社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
昔の東京の「ワンダーランド性」は今でもあるのか?
ワンダーランド=不思議の国の魅力は、いかにすれば保てるか。どこかのテーマパークの話をしているのではありません。首都・東京に半世紀前までは実在した「ワンダーランド」性が、いつなくなってしまったのか。取り戻すには、どのような都市デザインが必要なのか。過去と未来へ、同時に思いをめぐらせるのは、政治学者で慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授の曽根泰教氏です。
これほど、本来の意味でのアトラクション(魅力・牽引力)が多彩にそろっていた街は、世界中どこにもないはずだと曽根氏は断言します。街中にそんな空気があふれていれば、それほど芸術に興味がなくても、美術展があると聞けば2時間待ちの行列に並ぶようになる。なかには失敗や失望もあったでしょうが、一つずつ自分の目や耳で確かめていくことが、自分で自分を教育することにつながっていったはずです。
同じような効果は東京以外の地方都市には残念ながら認められず、海外に求めると、とんでもない富裕層にたどり着いてしまいます。子供の頃から音楽や美術など、本物の芸術に接する機会を豊富に持つのは、貴族を始めとする裕福な家庭の特権だと考えられている国がほとんどだからです。いい食事とワイン、いい絵と音楽を日常浴びるようにして育った階級の人々を前にすると、本だけに頭を突っ込んで勉強してきた人間はとてもかなわないと、21世紀の現在でさえ言われているほどです。
ワクワクするワンダーランドへ自分から入り込み、さまざまな刺激に自分をさらすことこそ、中高生の教育には最も重要なことでしょう。ひるがえって、今の東京にはこれらに相当するものがあるだろうかというのが、曽根氏の疑問です。
おそらく現役の中高生諸君は「ある」と答えるでしょう。秋葉原は様変わりしたものの、神田の古本街は健在だし、世界の一流に触れる展覧会や演奏会に至っては六本木や赤坂でも体験できるようになっている、と。
しかし、現在は情報過多の時代です。50年前の少年少女が抱いた「見たい!」「聞きたい!」「触れたい!」というヒリヒリするような渇望は、なくなりつつあるのが実情ではないでしょうか。未知への渇望こそ、憧れへの原動力。東京の今後の都市設計には、そのようなワンダーランド性がヒントになればいい、と曽根氏は考えています。
一日中歩いてもくたびれなかった神田の古本街
新宿から小一時間の郊外に住んでいた曽根少年が中高生だった頃、日曜日に訪れる東京は、知的好奇心を刺激するワンダーランドそのものだったといいます。理系ならいろいろな製品や部品がひしめく秋葉原の電気街、文系なら夢のような量と質の書籍に直面する神田の古本街、芸術系なら上野駅から左右に分かれて美術館や文化会館。また、息抜きには上野の鈴本や新宿の末廣亭で寄席の落語も気軽に楽しめました。これほど、本来の意味でのアトラクション(魅力・牽引力)が多彩にそろっていた街は、世界中どこにもないはずだと曽根氏は断言します。街中にそんな空気があふれていれば、それほど芸術に興味がなくても、美術展があると聞けば2時間待ちの行列に並ぶようになる。なかには失敗や失望もあったでしょうが、一つずつ自分の目や耳で確かめていくことが、自分で自分を教育することにつながっていったはずです。
同じような効果は東京以外の地方都市には残念ながら認められず、海外に求めると、とんでもない富裕層にたどり着いてしまいます。子供の頃から音楽や美術など、本物の芸術に接する機会を豊富に持つのは、貴族を始めとする裕福な家庭の特権だと考えられている国がほとんどだからです。いい食事とワイン、いい絵と音楽を日常浴びるようにして育った階級の人々を前にすると、本だけに頭を突っ込んで勉強してきた人間はとてもかなわないと、21世紀の現在でさえ言われているほどです。
渇望が少年少女のワクワクを呼んでいた?
海外ではエリートに占有されている贅沢な文化に接して自らを育てるチャンスが、1960年代の東京ではミドルクラスの少年少女にも開かれていました。地元の銀座や浅草育ちの生え抜きでなくても、郊外から毎週電車で通えば我が物顔で「東京」を使いこなすことができたのです。ワクワクするワンダーランドへ自分から入り込み、さまざまな刺激に自分をさらすことこそ、中高生の教育には最も重要なことでしょう。ひるがえって、今の東京にはこれらに相当するものがあるだろうかというのが、曽根氏の疑問です。
おそらく現役の中高生諸君は「ある」と答えるでしょう。秋葉原は様変わりしたものの、神田の古本街は健在だし、世界の一流に触れる展覧会や演奏会に至っては六本木や赤坂でも体験できるようになっている、と。
しかし、現在は情報過多の時代です。50年前の少年少女が抱いた「見たい!」「聞きたい!」「触れたい!」というヒリヒリするような渇望は、なくなりつつあるのが実情ではないでしょうか。未知への渇望こそ、憧れへの原動力。東京の今後の都市設計には、そのようなワンダーランド性がヒントになればいい、と曽根氏は考えています。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
雑学から一段上の「大人の教養」はいかがですか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,100本以上。
『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
繁華街・新宿のルーツ、江戸時代の遊女が働く飯盛旅籠とは
『江戸名所図会』で歩く東京~内藤新宿(2)「夜の街」新宿の原点
歌舞伎町を筆頭に、東京でも有数の繁華街を持つ新宿だが、その礎は江戸時代の内藤新宿にあった。遊女が働く飯盛旅籠(めしもりはたご)によって、安価に遊興できる庶民の「夜の街」として栄えた内藤新宿の様子を、『江戸名所図...
収録日:2024/02/19
追加日:2024/04/28
なぜ民主主義が「最善」か…法の支配とキリスト教的背景
民主主義の本質(1)近代民主主義とキリスト教
ロシアや中華人民共和国など、自由と民主主義を否定する権威主義国の脅威の増大。一方、日本、アメリカ、西欧など自由主義諸国における政治の劣化とポピュリズム……。いま、自由と民主主義は大きな試練の時を迎えている。このよ...
収録日:2024/02/05
追加日:2024/03/26
日本は再エネが難しい!?再エネ比率が高い国との相違点
日本のエネルギー&デジタル戦略の未来像(3)電力の部分最適と全体最適
サステナブルな電力の供給と消費が求められる現代社会。太陽光発電のように電力の生産拠点が多元化する中で、それぞれの電力需給と国全体の電力需給のバランス調整が喫緊の課題となっている。実はヨーロッパなどの「再エネ比率...
収録日:2024/02/07
追加日:2024/04/27
陰の主役はイラン!?イスラエル・ハマス紛争の宗教的背景
グローバル・サウスは世界をどう変えるか(4)サウジアラビアとイランの存在感
中東のグローバル・サウスといえば、サウジアラビアとイランである。両国ともに世界的な産油国であり、世界の政治・経済に大きな存在感を示している。ただし、石油を武器にアメリカとの関係を深めてきたのがサウジアラビアであ...
収録日:2024/02/14
追加日:2024/04/24
重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ
「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス
「重要思考」で考え、伝え、聴き、そして会話・議論する――三谷宏治氏が著書『一瞬で大切なことを伝える技術』の中で提唱した「重要思考」は、大事な論理思考の一つである。近年、「ロジカルシンキング」の重要性が叫ばれるよう...
収録日:2023/10/06
追加日:2024/01/24