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DATE/ 2017.11.23

「有給消化率100%」驚異的な国とは?

 日本の有休消化率は、2016年にエクスペディア・ジャパンが28か国を対象に行った調査で最下位でした。

 ブラジル、フランス、スペイン、オーストリア、香港は100%、次いでイタリアが83%、アメリカとメキシコが80%という結果になっています。最下位の日本はなんと50%でした。

日本人は世界一の休み下手

 日本は、有給休暇消化率が最下位だったにもかかわらず、「休み不足を感じている割合」でも最下位、つまり、休み不足を全然感じておらず、「有給取得に罪悪感を感じる人の割合」で第2位、「自分の有給支給日数を知らない人の割合」でダントツのトップとなっていて、エクスペディア・ジャパンでは「日本人は世界一の休み下手」という残念なタイトルを手にしてしまいました。

 こんなに一生懸命働いているのだから、経済は好調かと言われれば、その実感はあまりなく、上に挙げた先進国と比べてもさほど状況は変わらないでしょう。

 それならもっと休むべきだと思うのですが、そう器用にはできないのが「世界一の休み下手」の日本人。

ドイツ人は午後5時まで頑張って働き、日本人は午後5時から頑張って残業する

 労働時間は短いが、経済は絶好調なのがドイツです。『5時に帰るドイツ人、5時から頑張る日本人 ドイツに27年住んでわかった 定時に帰る仕事術』の著者・ 熊谷徹氏は、「東洋経済オンライン」の記事において、「大半のドイツ人サラリーマンは管理職でもない限り、ほとんど残業をしない」、「ドイツの年平均労働時間は1371時間(日本は1719時間)とかなり短いにもかかわらず、労働生産性は日本を約46%も上回っている」と語っています。

 熊谷氏の本のタイトルにある通り、「ドイツ人は午後5時まで頑張って働き、日本人は午後5時から頑張って残業する。ドイツでは午後3時に退勤するケースもあるくらいだが、それでもドイツ経済は絶好調」なんだそうです。

長時間残業に対する厳しい罰則

 ドイツでは1日10時間を超える労働が禁止されていて、さらに、6カ月間の平均労働時間は1日8時間以下にしなくてはいけないと法律で定められているのだそうです。

 しかも、「組織的な長時間労働が発覚した場合、刑事事件に発展することもある」。また、「企業が事業所監督局から罰金の支払いを命じられた場合、会社の金で罰金を払うのではなく、長時間残業をさせていた部署の管理職に“自腹で”払わせることがある」とのこと。これが、日本との大きな違いです。

 「働き方改革」の着地点を模索する日本が、労働先進国のドイツから学べることは少なくないでしょう。「YOMIURI ONLINE」において、熊谷氏は、「一朝一夕に変えることは、まず無理」だが、「それでも希望を捨てずに、身近なところから変えられることを探すべきだ」と述べ、社内においては「1日10時間」でできないことは「できない」と正直に打ち明けられる環境をつくることが打開の一歩になると指摘しています。ちなみに「ドイツ語に“頑張る”という言葉はない」のだそうです。

 ドイツにも課題はあります。NHK「国際報道2017」によると、ドイツでも日本と同様に派遣社員が急増しており、「ドイツ最大の労働組合は、正社員の労働環境を守るために派遣社員が犠牲になっていると指摘」しているとのことです。

 ということで「働き方改革」では、ドイツから学ぶだけでなく、ドイツを超えるような、正社員も非正社員もどちらも分け隔てなくすべての労働者のワーク・ライフ・バランスを守るしくみ作りをぜひとも目指してもらいたいものです。

<参考サイト>
・『5時に帰るドイツ人、5時から頑張る日本人 ドイツに27年住んでわかった 定時に帰る仕事術』(熊谷徹著、SB新書)
・エクスペディアジャパン:有休消化率3年ぶりに最下位に!有給休暇国際比較調査2016
https://welove.expedia.co.jp/infographics/holiday-deprivation2016/
・東洋経済オンライン:長時間労働で「管理職に罰金刑」ドイツの実際
http://toyokeizai.net/articles/-/192674
・YOMIURI ONLINE:働き方改革、ドイツに学ぶべき点はここだ
http://www.yomiuri.co.jp/fukayomi/ichiran/20161006-OYT8T50042.html?page_no=3
・NHK国際報道2017:ドイツに学ぶ『働き方改革』
https://www.nhk.or.jp/kokusaihoudou/archive/2017/02/0201.html
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一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授