護ビジネスへの異業種参入が相次ぎました。「医療事務のニチイ学館、教育事業のベネッセ、警備会社のセコムなどがその代表例」です。

 しかしながら、事業者は「(1)3年ごとの報酬改定(どんどん下がっている)、(2)介護人材が採用できない、(3)利用者が獲得できない、(4)厳しい決まり(法律・規制等)」で縛られており、違反すると退場させられる」ため、「実際は失敗して、撤退するケースが多いのが現状」なのだそうです。

 それでも「大手資本が運営する都心にある一部の高級有料老人ホーム系は、堅実に事業拡大」しています。気になる「異業種から介護サービスに参入した企業は、『本業との相乗効果』を狙っているというが、その結果が見えてくるまでにはまだ時間がかかりそう」とのこと。

 「日経デジタルヘルスケア」によると、2017年3月期中間決算において、ニチイとベネッセは営業利益を伸ばしています。

ネガティブ参入や簡単にマネできる事業展開は長続きしない

 「日刊ゲンダイ」では、株式評論家の倉田慎之介氏が「追い込まれてのネガティブ参入や、簡単にマネできるような事業展開は長続きしないことが多い」と失敗する理由を指摘しています。

 一方、成功例として、富士フイルムの化粧品や森下仁丹のバイオカプセルの例を挙げて、「やはり企業にとって大事なのはヒト、カネ、モノ」であり、「びくともしない土台とオリジナル性が求められます」と述べています。

 非常に簡潔で納得のいく説明です。介護ビジネスの例では、「儲かる」という理由だけで独自性なき参入者が押し寄せました。新規参入、異業種参入はそう簡単にはいきません。

 異業種参入は、大企業だから成功するというわけでもありません。過去にオムロン、ユニクロは農業に参入し、失敗しました。成功の大前提は、倉田氏が指摘するように「ヒト、カネ、モノ」の充実と「オリジナル性」がポイントの一つなのかもしれません。

 ただし、絶対はありません。会社の体力、業界の性格、参入のタイミング、その他さまざまな要素の複雑な組み合わせが、結果を左右するといえるでしょう。

<参考サイト>
・@niftyニュース:ダイソンまで参入のEV スタートアップ企業の「本当の評価」
https://news.nifty.com/article/economy/economyall/12180-619625/
・ダイヤモンドオンライン:介護ビジネスへの新規参入がことごとく失敗する理由
http://diamond.jp/articles/-/106534?page=2
・日経デジタルヘルス:介護大手各社の2017年3月期中間決算出そろう
http://techon.nikkeibp.co.jp/atcl/feature/15/327421/120900031/?ST=health
・日刊ゲンダイ:スーツの青山は焼肉…企業の“異業種参入”買いか見送りか
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/199188/2
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
雑学から一段上の「大人の教養」はいかがですか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,500本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

契機は白村江の戦い…非常時対応の中央集権国家と防人の歌

契機は白村江の戦い…非常時対応の中央集権国家と防人の歌

「集権と分権」から考える日本の核心(2)非常時対応の中央集権と東アジア情勢

律令国家は中国の先進性に倣おうと始まったといわれるが、実際はどうだろうか。当時の日本は白村江の戦いの後、唐と新羅が日本に攻め込むのではないかという危機感から「防人」という徴兵制をつくった。徴兵には戸籍を充実させ...
収録日:2025/06/14
追加日:2025/08/25
片山杜秀
慶應義塾大学法学部教授 音楽評論家
2

「学びの危機」こそが現代社会と次世代への大きな危機

「学びの危機」こそが現代社会と次世代への大きな危機

「アカデメイア」から考える学びの意義(1)学びを巡る3つの危機

混迷を極める現代社会にあって、「学び」の意義はどこにあるのだろうか。次世代にどのような望みをわれわれが与えることができるのか。社会全体の運営を、いかに正しい知識と方針で進めていけるのか。一人ひとりの人生において...
収録日:2025/06/19
追加日:2025/08/13
納富信留
東京大学大学院人文社会系研究科教授
3

カーボンニュートラル達成へ、エネルギー政策の変革は必須

カーボンニュートラル達成へ、エネルギー政策の変革は必須

日本のエネルギー政策大転換は可能か?(3)エネルギー政策大転換への提言

洋上や太陽光を活用した発電の素地がありながらその普及が遅れている日本。その遅れにはどのような要因があるのだろうか。最終話では、送電網の強化など喫緊の課題を取り上げるとともに、エネルギー政策を根本的に変換させる必...
収録日:2025/04/04
追加日:2025/08/24
鈴木達治郎
長崎大学客員教授 NPO法人「ピースデポ」代表
4

同盟国よもっと働け…急激に進んでいる「負担のシフト」

同盟国よもっと働け…急激に進んでいる「負担のシフト」

トランプ政権と「一寸先は闇」の国際秩序(3)これからの世界と底線思考の重要性

トランプ大統領は同盟国の役割を軽視し、むしろ「もっと使うべき手段だ」と考えているようである。そのようななかで、ヨーロッパ諸国も大きく軍事費を増やし、「負担のシフト」ともいうべき事態が起きている。そのなかでアジア...
収録日:2025/06/23
追加日:2025/08/21
佐橋亮
東京大学東洋文化研究所教授
5

ウェルビーイングの危機へ…夜型による若者の幸福度の低下

ウェルビーイングの危機へ…夜型による若者の幸福度の低下

睡眠から考える健康リスクと社会的時差ボケ(4)社会的時差ボケとメンタルヘルス

社会的時差ボケは、特に若年層にその影響が大きい。それはメンタルヘルスの悪化にもつながり、彼らの幸福度を低下させるため、ウェルビーイングの危機ともいうべき事態を招くことになる。ではどうすればいいのか。欧米で注目さ...
収録日:2025/01/17
追加日:2025/08/23
西多昌規
早稲田大学スポーツ科学学術院教授 早稲田大学睡眠研究所所長